シティ・モビリティ

公園を起点とした地域づくり ~「パークマネジメント」の実践事例から考える

主任研究員 福嶋 一太

公園を災害時の防災拠点やコミュニティ形成などに効率よく活用するための「パークマネジメント」という海外で発展してきた手法がある。公園の活性化を手段として地域課題を解決し、地域の価値を高めた海外の著名な事例から、日本の公園を起点とした地域づくりの可能性を考える。

1.パークマネジメントとは何か

パークマネジメントとは、公的ストックである公園に期待される防災やコミュニティ形成などの効果を効率的な技術や運営の手法を用いて最小限のコストで最大化させようとする手法1のことである。行政、民間、市民が連携した情報の発信やイベントなどを通じて、地域の公園を運営していく。

海外で発展してきた概念であるが、日本でも、近年都市部を中心に民間事業者による飲食店などの収益施設の設置管理が制度上可能になったことを受けて、同様の取組みが見られ始めている2

2.海外でのパークマネジメント

(1)位置づけと仕組み

英国、米国などを発祥とし、地域づくりや地域による経営などを目指した地域マネジメントの一環として発展してきたパークマネジメントには、地域によるマネジメントのための資金的な仕組みとしてBID(Business Improvement District)というスキームがある。これは、資産所有者や事業者が地域の発展を目指した様々な事業を行うための組織化と、市が公園に接する街区の不動産オーナーから固定資産に対して徴した賦課税をこの組織に再配分する財源調達の仕組み3である。本稿では、このスキームを契機に、自立性の高い公園への再生を果たした著名な事例として、米ニューヨーク市のブライアント・パークの取組みを紹介する。

(2)ブライアント・パークの荒廃から再生への取組み

ブライアント・パークは1870年に開業したマンハッタンのミッドタウンに位置する約4haの公園である。経済恐慌等を背景とした社会情勢から1970年代に著しく治安が悪化し、薬物、暴力、殺人事件などの犯罪の温床となり市民が立ち入り難い場所となった。

これに対処しようと1980年にBIDスキームの管理組織として市と周辺のビルオーナーらが共同でNPO法人「Bryant Park Restoration Corporation(BPRC)」を設立、市から委託を受ける形で公衆衛生、警備・保安等の管理、改善プログラムを7年間に亘って実施した結果、犯罪件数が92%減少4したとされる。

また、BPRCの取り組みには、パブリックスペースを、プレイス=人の居場所に変えていく、という「プレイスメイキング」という概念が用いられている。これは、パブリックスペースを地域コミュニティや市民のニーズを満たすコンテンツづくりのための地域資源と位置付け、市民の健康や幸福、快適な満足感に寄与する良質な空間にすることを通じて都市、地域を改善、再生することを目的としている。BPRC設立以降の7年間で、年間訪問者数は倍増し、その後も、公園を囲んでいた生垣の撤去による周囲からの視認性の向上や、歩行者通路、街灯、モニュメントの修復など人を呼び込むための改修を数多く実施した。現在ではコンサートや、ヨガ教室、パフォーマンス等、年間約800件のイベントが開催されている。冬季は巨大なスケートリンクと100軒を超える仮設店舗が設置される5など、近隣住民、周囲のオフィスワーカー光者など多くの人々が集う場所となっており、年間約1,200万人が訪れる6巨大な地域コミュニティを形成している。

(出典)Bryant Park ホームページ 資料より当研究所作成

さらに、公園の再生に伴って、周辺ビルの稼働率の向上などによる不動産価値の向上や、大規模テナントによるスポンサーとしての公園事業への参画などによって地域経済が活性化するとともに、「Bryant Park」というブランドとしての価値も高まったとされている7

加えて、運営を受託しているBPRCは行政からの補助金などの援助を受けず、スポンサー料やレストラン賃料など、営利事業による収入が主な収入源となっている。「経営する」という意識と運営がパブリック スペースを持続的にマネジメントする重要な視点のひとつであることが窺える。《図表1》

3.むすび

ニューヨーク市のブライアント・パークの公園担当者は「われわれは公園の管理や整備に公的資金を導入しているのではなく、地域の教育や福祉、健康のために資金を導入している。そのことで、公園の利用率も上がり、地域の安全や安心、不動産価値向上に結び付いている。年間何百回もあるパークアクティビティや周辺の子供向けのワークショップもそのためだ」と述べている9

紹介したとおり、ブライアント・パークの再生は、BIDという仕組みによる地域マネジメントのための資金的な初動から、治安改善という地域課題の解決、プレイスメイキングによる地域コミュニティの形成、不動産価値や地域のブランド価値の向上、地域経営の持続性の維持という好循環を生んでいる。

上記を踏まえれば、公園の活性化を手段とした地域課題の解決や地域づくりへのプロセスがパークマネジメントの本質と考えられる。

日本でもパークマネジメントの考え方を導入して地域の活性化やコミュニティづくりにつなげている例がある10。小規模の街区公園を含めた都市における日本の多くの公園は、高齢者の地域参加、子どもの安全、イベント等による世代間交流、防災減災拠点など、地域の実情に応じた様々な課題の解決への起点として期待し得る貴重な社会基盤のひとつになり得ると思われる。

  • 佐藤道彦・佐野修久[編]「まちづくりイノベーション公民連携・パークマネジメント・エリアマネジメント」(日本評論社、2019年3月)
  • 同上
  • 国土交通省 自立的・継続的な公民連携まちづくりの積極的推進を図るための基礎的調査 調査報告書(平成28年3月)第2章
    https://www.mlit.go.jp/common/001138898.pdf
    (visited Mar.16,2020)
  • 同上
  • 同上
  • 新・公民連携最前線PPPまちづくり「第8回米ブライアント・パークで成功した公園活性化とBIDによる運営のポイント」
    https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/032300072/020600009/
    (visited Mar.16,2020)
  • 一般財団法人 森記念財団「Bryant Park BID:官民連携による公園の魅力化の成功事例」(2015年5月)
  • 三友奈々「米国ニューヨーク市ブライアントパークを主題とした広場空間におけるプレイスメイキングの手法の検証と具体化」(2013年)
  • 前掲注 1
  • たとえば大阪市天王寺区にある天王寺公園では、エントランス部分に、多目的に利用できる約7000㎡の芝生広場を備え、周囲にはカフェ、レストランのほか、フットサルコートや有料の子どもの遊び場などのテナントを有している。(「てんしば」ホームページhttps://www.tennoji-park.jp/
    (visited Mar.16,2020))

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