保険・金融・デジタルテクノロジー

パーソナルデータ利活用のあり方 ~社会からの要請と事業者の課題~

主任研究員 堀田 周作

事業者は、データを利活用することによりイノベーションを創出し、サービス・製品の高度化を通じてデータ主体である個人や社会に新たな価値を提供することが期待されている。一方で、事業者による不適切なパーソナルデータの利用が発覚し、社会的な批判を受け経営に関わる問題となるケースも見られる。パーソナルデータの利活用において、事業者は個人情報保護法遵守の観点だけでなく、個人の不安を軽減し、信頼を獲得するよう積極的・能動的に対応することが求められている。

1.はじめに

社会のデジタル化が加速し、ネットワークに繋がったセンサー、カメラ等のIoTの活用が進む中ではサイバー空間の情報に加えて現実世界の情報も加わり、膨大なパーソナルデータ1が集約できるようになりつつある。また、AIを利用した分析・把握や予測等も発展しており、多くの事業者が新たな価値の創出や勝ち残りをはかりデータの利活用を進めている。一方で、就活生の同意なく内定辞退率を予測して企業に販売していた事例など、事業者による不適切なデータの利用が発覚し、社会的な批判を受け経営に関わる問題となるケースもみられ、データを提供する側である個人は、事業者のパーソナルデータの管理や利用について不安を感じている。本稿では、各種の調査結果をもとに日本におけるパーソナルデータの利活用のあり方について考察する。

2. 消費者の意識と事業者に求められるもの

(1)適切なデータ管理態勢

2020年に総務省からの請負によりみずほ情報総研が実施したデータの流通及び利活用に関する意識・状況調査2によると、78.2%の人が、事業者にパーソナルデータを提供することに不安を感じると回答している。提供することに特に不安を感じるパーソナルデータとして、「口座情報・クレジットカード番号」(92.5%の人が不安と回答)、「生体情報(顔情報・指紋など)」(同87.3%)、「氏名・住所」(同84.4%)、「位置情報・行動履歴」(同84.0%)が挙げられている。また、パーソナルデータを提供してもよいと考える条件では、「提供したデータの流出の心配がないこと」(同62.5%)、「自分のプライバシーが保護されること」、(同61.4%)、「提供したデータの悪用の心配がないこと」(55.7%)となっている。

パーソナルデータを提供する側の個人の不安は非常に大きく、利用する側の事業者は、パーソナルデータを漏洩・悪用しないことは当然として、取得するデータに応じた適切なセキュリティを確保し、必要に応じてデータに関わるガバナンス態勢を示すこと等により個人の不安を軽減していくことが求められる。

(2)わかりやすいユーザーインターフェイス

消費者庁が2020年に実施したデジタル・プラットフォーム利用者の意識・行動調査3によると、買い物系プラットフォームのサービス利用開始時やアカウント取得時に、プライバシーポリシーを「読む」または「どちらかというと読む」と回答した利用者は全体の36.1%にとどまっている。読まない理由として「分量が多い」「読んでもわからない」等が挙げられている。データの利用にかかわる情報を公表・通知し、必要な同意を得ることは個人情報保護法をはじめとする情報の利用・管理の基本的枠組みであり、わかりやすい情報提供やコミュニケーションを通じて利用者の理解や納得感を得ていくことが必要だろう。

また、2019年に日立と博報堂が合同で実施した調査結果4では、パーソナルデータの利活用で不安を感じる理由として、「パーソナルデータの利活用を望まない場合でも個人に拒否権がないこと(回答者の55.1%)」、「どのように活用するかの説明が十分になされていない、わかりやすく公表されていない(同48.4%)」が挙げられている。

事業者には、個人にとってわかりやすいインターフェイスを設け、パーソナルデータをどのような範囲で、どのように利用するかを認識しやすいよう説明し、さらに利用状況を確認できるようにしておくことが求められている。データ主体である個人と信頼関係を構築していくためには、例えば、利用規約等の改定においては個人へプッシュ通知を行い、プライバシー設定についてあまり関心を払っていない個人に対して働きかけを行うなど、事業者から個人へ能動的にアプローチをすることも重要だろう。

(3)社会・個人へのメリット還元

事業者のパーソナルデータの利用が法令の要件を充足していたとしても、事業者だけが利益を享受するような利用や個人が不安・疑問を感じる利用は社会から受容されにくく、非難される可能性もある。前述のみずほ情報総研の調査によると、回答者がパーソナルデータを提供してよいと感じる利用目的は、上位から順に「大規模災害などの緊急時や防災に関わる内容の場合(回答者の73.1%)」「自分への経済的なメリットが受けられる(同71.2%)」「自分へのサービスが向上する(同68.4%)」「国民の健康・福祉に関わる場合(同66.2%)」となっている。パーソナルデータの取得・管理やセキュリティ態勢の確保、データの分析や利用に関わるAIの開発等には相応の経営資源が必要であり、事業者は営利組織であることから、データの利用により利益を得ていくことは当然である。しかしながら、事業者の利益だけを追求するようなデータ利用は受容されない。社会や個人への価値提供やメリットの還元を通じて企業価値を向上していくことが求められている。

また、住所・年齢・年収等やインターネット上のサービスの利用情報をもとに個人の信用度を数値化するスコアリングサービスの是非をめぐる議論がある。同じくみずほ情報総研の調査によると、スコアリングサービスによって自身の信用が評価されることについて59.5%の人が「抵抗あり」と考えている。その理由として「スコア算出方法が不透明(全回答者の34.3%)」「信用スコアが低くなると、不便な思いをしそう(同27.8%)」「信用スコアを意識しすぎてネットを利用しにくくなる(同24.5%)」「評価結果の説明がなされない(23.6%)」が挙げられている。事業者がスコアリングサービスを提供していくにあたっては、公正性を確保することに加え、データ主体である個人のメリットを示していく必要があると考えられる。

3.おわりに

パーソナルデータの利用にあたっては、事業者がデータ主体である個人と信頼を醸成することが必要である。また、事業者の利益だけを追求するようなデータの利用は社会の反発を招き、パーソナルデータの利用自体が萎縮する事態になりかねない。さらにはデータを利用するイノベーションが阻害され、社会が享受できる便益が損なわれる懸念にもつながる。事業者は、パーソナルデータの利用に関わる様々な課題に能動的に対応し、顧客を含むステークホルダーに対して説明責任を果たし、信頼を獲得していくことが必要だろう。

  • パーソナルデータとは、個人情報保護法の個人情報だけではなく、個人に関連するあらゆる情報を指す。
  • 総務省 関連情報:調査研究報告書(令和 2 年版情報通信白書に掲載している調査)「データ流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究報告書」(2020 年 3 月 31 日)
  • 消費者庁「デジタル・プラットフォーム利用者の意識・行動調査(詳細版)」(2020 年 5 月 20 日)
  • 株式会社日立製作所・株式会社博報堂「第四回 ビッグデータで取り扱う生活者情報に関する意識調査」(2019 年 6 月 6日)

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