ヘルスケア・ウェルビーイング

新型コロナと地域医療供給体制(3/3) ~遠隔モニタリング~

主任研究員 福嶋 一太

コロナ禍で浮き彫りになった医療供給体制の課題を考えるシリーズの最終回は、医療供給体制の地域格差という課題を概観したうえで、これへの寄与に留まらず、地域医療供給体制の変革にもつながり得る「遠隔モニタリング」を取り上げる。医師と患者をオンラインでつなぎ、在宅で患者のバイタルデータ等を監視する「遠隔モニタリング」の現状と課題を整理し、地域医療供給体制の強化に資する価値を考える。

1.医療供給体制の地域格差の現状

日本全体の医師数が増加する一方で、都市部に医師が偏り、地方が医師不足となっている傾向は、新型コロナウイルス感染症への対応だけでなく、地域医療供給体制における長年の課題である。

日本の人口10万人あたりの医師数は、2018年末で全国平均246.7人であり、2016年末と比して6.6人増加している1。他方、地域の医療ニーズや人口構成の変化などの要素を加味して、地域ごとの医師の多寡を統一的・客観的に把握するために厚生労働省が発表している「医師偏在指標2」は、最多の東京都と最少の岩手県で約1.9倍の較差があることが明らかになっている。この差は、都道府県より細かい二次医療圏(手術や救急等の一般的な入院治療が完結するとされる地域圏)別ではさらに顕著で、最多の東京都の区中央部と最も少ない秋田県の北秋田では10倍以上の開きがある3

2.遠隔モニタリングの概要

(1)遠隔モニタリングの仕組みと効果

(出典)内閣府 健康・医療ワーキンググループ資料より

医師不足を補う遠隔医療の一分野である遠隔モニタリングとは、インターネット接続機能を有するペースメーカー等の医療機器を患者に持たせ、この機器を通じて機器の作動状況や患者のバイタルデータ(脈拍数、呼吸数、心電図、血糖値等)等を専用サーバに保存し、医師などの医療従事者がこれらをいつでも参照できる仕組みのことである4

遠隔モニタリングにより外来受診頻度を減らした場合の臨床上の有用性や安全性に係る実証も、特定の疾病に対する医療機器ごとに進められている5

遠隔モニタリングを活用することで、医療の質を維持しつつ、「患者が外来を受診し、医師等が患者の状況を確認する」といったフォローアップ目的の外来通院を削減することが期待される。この削減が、医師の業務負担のひとつである外来専従時間の圧縮につながり、患者側の外来通院負担も軽減される。

なお、あくまで患者の情報がリアルタイムに医師等の医療従事者に送信され、医師等がこれらを必要に応じてモニタリングする仕組みであり、医師等が患者の容態を365日24時間継続的に監視するシステムでない。また、患者の容態が急変した場合は、遠隔モニタリングによって医療機関側がこれを察知できるケースが限られるため、原則として患者自らが医療機関に赴く必要がある。

このような遠隔モニタリングであるが、現在、公的医療保険の適用対象となるものは3種類ある6

1つ目は心臓疾患の治療で使用されるペースメーカー等を利用する患者に対して脈拍やペースメーカーの稼働状況をモニタリングするものである。2つ目は、肺の機能に障害が生じる進行性の疾患であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者の吸入酸素流量等をモニタリングするもので、酸素吸入によって酸素不足による身体機能の低下を改善させる在宅酸素療法で使用されている。3つ目は、睡眠時無呼吸症候群の患者に対して治療機器使用時間等をモニタリングするもので、空気を鼻から気道に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する持続陽圧呼吸療法(CPAP)で使用されている。いずれも遠隔モニタリングを行った結果に基づき、療養上必要な指導管理を行った場合に、医療行為として一定の要件の下で公的医療保険上の診療報酬が加算される。

(2)主な課題

今後の普及が期待される遠隔モニタリングには、以下のような課題もある。

① 遠隔モニタリング運用に必要な役割分担

医療機関が遠隔モニタリングを導入、運用するには、遠隔モニタリングを利用することに係る患者同意の取得、患者への機器操作方法のわかりやすいレクチャー、データ送信スケジュールや外来受診管理、受信データの確認等、医療機関に多くの業務が必要となる。これらを円滑に進めるためには医師、看護師、病棟事務員等による的確な役割分担と分担業務の遂行が求められるが、医療機関が通常業務に加えてこれらを継続的、効率的に、かつ責任の所在を明確にしながら組織的に運用するのは容易ではない。

② 容体急変時の対応や迅速な治療

送信されたデータを24時間監視し、異常があった場合に直ちに習熟した医療スタッフが対応することができる施設はまだ少なく、急変時にアラートを発信する機能を備えた医療機器も限られている。これに対し、遠隔モニタリングには、患者からの「何かあればすぐ医療スタッフから連絡があるシステム」という過度な期待が伴うため、遠隔モニタリングが必ずしも緊急対応のためのシステムではないことを患者に理解してもらう必要があるとの指摘がある7。モニタリングを容体急変時の対応や迅速な治療等に繋げていくための医療機関の体制構築や、医療機器の技術革新が課題と考えられる。

他にも、常時監視されることに対する患者の拒否反応や、個人情報の流出リスクへの不安等も課題として挙げられている8

3.導入事例(遠隔モニタリングとオンライン診療の組み合わせ)

遠隔モニタリングが有するバイタルデータ等の管理機能と、テレビ電話を活用したオンライン診療を組み合わせた事例として、2020年11月に慶應義塾大学病院、中部電力株式会社、メディカルデータカード株式会社が共同で運用を開始した糖尿病・肥満症外来オンライン診療システムを紹介する。

中部電力のデータプラットフォームとメディカルデータカード社のMeDaCaアプリを活用することで、在宅患者の血圧、体重、血糖値やインシュリン使用量を、医師がリアルタイムで確認できることが特徴である。《図表2》

医師と患者のビデオ通話による診察や、検査結果、処方箋控データ等のアプリへの送信も行なう。2020年6月に産科外来で運用を開始した遠隔妊婦健診システムをベースとして、患者の血糖値やインスリン等の使用量を記録する仕組みを新たに搭載したもので、このシステムにより、患者の同意のもと在宅での血圧、体重、血糖値やインスリン使用量などのデータを医師が遠隔で確認することを可能としている。血圧計や体重計とは既にクラウドの連携により自動でデータ収集が可能になっており、将来的には簡易自己血糖測定器との連携も行い、患者のデータ入力負担の軽減も目指すとしている。MeDaCaアプリは、専門医と患者、専門医とかかりつけ医をつなぐ機能も有している。産科外来での妊娠糖尿病患者の診療から導入が始まっており、今後は肥満症外来などにもその対象を広げていく予定とされている。

上記から、遠隔モニタリングは、テレビ電話等によるオンライン診療との親和性が高いことが窺える。これらを組み合わせることで、患者は入院、通院の負担や時間的拘束から解放される。医師は、慢性疾患の患者に対する外来受診対応の時間等が削減され、急性期患者等優先度の高い患者へのシフトが可能となり、医療機関全体として医療サービスの質を維持、向上させながら効率化を図ることができる。

4.むすび

本稿で示した通り、遠隔モニタリングは、安全性、有効性等に係る科学的根拠や医療機関側の運用面で発展途上の分野である一方、外来受診という「点」による患者の状況把握を、リアルタイムのモニタリングという「線」による把握に変え、慢性疾患の急変や重症化に係る地域の医療供給体制を変革し得る。

公的医療保険の適用対象も、現在の3種類から、臨床研究や医療機器開発の進捗に応じて、事例で紹介した糖尿病や肥満症等、幅広い慢性疾患への拡大が期待される。

3.で述べた通り、遠隔モニタリングは医療サービスの質を維持、向上させながら効率化を図ることができる効果がある。遠隔モニタリングの対象が拡大し、その効果が十分に発揮されれば、医師が不足している地域での慢性疾患を中心とした医療供給体制の改善や、モニタリング状況に応じて受診のタイミングや頻度を管理していけば公的医療保険財政の安定化も期待できる。また、老いや病気などにより終末期を迎えた患者の身体的・精神的な苦痛を緩和する在宅での終末期ケア(ターミナルケア)での活用に係る研究も行われている9ことから、高齢期の医療や介護サービスでの活用なども考えられよう。

さらに、遠隔モニタリングはバイタルデータ等大量のデータを収集することから、症状急変を予測する等のAIとの親和性も指摘されており10、データを活用した医療供給体制の効率化にも資すると思われる。

  • 厚生労働省「平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2019 年 12 月 19 日)
  • 厚生労働省 医療従事者の受給に関する検討会 第 35 回医師需給分科会(2020 年 8 月 31 日)参考資料 3 によれば、将来(2036 年)に向けて医師偏在解消を目指すための指標とされる。人口 10 万人当たりの医師数に加えて、医療ニーズおよび将来の人口・人口構成の変化、患者の流出入等、へき地の地理的条件、医師の性別・年齢分布、医師偏在の単位(区域、診療科、入院/外来)〕を加味して算出している。
  • 厚生労働省 医療従事者の受給に関する検討会 第 28 回医師需給分科会「参考資料2医師偏在指標」(2019 年 2 月 18 日)
  • 鰤岡直人「遠隔モニタリングを用いた在宅酸素療法診療のための操作マニュアル第 3 版」(鳥取大学医学部、2019 年 8 月)
  • 内閣府 規制改革会議 第 31 回健康・医療ワーキング・グループ 「資料 1-1~資料 1-3」(2015 年 3 月 5 日)
  • 厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第 440 回総会資料」(2020 年 12 月 11 日)
  • 南口仁「遠隔モニタリングシステム管理の現状と課題」(心電図 vol38 No.2、2018 年)
  • 同上
  • 坂野紀子他「在宅終末期ケアにおける、リアルタイムモニタリングシステムの活用」(日本遠隔医療学会学術総会、2013 年10 月 18 日)
  • 日経 XTECH ホームページ「ウェアラブル端末で常時遠隔モニタリング」
    https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/011000049/011300007/
    (visited Jan.27,2021)

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