【Vol.75】4.米国のオピオイド危機と損害保険業界への影響

主任研究員  内田 真穂

I.はじめに

本稿では米国社会を揺るがしているオピオイド問題とは何か、どのような背景でそれが引き起こされたのかを概観し、乱立するオピオイド関連訴訟の傾向と訴訟の増加が損害保険業界にもたらす影響、特に賠償責任保険の防御義務の発生有無をめぐる問題について取り上げる。

II.米国を揺るがすオピオイド危機

麻薬性鎮痛薬オピオイドの過剰摂取による死亡者は1999年以降毎年増え続けており、2013年以降は死亡者の増加ペースが加速している。オピオイドはもともとがんの疼痛管理に用いられていたが、米国ではがん患者以外の慢性疼痛に対しても処方されるようになった結果、依存症になる者が続出した。オピオイドが浸透した背景には製薬会社による積極的なマーケティングがあり、米国の保険システムもオピオイドの蔓延を助長した。

III.オピオイド関連訴訟

オピオイド関連訴訟が全米各地で乱立している。州や郡はパブリック・ニューサンスの法理の下、製薬会社などを相手取り多数の訴訟を提起している。裁判では企業の詐欺的行為や不適切な流通管理などが追及されている。各地の連邦地裁に提訴された訴訟を併合した広域係属訴訟(MDL)の最初の審判(ベルウェザートライアル)が2019年10月から始まる。米司法省は刑事責任を視野に入れた捜査を行っている。州訴訟や司法省による訴訟では、企業が巨額の賠償金(制裁金)の支払いに合意して和解する事例がでてきている。

IV.損害保険業界への影響

今後これらの訴訟に係る保険金請求が増えることが予想される。訴訟費用の増加に加えて、賠償金が巨額となれば損害保険業界への影響は小さくない。被告企業と保険会社との間で賠償責任保険の適用をめぐる訴訟も起きている。裁判では州政府の損害賠償請求が「身体障害(bodily injury)」に基づくものといえるのか、企業の詐欺的行為に起因して発生したオピオイドの蔓延が「事故(accident/occurrence)」に該当するのかの2点が主要な争点となっている。

V.おわりに

オピオイド危機は日本の保険会社にとっても対岸の火事ではなく、米国リスクを引き受ける日本の保険会社には十分なアンダーライティングが求められる。保険会社はオピオイド訴訟に係る賠償責任保険の適用をめぐる議論の行方をMDLの動向とともに引き続き注視していく必要がある。

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