【Vol.77】5.民事信託を活用した高齢者の財産管理支援の展望

主任研究員 岡島 正泰

I.はじめに

高齢化に伴い身近になっている認知症と共生する手段の一つとして、高齢者が親族等に財産管理を任せるといった方式の民事信託の活用が進んでいる。

II.信託の概要と信託法改正の経緯

信託は、財産を特定の者に託し自分が決めた目的に沿って運用・管理してもらう、財産管理のための制度である。信託の受託者に財産が譲渡され、それに伴い受託者に厳しい義務と責任が課される点に特徴がある。2006年に信託法が改正され、高齢化の進展に伴い深刻化している高齢者の財産管理に関する課題に対し、民事信託を活用しやすくなった。

III.高齢者が直面する財産管理上の課題と支援制度の状況

加齢に伴う認知能力低下により、高齢者は様々な財産管理上の課題に直面する。成年後見制度等の支援制度が整備されているが、現在の支援制度は十分に普及していない。認知能力が低下する前の利用契約締結の必要性や金銭的負担が普及を妨げている可能性がある。

IV.民事信託への期待と課題

民事信託が、高齢者の財産管理上の課題に応える新たな手段として注目されている。他の支援制度と比較して、民事信託には高齢者の金銭的負担を軽減する効果等が期待できる。一方、信託契約締結を支援する専門職等の支援体制の不足や、認知能力が低下する前の契約の必要性等が普及を妨げていると考えらえる。

V.高齢者の財産管理における民事信託の展望

民事信託の普及を妨げる課題の解消に向けた取組みが、高齢者の財産管理に関係する様々な主体により進められている。専門職の育成、IT技術の活用により民事信託を利用しやすくする取組みや、高齢顧客と接点を有する幅広い業種の企業等と専門職等が連携し、認知能力低下前の契約を促す取組みが進められている。

VI.おわりに

今後も認知能力が低下した高齢者の増加が見込まれる。民事信託の分野には、金融商品や富裕層向けの財産管理サービスを提供する業態だけでなく、IT技術を有する企業や、高齢顧客との接点を有する企業等にとっても事業機会が期待できると思われる。

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