【Vol.78】1.ESG投資に取り組むべきか

フェロー 隅山 正敏

I.はじめに

ESG投資は投資リターンの獲得とESG問題の解決という二兎を追う。実務者としては「二兎を追う投資が投資として成り立つのか」など様々な疑問を抱えるが、ESG投資の必要性が声高に論じられる中で疑問を言い出せない状況にある。

II.関係者から見たESG投資

ESG投資を定着させたのは「国連責任投資原則」であり、その関係者は国連、機関投資家及び金融機関である。国連は、各国政府の意見の一致を望み難い地球規模の問題を解決するために、企業や投資家に働きかけることを選び、その選択は功を奏した。機関投資家は、株主として投資先企業に働きかけること(株主活動)が長期的利益に繋がるという議論(スチュワードシップ)に後押しされ、株主活動の指針としてESG投資に取り組んでいる。金融機関は、かつては環境汚染企業に融資していることを責められたが、近年は環境貢献企業に資金を供給する責任が議論され、経営戦略としてESG投資に取り組んでいる。関係者は、異なる動機からESG投資に取り組み始めたが、参加のしやすさが裾野を広げて大きな流れを生んだこともあり、ESG問題への貢献に向けたwin-win関係が成立している。

III.ESG投資に取り組む際の課題

ESG投資を投資として見ると様々なネガティブ要因が浮かび上がる。先行的にコストが発生する「コスト問題」、他の投資手法より優れていると実証できない「投資リターン問題」、投資リターンを犠牲にすることを許さない「受託者責任問題」などである。他方で、ESG投資を多数の投資家を糾合する社会的運動として見ると、集まった投資家の数だけ影響力が高まり、ひいては「着実な投資手法」の地位を獲得する可能性も生じる。

投資家が実際にESG投資を開始した後にも、企業評価をどのように行うのか、投じた資金がESG問題の解決に本当に貢献しているのかなどの問題を抱える。巨大投資家は、自らの長期的利益を守るためにこうした課題に先陣を切って取り組んでいくことが正当化される。そうではない投資家は、「リーダー追随方式」など身の丈に合った取組みが受託者責任の観点から必要である。

IV.おわりに

冒頭に掲げた「実務者から見た疑問」に対し「疑問を氷解させる正解」はなさそうである。ただ、ESG投資を「社会的運動」と捉えて、その流れに乗り遅れないことが重要であると言うことはできる。ESG投資を開始する際には「身の丈に合った取組み」が受託者責任の観点から必要である。

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