保険・金融・デジタルテクノロジー

インドにおけるAmazonの金融サービス事業 ~決済・融資だけでなく、自動車保険事業に参入~

主任研究員 林 勝己

電子商取引(EC)が成長するインドでAmazonは、独自の物流網・拠点と投資したFintech企業の金融サービスをドライバーとして事業を急速に拡大している。さらに他の地域では行っていない自動車保険の販売を開始しており、その動向は目が離せない展開になっている。

1.インドの電子商取引(EC)市場

インドのEC市場の規模は、2017年度で390億ドル1、主な事業者にはWalmart子会社のFlipKartが首位(シェア38%)、次いでAmazon(シェア31%)となっている2。2014年のマーケットシェアではFlipKartが44%、Amazonが15%3と開きがあったが、Amazonが急速に追い上げている状況となっている。インドのECは高い経済成長と中間層の拡大によって、2026年には2,000億ドルに達する4と見込まれ、Amazonにとってインドは米国本国の市場に次ぐ市場になると言われている5

インドのECでは、外資子会社(出資比率49%超)は直接販売することが制限されており、顧客と販売者をむすぶマーケットプレイス型の事業6のみが認められている。AmazonはECの出店者・顧客を拡大するため、独自の物流網・拠点を構築し(≪BOX≫参照)、投資したFintech企業の金融サービスを提供している。

2.金融サービスを活用した事業の拡大

Amazonは、投資したFintech企業の決済、融資等の金融サービスを出店者と顧客に提供している(≪図表1≫参照)

(1)決済

クレジットカードの普及率が低い8インドではECの60%が現金決済(代金引換)となっており9、事業者にとって現金の回収や盗難の補償にかかるコスト負担は大きい。他方、Amazonではキャッシュレス決済の比率が65~70%となっており、Amazon payが決済全体の48%で利用されている10

2014年、Amazonは、クレジットカードを持たない顧客でもキャッシュレス決済ができるようにQwikcliverのオンラインプリペイドサービスを導入、利用者には割引を適用してキャッシュレス決済を浸透させた。

2016年には銀行口座、クレジットカードと連動し、現金によるチャージも可能なAmazon payを導入、商品を配達する際に顧客がAmazon payへチャージできる仕組みや入金額の20%をキャッシュバックするキャンペーンによりAmazon payは急速に普及した11。Amazon payの普及は、出店者の決済コストを軽減するとともにAmazonマーケットプレイスでの顧客の購買活動を促している。

(2)融資

Amazonマーケットプレイスでは、Amazonが投資したCapital Floatが出店者にオンラインで事業資金を融資し、事業参入・拡大を支援している。

インドでは、金融機関の多くがデリーなどの大都市に集中しているため、大都市以外での金融サービスの利用が難しい。また、小規模事業者は、収入が確認できる書類が十分でなかったり、収入が不安定であるため融資を受けられないこともある12

Capital FloatのAmazonの出店者向けの融資では、AadhaarのIDやAmazonとの取引情報・顧客評価に基づき与信審査や収益予測を行い、オンライン上で融資が行われる。事業拡大を資金面で下支えするこのオンライン融資は、2018年には10億ドル以上の貸付を実行している13

また、顧客向けにはBankBazaarが、オンライン上で複数のローン商品の比較と申込みが出来るサービスを提供している。

3.自動車保険事業への参入

2018年5月、Amazonはオンライン保険会社Acko General Insurance(以下、Acko)に1200万ドル出資するとともに保険事業を開始した14。Amazonマーケットプレイスでの本格的な保険販売はインドが初めてとなる15

インドの国内自動車販売台数は2013年から2018年の間で、年平均成長率7%を超えて大きく成長している16。Amazonは、商品性に優れたオンライン保険会社のAckoをパートナーとして、顧客数が拡大し、保険料支払手段であるキャッシュレス決済が浸透しつつあるマーケットプレイスで、高成長が見込まれる自動車保険の販売を開始した。

Ackoのオンライン自動車保険は、事業費を抑制した低廉な保険料となっており、これに加えてAmazon payで保険料を支払う場合にはキャッシュバックが適用される。加入から保険金請求までスマートフォン上の簡便な操作で手続きが完了し、事故対応においてはAIによる画像診断により修理金額を算出し、一定の損害については迅速な保険金支払が行われる。また、主要都市では指定修理工場と提携し、顧客に対して1時間以内の車両引取りや3日以内の早期引渡しが可能なサービスを提供するとともに保険金詐欺をけん制している。

インドでは、保険金支払遅延などにより保険会社に対して不信感を持つ消費者も少なくなく17、AmazonがECで確立したブランドや利便性・価格面で優れる保険を武器として、保険事業を大きく成長させる可能性がある。2019年3月、Amazonは法人代理店としてのライセンスを取得し、保険事業を拡大する準備が整った18

4.おわりに

Amazonは、最重要視する顧客の利益の実現のために様々な投資を行い、金融サービスや物流網などの兵站を構築し、急速に事業を拡大させ集客力を高めている。Amazonにとって米国に次ぐ市場となると期待されているインドで始まった保険事業は、インドの自動車市場の拡大と保険の普及が相まって大きく成長する可能性があり、他地域への展開も含めてその動向からは目が離せない。

  • IBEF, “E-COMMERCE”, Aug, 2019.
  • Bloomberg, “Walmart’s Flipkart Gambit: Growth Rebirth Or Costly Facelift?”, May 24, 2018. Flipkartのシェアには買収したMyntraのシェアも含むものとしている。
  • Economicitmes.tech.com, “Etail giants like Snapdeal, Amazon lose market share in 2015; small etailers emerge as real winners”, Feb 26, 2016.
  • WEF, “Future of Consumption in Fast-Growth Consumer Markets:INDIA”, Jan, 2019.
  • Fortune, “Amazon Invades India”, Dec 28, 2015.
  • 前脚注1
  • Aadhaar,
    https://uidai.gov.in/my-aadhaar/about-your-aadhaar.html
  • Techcrunch, “India’s largest mobile wallet company Paytm now offers a credit card”, May 14, 2019.
  • Confederation of Indian Industry, “e-Commerce in India A Game Changer for the Economy”, Apr, 2019.
  • Inc42, “Amazon India Adds Load Cash At Doorstep Feature To Amazon Pay Balance Account”, Jan 18, 2018.
  • BGR.in, “Amazon India now offering Rs 1,000 extra cashback on Amazon Pay cash load”, Jan 14, 2019.
  • YourStory, “How banks can be the game changer for the SME lending business”, Apr 05, 2019.
  • PYMNTS, “Amazon Places $22 Million In India’s Capital Float”, Apr 24, 2018.
  • livemint, “New norms for selling insurance online”, Mar 16, 2017 Amazonは、AckoがEC上で保険販売に利用する事業者(insurance self-network platform)として登録されている。
  • 商品に付帯する延長保証等はあったが本格的な保険販売はインドが初となる。
  • IBEF, “AUTMOBILE”, Aug, 2019.
  • Confederation of Indian Industry, “Insurer of the future”, Aug, 2016.
  • TJI Research, “Amazon Obtains Corporate Agent License to Sell Insurance in India”, Mar 19, 2019.
  • The Amazon blog dayone, “Empowering sellers to go online, the Amazon way”, Jun 05, 2018.

PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る