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日本のカーボンニュートラル実現に向けて ~仮想発電所(VPP)活用の可能性~

副主任研究員 松崎 絢香

2050年カーボンニュートラルに向けて太陽光や風力などの変動性の再生可能エネルギーが大量導入される中で、仮想発電所(VPP)の活用が進むと予測される。電力会社が大型設備で発電を一手に引き受けてきた状況から一変し、VPPは需給バランス確保のために多様なプレイヤーが参加する仕組みである。先行している欧州の事例も紹介しながらVPPの仕組みを紐解いていきたい。

1.分散型エネルギーリソースの活用

(1)大規模集中型システムから分散型エネルギーリソースへの移行

(出典)SOMPO未来研究所作成

従来の日本では、安定性と経済効率性の観点から火力発電や原子力発電などの大規模集中型の電力システムが社会や経済発展の基盤となってきた。しかし2011年に東京電力福島第一原子力発電所の事故により電力の供給量不足に陥った結果、計画停電の実施に至った。この時、大規模集中型システムの脆弱性が露わになったものの1、火力発電の電力比率を高めることで供給量不足を回避できた。

昨今、世界が脱炭素化を目指す中で、改めて化石燃料を用いた火力発電に対し厳しい目が向けられている。そこで日本でも「分散型エネルギーリソース(Distributed Energy Resources、以下DER)」を用いた仕組みに注目が集まっている。DERとは、比較的小規模な再生可能エネルギー(以下、再エネ)や、住宅や工場などの自家発電設備、蓄電池などを指す2。大規模集中型システムが遠隔地の大きな設備で発電し送配電する仕組みである一方、DERは単体では電力量が小さいため、域内の複数の設備を上手く繋げて1つのシステムとして電力を賄う仕組み作りが欠かせない(図表1)。

(2)需給バランス保持のための需要家側の調整意義

電気は単体では貯蔵できない性質を持っているため、常に需給バランスを保つことが必要になる。需要量か供給量のどちらかが他方より多くなりバランスが崩れると、停電に繋がる恐れがある。大規模集中型システムは電力需要に合わせていかに安定的な供給を図るかが管理の焦点であった。対して、DERは比較的小規模な電源も多く供給側のコントロールだけでは需給バランスの維持が難しく、需要側も含めた管理の在り方が課題になる。DERは電力の需要家側である個人や企業が所有しているケースも多い。そこで、個々の需要家の発電量と消費電力量のバランス、域内の需給バランスを同時に調整する方法が取られる。協力する需要家に需給調整の対価として報奨金を支払いつつ、例えば工場の生産計画を電力需要の少ない時間帯へシフトしてもらう、域内の発電量が多い時間帯に蓄電設備を持つ需要家に充電を実施してもらう等の方法を取ることが考えられる(図表2)。

(出典)経済産業省HPの説明動画「バーチャルパワープラント」よりSOMPO未来研究所編集

昨年10月、日本において2050年カーボンニュートラル(以下、CN)が宣言された。CN達成のためには再エネの主力電源化が大前提にあり3、中でも太陽光や風力等のDERである再エネを上手く活用する必要がある。太陽光や風力は時間帯や気象条件などで発電量に変動を生じるため、需給バランスを取る調整力4がこれまで以上に強く求められる。しかし、今まで供給の調整弁として使われてきた化石燃料を用いた火力発電は、脱炭素化のために今後縮小していかざるを得ない。そのため、これから再エネの大量導入を図るには、個々の需要家に働きかけるようなきめ細かな調整力が必要になる。

2.DERを束ねて制御する仮想発電所の発想用

(1)仮想発電所と日本の動き

(出典)SOMPO未来研究所作成

再エネを主としたDERが拡大局面にある中で、調整力を提供する仕組みの1つとして注目を集めているのが「仮想発電所(Virtual Power Plant、以下VPP)」である。VPPはDERをネットワークで結んで集約した電力(調整力・供給力等)を電力市場や電力会社等に供給・販売する仕組みである5(図表 3)。多数のDERをあたかも1つの発電所のように機能させ、安定的な電力供給を行う。CNに向けて蓄電池などのDERが増えることもVPPの仕組みの後押しになる。

VPPの発電容量は、世界最大規模といわれるドイツのNext Kraftwerke社で2.45GW(ギガワット)程度となっており、日本の石炭火力発電が1基約1GW(約35万世帯分相当6)であることから鑑みると2~3基分に相当する7

(出典)日本政策投資銀行「動き出す電力業界の新ビジネス」をもとにSOMPO未来研究所作成

DERを持つ個人や企業に代わり全体を統合・制御しVPPなどのサービスを提供する事業者をアグリゲーターと呼ぶ8。アグリゲーターはDERを集めて需給バランスを調整し、その電源を小売電気事業者等に販売する9(図表4)。

日本では2016年度より経済産業省支援のもとVPP実証実験が開始され、今年度まで蓄電池などのDER制御技術の確立や精度向上等が進められてきた。

今後2022年度に向けては、卸売電力価格に連動した時間別料金に合わせて、電池の充電を電力料金が高い時間から安い時間に誘導するなど、効率的な電力システムの構築が予定されている10。技術面に加え、VPP本格導入に向けた制度調整も始まっている。1つ目はビジネスの収益化に必要な各種市場制度である。日本では2020年度に容量市場11が開設され、2021年度には需給調整市場12が開設される。市場への入札量は1,000kW以上と決められており、小規模なDERもアグリゲーターによって集約されることで参画できる環境が整う。2つ目はアグリゲーター制度の導入である。電気事業法等の改正により2022年度よりアグリゲーターを特定卸供給事業として法令上位置づける予定となっており、現在制度設計の詳細が議論されている13

アグリゲーターには電力関連以外にも通信会社や商社、自治体などが参入すると考えられる。国内市場は大よそ2030年度に730億円(2015年時点のドイツやイギリスと同等水準14)になると予測されている15

(2)欧州におけるVPPの動向

欧州のドイツやイギリス等では2つの要素が揃うことで10年以上前からVPPの活用が先行している16。1つ目は需給調整市場によって供給力確保が必要となったことである。2つ目は再エネの導入拡大とそれに伴う制度変更である。固定価格買取制度(FIT)から市場連動型の制度(FIP)17へと移行する中で、発電者は予め報告した計画量と実発電量を合わせる義務や電力販売先を自ら確保する必要が出てきた18

VPPで収益化しやすい仕組みの構築は重要である。前述のドイツのNext Kraftwerke社はDER保有者に対し遠隔で需給バランスの調整を図るだけでなく、最適なタイミングで市場入札を行うことによって需給調整市場から収入を得ている。ドイツ等の需給調整市場では、秒単位の高速で応動可能な電力ほど高い落札価格で取引されており、日本でも相応の速度で応動できるDERを多数見つけて束ねることができるかという点が重要な技術課題となると予想される19

ここで、需要家向けに提供しているsonnen社のVPPのビジネスモデルを紹介したい。

sonnen社はドイツの蓄電池製造ベンチャーとして2010年に設立された。同社は蓄電池の販売に留まらず、2015年に月額19.99ユーロで参加できるsonnenCommunityというサービスを開始20。顧客間で余剰電力を融通できるサービスの提供や、アグリゲーターとして市場取引を代行し発電量に応じて対価を還元することで、コミュニティメンバーの電気料金の負担を軽減している。更に同社は太陽光発電や蓄電池が設置できない世帯にもグリーン電源を安価に提供することをメリットとしてサービスを提供している21(図表5)。sonnenCommunityはドイツ全土に広がっているため、例えばドイツの北東部の天候が雨の場合に、晴れている南西部のコミュニティメンバーの余剰電力を融通してもらえるといったメリットがある。このように顧客に対して様々なニーズに対応することで、VPPの成功要件の1つである顧客の囲い込みに成功していると考えられる。同社は2019年に石油メジャーのシェルに買収され、また、2019年末には日本法人であるsonnen Japanを設立している22

(出典)sonnen社のHPをもとにSOMPO未来研究所作成

欧州のVPPのビジネスモデルは、更に顧客ニーズに合わせた形へと進化を遂げている。sonnen社のような需要家への安価な電気料金サービスや、数時間先の自家発電の発電量を予測・モニタリングをしつつ、変動する卸売電力価格に合わせて需要家がアプリで自ら売買のタイミングを決定できるサービスなど、各社の工夫が見られる23

3.おわりに

日本では2030年代にはガソリン車販売禁止の方向が打ち出されており、電気自動車の大量導入が予想される。電気自動車の蓄電設備は、DERとしてVPPの仕組みでの活用が期待される。VPPシステムには今後追加される可能性のある多様なDERを柔軟に追加できる仕様も求められる。

日本においてもCNに向けた再エネ大量導入に伴い、調整力を提供するVPPは欠かせない仕組みとなるはずだ。2021年度の需給調整市場の開始や2022年度のアグリゲーター制度の開始など、VPPを収益化するための制度も整い始めている。実証実験を積み重ねながら、技術面を磨いて正確に需給コントロールができ、かつ市場に上手く連動させたシステムが構築されていくことを期待したい。

その他参考文献

経済産業省HP「バーチャルパワープラント・ディマンドリスポンスについて」(最終閲覧日 2021年3月9日)

一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和2年度バーチャルパワープラント構築実証事業 公募情報」(最終閲覧日2021年3月12日)

村上敦他「進化するエネルギービジネス100%再生可能へ!ポストFIT時代のドイツ」(新農林社、2018年)

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