【Vol.82】4.今後のセーフティネットの充実に向けて ~ 「給付付き税額控除」や「プッシュ型給付金」の導入で機能補完を〜

上席研究員 野田 彰彦

Ⅰ.はじめに

個人や家計を困窮に陥らせないための諸制度、すなわちセーフティネットのあり方が問われている。コロナ禍では様々なセーフティネット拡充策が講じられ、その効果も相応に確認されるが、一方で従来のセーフティネットが潜在的に抱えてきた構造的な課題や脆弱さも残されている。そこで本稿では、セーフティネットに係る諸制度の概要や課題を整理するとともに、今後の改善策について検討する。

Ⅱ.日本のセーフティネットの経緯・現状・課題

雇用保険は、働く人すべてを包摂した制度には実質的になっておらず、その機能には限界もある。そこで、雇用保険を受給できない人を対象とした求職者支援制度に期待がかかるものの、利用低迷が続いており、今後の制度改善が望まれる。生活困窮者自立支援制度は、支援サービスの提供に地域差があったり、他制度との連携が不十分であったりするなど課題を抱える。生活保護は、医療扶助の増加と「入りにくく出にくい」点が大きな問題として指摘される。生活困窮者自立支援制度と生活保護については、支援の連続性を確保するために連携強化策が模索されているが、それにとどまらず、生活困窮者自立支援制度の「住居確保給付金」を抜本的に拡充するなど同制度の所得保障的な要素を強める必要がある。

Ⅲ.現行のセーフティネットを補完する新たな制度の可能性

今のセーフティネットは支援を受ける側からの相談や申し出を出発点とする「申請主義」に基づくため、本来必要な支援が必ずしも行き届かない面がある。そこで、申請を待たない「プッシュ型」の支援が模索されている。こうした観点から検討すると、現行制度の足らざる部分を補完する新しいセーフティネットとして、給付付き税額控除やプッシュ型給付金の有望さが浮上してくる。

Ⅳ.おわりに

新しいセーフティネットの提案としては、ベーシック・インカムやベーシック・サービスも挙げられるが、現行制度の大幅な見直しを伴うこれらの仕組みについて国民的合意が得られるかどうかが見通せない。今後のセーフティネットのあり方としては、現行制度の綻びを繕うとともに、給付付き税額控除やプッシュ型給付金によって機能を補う方向性が望ましいであろう。

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