【Vol.83】3.外国人の受け入れ拡大と多文化共生 ~技能実習の廃止とタイミングを合わせて「多文化共生基本法」の制定を〜

上席研究員 野田 彰彦

Ⅰ.はじめに

人口減少下で労働力不足が構造的問題となるなか、国は外国人労働者の受け入れ拡大を進めている。また、在留外国人を日本社会の構成員として受け入れ、ともに安心・安全に生活できる社会環境を実現していく「多文化共生」政策の重要性も高まっている。本稿では、外国人受け入れをめぐるこれまでの経緯や現状を概説するとともに、多文化共生社会の構築に向けた課題について考察する。

Ⅱ.わが国における外国人の受け入れ

わが国には307万人の在留外国人が存在し、総人口の2.47%を占めている。国はこれまで、専門的・技術的分野の外国人については、経済社会の発展に貢献する人材として積極的に受け入れてきた。それ以外の分野では、在留期間に上限を設けた技能実習制度や特定技能制度を通じ、一時的な労働力としての受け入れを図ってきた。政府は現在、人権侵害が指摘されてきた技能実習を廃止して新しい制度を創設する方向で検討を進めており、その制度設計がどうなるか注目される。

Ⅲ.多文化共生政策の変遷

これまで多文化共生に係る取り組みは、外国人が多く住む地方自治体等によって積極的に推進され、国はそれを側面支援してきた。多文化共生政策は「コミュニケーション支援(多言語対応、日本語教育)」「生活支援」「社会参画支援」の3つに大別されるが、地域の特性(定住者等の中長期居住者が多いか、それとも技能実習生など期間限定的な居住者が多いか等)によって政策の力点は異なってくる。そして国も近年、外国人向けの日本語教育を強化する法律を制定したり、多文化共生に関する中長期的課題を示すロードマップを策定したりするなど、多文化共生政策を主導的に進めつつある。

Ⅳ.「多文化共生基本法」の制定を

現在の多文化共生政策については、「国と地方の役割があいまい」「財政的な裏付けが不十分」などの課題が指摘されており、その克服のために多文化共生に関する明確な法的根拠、すなわち「多文化共生基本法」の制定が求められる。技能実習を廃止し、人権に配慮した新しい制度を創設するタイミングに合わせて、基本法を制定することを提案したい。

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