
最近、テレビや新聞等のメディアで目にするD2C1。米国では2013年以降、急速に拡大し注目されてきており、7社のユニコーン2が誕生している。D2Cとは、Direct to Consumerの略で、企業が自ら商品を企画・製造し、直接顧客に販売するモデルを指す。自社製造・直接販売に関しては、従来からあるSPA(製造小売)やEC直販と類似していると言えるが、特にマーケティング・顧客との関係という点で異なる(図表1)。
最近、テレビや新聞等のメディアで目にするD2C1。米国では2013年以降、急速に拡大し注目されてきており、7社のユニコーン2が誕生している。D2Cとは、Direct to Consumerの略で、企業が自ら商品を企画・製造し、直接顧客に販売するモデルを指す。自社製造・直接販売に関しては、従来からあるSPA(製造小売)やEC直販と類似していると言えるが、特にマーケティング・顧客との関係という点で異なる(図表1)。
スマートフォンが普及し、コミュニケーション・情報収集の手段としてSNSが当たり前のように活用され、ユーザーの行動・趣味嗜好がデータ化される。企業からすると、広告・マーケティングから販売、顧客管理までがデジタルで完結できるようになっており、デジタルテクノロジーに伴う進化と言える。スタートアップはここに着目し、勃興してきている。
本稿では、拡大している背景、D2Cの商品やサービス例、これを受けた大企業の動向等について、概観する。
D2Cが拡大する背景には、消費者と企業双方の環境変化、それを踏まえた動きが挙げられる。
米国では消費の中心がミレニアル世代3となり、消費が倹約的・慎重であると言われている。伝統的なブランドへの信頼感が低く、自分自身に合ったブランドや商品サービスを望んでいる4。スマートフォンでのネット利用や商品サービスの購入が当たり前で、SNS(特にInstagram)を利用し、友人と繋がり、自身の体験やライフスタイルを中心とした投稿を行い、共感を集める。
一方、企業側からすると、SNSを用いて直接消費者に発信することで、大規模な広告投下や巨大ECサイトへの出店が必要なくなる。直接顧客と接点を持ち、取得データの分析・SNSによるコミュニケーションを行い、需要予測に基づいた生産、フィードバックや要望の迅速な反映、ニーズに基づいた新商品・サービスの開発が可能となる。すなわち、より安価なもの・より品質の高いもの・顧客の求めるものを届けることができる。企業のバリューチェーンに関しても、クラウド・データを活用することで、外部との連携を含め企画~製造~マーケティング~販売~顧客管理を強化することが可能となる。ECサイト構築・決済・在庫管理等のD2Cに欠かせない機能を提供するソフトウェア企業も出現している5。
こうしたデジタル時代のD2Cブランドは、伝統的なブランドとは大きく異なる(図表2)。物づくりを重視しているが、メディアやテクノロジーという側面を併せ持つ。届けるライフスタイル・世界観を明確にし、直接のコミュニケーションで様々なコンテンツを届ける。顧客をIDで紐づけ、分析し、顧客生涯価値やカスタマージャーニーを重視する。
また、製品単体をブランディングするのではなく、ブランド全体の作り込みを重視。SNSにより従来の広告のような枠(スペース・紙面)や尺(時間)が柔軟になったことから、創業ストーリーや生産工程、実現できるライフスタイル等を様々な手法で訴求する6。
D2C企業は、顧客をともにブランドを育てていく仲間のように扱う。顧客は、ブランドのファンとなり情報を積極的に拡散する。また、あたかも共同開発者のように商品やサービスをフィードバックし、改善や新商品開発に貢献する。
D2Cスタートアップは、①既存のプレイヤーが小売のみで販売し、顧客と直接コミュニケーションを持たない業界、②既存のプレイヤーがマーケティングをTVやラジオ広告に依存している業界、③粗利が高く差別化できるプロダクトが提供可能な業界、に着目し生まれている。日用品から家具・ファッションまでと幅広い(図表3)。
EC市場で圧倒的なシェアを誇るAmazon7もこうした領域やスタートアップには、対抗できていない。市場アナリストによれば、顧客接点が密でコンサルティング機能を伴った商品とサービス、貴重な顧客体験の提供に軍配が上がっているとしている8。
損保においても、個人向け自動車保険の分野では、従来より直接販売(Direct Response)が行われてきた。米国ではGEICO・Progressiveが大々的にTV広告を打ち、オンラインやコールセンターへの誘導を図り、急速に事業を拡大してきた。ただし、上述のデジタルシフト・顧客との直接接点の獲得は必ずしもできているわけではない。格付会社AM Bestの2019年3月の調査によると、今後2年間で取り組むべき重要なテーマとして、カスタマーエクスペリエンスやマーケティングのD2Cを挙げる保険会社が最多となっている9。
こうした中、InsureTechのLemonadeはD2Cを取り入れている。2016年創業のLemonadeはこれまでに480億ドルを調達10しており、スマートフォンで簡単に加入できる安価な家財保険(月額5ドル~)を提供している。同社は、収益を保険料の20%としており、保険金支払い後の余剰金は社会保全活動に寄付されるチャリティーの仕組みを導入し、事業構造を透明化している。B Corp認証11を取得しており、社会的インパクトを前面に押し出すことで、既存の保険会社とは一線を画すブランディングでミレニアル世代に訴求している。
首尾一貫したブランディング・マーケティングを行うため、同社は自前のクリエイティブエージェンシーを構築している12。約20名のメンバーを擁しており、コピーライター、ストラテジスト、デザイナー、アートディレクター等を採用することで、更なるチームの拡大を目指している。消費者の経路で見ても、SNS経由の割合はGEICOやProgressiveが1%未満のところ、Lemonadeは17%と突出しており、保険業界におけるデジタルテクノロジーを活用したD2Cでの先進事例と言うことができよう13。
メーカーや小売業界において、大企業はD2Cの拡大をチャンスと捉え、プラットフォーマーへの対抗手段として、D2C企業の買収や体験型店舗の導入を行っている(図表4)。
Amazonエフェクトを大きく受けているウォルマートは、デジタル戦略に舵を切り14、その一つとしてD2C企業を買収することでブランド・新たな顧客層・優れたデジタル人材を獲得している15。P&Gは、小規模だが尖ったブランドを獲得し、消費者との直接的なコミュニケーション手法・顧客データを活用し、既存のブランドへの波及を進めている16。
Nikeは、体験型の店舗をオープンし、消費者がそのブランドの世界観を体験できるような取組みを始めることでD2Cを取り入れている。Nikeは2018年11月、NYに「House of Innovation000」をオープン。スマートフォンを使いながら買い物するように設計されており、シューズやアパレルのカスタマイズ、スポーツに関するアドバイスも受けることができる。2019年11月には、Amazonからの撤退を表明17。市場アナリストは、この決断をD2C事業への注力及び柱(売上の1/3をD2C事業)としていく戦略と見ている。
D2Cとは、本質的には、デジタル化に伴う企業と消費者との関係の変化であり、双方向のコミュニケーション、ブランドの世界観(ブランドの変化)を軸としている。目に見える商品・サービスを扱っているわけではない保険業界においても、D2Cの事例が出てきている。
大企業は、成長市場であるD2Cの領域に注目しているが、上記理解がないと取り入れたとしても上手くいくわけではない。ウォルマートは、期待した効果が出ていないとして、2019年10月にわずか2年でModClothを売却している18。また、軌道に乗ったD2C企業は顧客接点強化のために、実店舗に進出している。Casperは2018年に最初の店舗を開設し、現在60店舗を構えるほか、Warby Parkerは30店舗を展開している。あくまで店舗はオンラインの出先の位置づけであり、体験型施設・ショールームとすることで、店舗での売り上げを重視しているわけではない。
あらゆる業界でメーカーと小売、オンライン(ネット)とオフライン(店舗)の垣根がなくなってきていると言え、リアルとバーチャルを融合させ、如何に他にはない体験をさせるかが重要となってきている。
市場の見方も賛否両論ある。数千億円規模のマーケットを創出し、ターゲットとしてきた大企業にとって、D2Cはスタートアップが中心であり、売上は200~300億円が限界という批判的見方もあれば19、ユーザーの嗜好が多様化する時代に、今後は100億円程度のスモールマス市場に細分化されていくとの見方20もある。
メーカーや小売業界における大手やスタートアップ等の戦略の観点からすると、消費者や顧客との関係を構築することで、Amazonをはじめとしたプラットフォーマーに対抗する可能性やヒントを秘めているとも言え、一つの大きな流れとして注目する必要がある。
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