《概要版》ワーケーションに関する実証実験と効果についての報告

副主任研究員 宮本 万理子 副主任研究員 尾形 和哉

ワーケーション実証実験によって、従業員のイノベーション、メンタルヘルス、生産性、エンゲージメントに与える影響を測定しました。また、地方自治体に対する経済波及効果を、実測値に基づき推計しました。ここでは、結果概要を紹介しますが、測定結果(データ)も含めた報告書については、添付のPDFをご参照ください。

ワーケーションがイノベーション、メンタルヘルス、生産性、エンゲージメント向上に与える効果

1. イノベーション

社内外で新しい関係をはじめられる組織体質をベースに生まれるという前提の下、「他者への信頼」を数値化することで、イノベーションがどの程度、生まれやすい状況にあるかを表している。当実験においては、企業組織の垣根を超えたオープンイノベーション(顧客・社外への信頼の2指標)、会社・部署横断によるコラボレーション(社内への信頼)、上司やメンバーを信頼するチームワーク(チームへの信頼)の4指標で計測している。

(測定結果)
ワーケーションは連携への好影響が期待され、イノベーションの醸成に役立つことが実証されました。

①普段の働き方による差異

普段はテレワーク中心の方は、プラスの影響が強く出ています。テレワークは、人との接触頻度が落ちるという弊害が挙げられますが、ワーケーションをきっかけとした社内外・同一部署・他部署との交流が、プラスに働いていると考えられます。オフィスワーク中心の方もプラス効果が見られ、環境を変えて、普段は接することの少ない人との交流が、プラスに働くと示唆されます。普段からオフィスワークとテレワークのハイブリッドを行っている方には、プラスの効果は見られませんでした。普段からテレワーク・オフィスワーク双方のメリットを享受し、環境を変えるというチェンジコストを上回れなかったものと推察されます。

②職位による差異

メンバー(非管理職)にプラスの効果が強く出ている一方で、マネジメント(管理職)は効果は見られませんでした。メンバーは普段、他部署・社外と接する機会が少なく、ワーケーション実施前のイノベーション指標が、マネジメント層と比べて低い傾向にあります。ワーケーションという非日常における他部署との交流が寄与したものと想定され、ワーケーションが経験値の浅い従業員に対する教育的価値を提供する可能性を示唆しています。

2. メンタルヘルス

疲労、緊張などストレスの自覚症状(ストレス反応)、ストレスの解消方法(ストレスコーピング)、ストレス原因の自覚(ストレッサー)によって計測される。

(測定結果)
メンタルヘルスに関する指標も、総じて改善しました。特に、「仕事時間の余裕」に関する改善幅が大きく、働き方による差異は、オフィスワーク、ハイブリッド、テレワークの順に、改善が見られました。通勤時間がない分、時間に余裕が生まれたものと考えられます。

3. 生産性

プレゼンティーイズム(出勤はしているが、健康上の理由により業務に支障が生じている状態)を指標に計測される。病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価した場合をプレゼンティーイズムとして計測される。

(測定結果)
ほぼ変化を及ぼしませんでした。ワーケーションの実施期間が1週間に満たず、生産性に変化をもたらすほど期間が長くないことや、地域課題解決のプログラムを実施することで、日常業務に割く時間が減ったことが要因として考えられます。

4. ワークエンゲージメント

仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。仕事時間の余裕、仕事負荷の余裕、ワークホリック(仕事への義務感、休暇に対する罪悪感)、仕事への関心の4指標によって計測される。

(測定結果)
ワークエンゲージメントも同様に、全体としてほぼ変化を示しませんでした。一方、30代以下の若年層や、普段オフィス勤務をしている従業員ではエンゲージメントが向上する傾向があることが明らかとなりました。ワーケーションには、時間と場所を柔軟に変えられる特徴がありますが、今回は、場所を変えることでエンゲージメントが向上したと考えられます。また、こうした傾向は環境変化に適応しやすいと思われる若年層に表れています。

ワーケーションが地方自治体に与える経済波及効果

実施した各県における経済波及効果の推計は次のとおりです。

和歌山県 徳島県 長崎県
前提:ワーケーション参加人数(年間) 約5,000人 約2,000人 約6,400人
ワーケーション実施による経済波及効果 約5億円 約2億720万円 約2億7,500万円
和歌山県 徳島県 長崎県
前提:再訪者数(年間) 約1,500人 約650人 約1,900人
再訪(観光)による経済波及効果 約1億5,000万円 約6,200万円 約8,200万円
和歌山県 徳島県 長崎県
前提:移住者数(年間) 50人 22人 64人
移住・定住による経済波及効果 約8,900万円 約4,700万円 約1億5,000万円
和歌山県 徳島県 長崎県
前提:二拠点居住実施人数(年間) 50人 22人 64人
二拠点居住(兼業・副業)による経済波及効果 約4,400万円 約2,300万円 約7,500万円
和歌山県 徳島県 長崎県
10年間で生じる経済波及効果
(再訪、移住・定住、二拠点居住を含む)
約123億円 約58億円 約136億円
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