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人的資本経営を科学する

人的資本経営の実現に向けて

従業員(人材)を価値創出の源泉である資本と捉え、人材という資本の価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる人的資本経営に多くの企業が取り組んでいます。従業員の専門性、知識といった能力とあわせて、やりがい、組織に対するロイヤルティ(loyalty)、健康状態なども人材の価値として重要視されています。従業員の業務や組織に対する意識をエンゲージメントという概念で測ろうとする取組みも進んでいます。

人的資本経営では、人的資本を構成する要素をいかに高め、人的資本の向上により生産性、企業価値をどう改善するか、一貫したストーリーが重要とされています。

ところが、従業員のエンゲージメントなどが実際に労働生産性ひいては企業価値に影響を与えているのか、未だ十分に実証されていません。また、エンゲージメントを高めるためには、従業員にどのような働きかけを行えば効果的なのかについても実証は限られています。

当社は、2019年に関連する分野の研究者を委員として招へいし「生産性に関する研究会」を発足させました。そして、ある企業の協力により従業員アンケート、勤怠(休暇、労働時間、テレワーク)など従業員に関わるデータ、営業拠点ごとの売上などの業績に関わるデータの提供を受け、働き方、エンゲージメントを含めた従業員の意識、組織運営の状況などが組織の業績に与える影響の分析を行ってきました。

このページでは、「生産性に関する研究会」の活動成果をはじめとする、人的資本経営に関わる様々な調査研究、分析の成果を紹介していきます。

生産性研究会とは

生産性を向上させるための従業員、組織の要因を実証的に分析するため、2019年に労働経済学、生産性分析、公衆衛生学の研究者を委員として招へいし発足した研究会です。

・ 委員(五十音順、敬称略)
黒田 祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
滝澤 美帆 学習院大学経済学部教授
藤野 善久 産業医科大学教授
山本 勲 慶應義塾大学商学部教授(座長)

・事務局
SOMPOインスティチュート・プラス株式会社

分析コンテンツ

データ分析を通じて人的資本経営を加速する Vol.1
– 生産性が高い組織や個人の特徴 –

レポートをまとめてダウンロード

データ分析を通じて人的資本経営を加速する Vol.2
– 皆がいきいき働く職場を作るには –

レポートをまとめてダウンロード

委員の声

学習院大学 経済学部

滝澤 美帆 教授

【「従業員エンゲージメント」分析について】
2023年3月期から、有価証券報告書に人的資本に関する開示が義務付けられ、その開示指針の中にエンゲージメントも含まれていることから、学術界のみならず、実務的にも従業員のエンゲージメントに注目が集まっています。本分析では、まず組織のエンゲージメントを計測し、そしてその結果を用いて、営業成績との関係を分析しています。そしてエンゲージメントの値が上位と下位でグループ分けをし、その後、上位グループの営業目標の達成率が有意に高いことを確認しています。経済分野における先行研究では、エンゲージメントと利益率といった企業パフォーマンスは関係しているとの結果が示されていますが、今回は組織内の詳細なデータを用いた分析でそれが実証されていて、興味深いです。
加えて、従業員エンゲージメントの計測や分析、そして開示方法に関して他社においても参考にできる有用な情報が多く含まれた分析が行われています。

慶應義塾大学 商学部

山本 勲 教授

【上司のサポートに関する分析について】
リーダーや上司のサポートなどが部下のメンタルヘルスや満足度などの主観的な指標にプラスの影響を与えることは、産業保健や労働経済学などの分野で比較的多く研究されてきました。これに対して、ここでの分析結果は、上司のサポートが客観的な生産性指標である営業成績にもプラスの効果があることを示した点で、とても新しい発見といえます。エンゲージメントをはじめとする従業員のウェルビーイングを高めることは、決して営業成績などの組織の生産性を損ねるものではなく、むしろ生産性の向上につながることがあります。こうしたウェルビーイングと生産性の両立可能性を高める手段として、上司のサポートのあり方に注目するとよいでしょう。

産業医科大学

藤野 善久 教授

【労働者の健康と組織のパフォーマンスについて】
プレゼンティーズムの概念は学説によって様々な立場があります。本稿では、プレゼンティーズムを、労働生産性の低下に着目して分析がなされました。しかし、労働経済学においては、生産性は、労働力、資源、技術などを労働関数に入力した際に出力される結果のことです。つまりプレゼンティーズムとは、労働生産性に関わる要素の一つであって、生産性そのものではありません。プレゼンティーズムに関する考え方は、これから整理していく必要があります。
体調不良を経験する労働者のパフォーマンスが低下するであろうということは、個人単位においては、直観的にも経験則的にも納得がいくものです。しかしながら、プレゼンティーズムを経験する労働者が多いと、組織や部署のパフォーマンスが低下するかについては、これまで検証されたものはありません。組織のパフォーマンスは、労働者の健康状態だけでなく、組織の連帯感、エンゲージメントなどの要素が影響するため、個人におけるプレゼンティーズムと生産性との関連とは異なると考えられます。本稿で、プレゼンティーズムと拠点の営業予算達成率に関連がなかった理由について、プレゼンティーズムと生産性が同義でないことの他に、組織における代償性も考えられます。通常、誰かが体調不良を起こしても、組織の誰かがその人のパフォーマンスの低下した分を補うように働きます。エンゲージメントの高い組織は、このような代償性が高く働く可能性が考えられます。

早稲田大学 教育・総合科学学術院

黒田 祥子 教授

【テレワークと生産性について】
コロナ前は多くの人が不可能と考えていたテレワークですが、この新しい働き方を経験した多くの労働者からは国内外を問わず、コロナ収束後もテレワークの継続を希望する声が聞かれます。「いつでも・どこでも」という自由度の高い働き方は、労働者のウェルビーイングを上げる作用として働きうることを示していると言えるでしょう。ただし、テレワークは就業と生活の境界を曖昧にし、過労や体調不良、生産性の低下などの負の側面をもたらす可能性も懸念されてきました。本分析は、テレワークの日数が増えた部署であっても、心理的に業務量が増えたと感じる人が多かった部署もあれば減ったと感じる部署もあったことが示され、さらにその負担感の増減がプレゼンティーズムの増減と正の相関を持っていることが確認されるなど、興味深い結果を導出しています。こうしたエビデンスを元に、業務量の増減の背景を探っていくことで、職場や企業はどのような対策をとればテレワークを継続しつつも、心理的な負担感を減らし、労働者のウェルビーイングと生産性の向上の同時実現が可能となるかを検討していくことが可能となります。

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