ヘルスケア・ウェルビーイング

新型コロナと地域医療供給体制(1/3) ~地域医療連携推進法人制度~

主任研究員 福嶋 一太

新型コロナウィルス感染症の流行を受けて、医療の供給体制に係る課題が指摘される機会が増えた。しかし、これらは、パンデミック対策としてだけでなく、通常の医療サービス提供体制の課題として考えるべきである。本稿ではキーワードを挙げながらこれらの課題を3回に分けて解説する。初回は、2017年に始まった「地域医療連携推進法人制度」を取り上げ、入院患者の受け入れ体制に係る課題を考える。

1.新型コロナウィルス感染症の流行で浮き彫りになった3つの課題

医療関係者の発言や新聞等のメディア報道などで指摘されている主な課題には以下の3点がある。これらはパンデミック対策としての課題であると同時に、地域住民の健康を支える通常の医療サービス提供体制としての課題と捉えられるべきである。

(1)入院患者の受け入れ体制に関するもの

緊急性の高い重症患者を中心に、入院や手術などの高度な医療を24時間体制で提供する急性期病院で新型コロナの軽症者を受け入れたため、他の患者の治療が中止、延期されたケース1や、患者情報が医療機関間で共有されていないため患者の転院に時間を要したケース2などが指摘されている。

(2)ICU病床に関するもの

治療薬やワクチンの開発までの間に求められる集中治療室(Intensive Care Unit、通称「ICU」)の病床数が不十分であるとの指摘がある。日本の急性期病床数は人口1,000人あたり約7.8床であり、コロナウィルスによる死亡者が少なかったドイツの6.0床を上回る病床数である3。一方で、ICU等の人口10万人あたりの病床数は13.5床であり、先進国では低い水準である4

(3)医療サービスの地域格差に関するもの

過疎化や高齢化などを背景とした医療供給体制の地域格差が指摘されている。地方における医師不足に加え医療関係者の過重労働なども課題とされる。

本稿ではキーワードを挙げながらこれらの課題を3回に分けて解説する。第1回目の今回は、「地域医療連携推進法人制度」に着目し、入院患者の受け入れ体制の整備に関する課題解決の方向性を考えたい。

2.地域医療連携推進法人とは

(1)制度概要

一般企業では、意思決定の迅速化、事業会社の責任や権限の明確化、リスクの分散、スムーズな買収や合併などを目的に持株会社を設立し、企業をグループ化する手法がある。医療機関においてこれに相当する仕組みとされるのが、2017年にスタートした地域医療連携推進法人制度である。地域の医療機関等が連携して核となる一般社団法人を設立し、その法人が参加医療機関間の機能分担や業務連携の推進を行う。なお、法人の認定・監督は都道府県知事が行う。

医師や医療機関の偏在化が進む地域等を想定し、競争ではなく協調や連携を促し、高齢化に対応した医療提供体制の整備、地域包括ケアシステムの推進等を目的に2017年4月より導入された《図表1》。

地域医療連携推進法人を設立する主なメリットは以下の3点とされている。

①医療人材のキャリアパス構築、医師・看護師等への研修共同化、経営者の後継者不足問題への対応。

②一定の要件の下での医療機関間での病床融通、高額医療機器共同購入、医薬品・医療機器共同購入。

③法人による参加医療機関等への資金貸付、債務保証等。

制度導入当初は、一般企業における合併や買収のようなイメージが強く新制度への慎重な姿勢が見られ、4法人の導入に留まっていたが、2020年10月には20法人となっており、近年急速に拡大している5。参加機関の独立性を保ちながら、医薬品の共同購入や法人間の病床融通、人的交流、共同研修等が可能な仕組みであることが認知されたことがその背景とされている6。また、地域包括ケアシステムの構築に向けた医療機関等の域内連携の必要性への認識が近年一層高まったことなども要因とされている7

(2)課題

拡大を続けている一方で、課題も挙げられている。医薬品の共同購入や医師・看護師などの人材確保などの面で想定メリットが実現している一方、医療機器間の病床融通等の機能分化は進んでいないとされる。その要因として、病床調整が重視される地域医療計画では新規病床の開設が難しいため、無償での病床融通を行い難いことが指摘されている8

また、株式会社形態の事業者を当該法人に統合できないため介護事業者の参加が少なく、地域包括ケアシステムに必要な地域医療と高齢者介護の両方を支える機能を十分に発揮できない点や、医療機関が導入している基幹システムの相違などから参加機関間での画像や診療のデータ共有に一定の時間を要する点などが指摘されている。

3.事例紹介(山形県「日本海ヘルスケアネット」)

入院患者の受け入れ体制の整備に資する地域医療連携推進法人の事例として、「日本海ヘルスケアネット」を紹介する。山形県酒田市の日本海総合病院などを運営する地方独立行政法人「山形県酒田市病院機構」を中心にして地区医師会や薬剤師会、歯科医師会の3師会をはじめ、地域の医療法人、社会福祉法人など10法人を巻き込んだ地域医療連携推進法人である9。病院にとどまらず、地域の主要医療関係者を網羅しているのが特徴で、法人内の機関全体で互いにサポートしながら、医療機能の分担と連携、効率化、質の向上を目指しており、地域医療構想の実現に向けた取り組みとして注目されている。

主な連携業務は、医療機器の共同利用、医療材料・薬品等の共同購入、医療介護従事者の派遣体制の整備、人材育成、人事交流など多岐にわたる10《図表2》。本稿では「診療機能等の集約化・機能分担」に着目する。

※上記の他、経営効率化の観点から「医療機器等の共同利用」、「医療材料・薬品等の共同交渉・共同購入」、「委託業務の共同交渉」「地域フォーミュラリの推進」なども行われている。

(出典)日本海ヘルスケアネットホームページより当研究所作成

(1)透析患者受け入れに係る機能分担

日本海ヘルスケアネットでは、透析患者の受け入れにおいて機能分担を行っている。日本海総合病院では新規や高リスク・不安定な透析患者を受け持ち、それ以外の慢性期透析患者は、参加する健友会本間病院が引き受ける11。仕組みの構築にあたっては、健友会本間病院の透析稼働率を約50%上げる必要があったため、これに要する主要スタッフを日本海総合病院から出向させることや、健友会本間病院で行っている約80例の手術を日本海総合病院へ集約するなどの対応が行われた12。また、病院間の患者を輸送するバスの整備や使用システムの統一化など環境面の整備も進んでいる。

この結果、健友会本間病院では透析患者の受け入れによる医業収入が年間で59百万円増加したほか、日本海総合病院からの応援医師による休日の診療体制の確保が実現し、連携効果が上がっている13

(2)地域医療連携推進法人制度の活用

日本海ヘルスケアネットに参画する健友会本間病院の本間修理事長は、連携体制を構築するための地域医療連携推進法人の重要性について触れている。同氏によれば、日本海総合病院との連携当初は、ホールディングカンパニーが参加法人を吸収合併するような組織再編では多様な出資者の合意形成は難しいと判断しており、連携は表面的なものに留まっていたが、法人間の独立性を維持できる緩い連携機能を持つ地域医療連携推進法人制度であれば、出資者などの利害関係者等の調整は可能と判断し、日本海ヘルスケアネットへの参画を決定したとその意義を説明している14

4.おわりに

地域医療連携推進法人制度は、複数施設が協働する新しい医療経営形態として収益・費用構造を大きく効率化し得る一方で、まだ歴史が浅いため未知数な部分も多い。

しかし、地域医療連携推進法人が有する機能である、参加する病院や診療所等が横の連携を深めることで診療科間や急性期・回復期の過不足病床の融通を可能にする点は、地域の医療資源を今まで以上に有効活用し、医療サービスの地域格差の解消と最適化に資する点で極めて有益である。

また、患者情報を医療機関間で共有しやすく、発症時、急性期、回復期、慢性期といった患者の病状変化に左右されることなく、スムーズで的確な医療サービスの提供も期待できる。

今回取り上げた「日本海ヘルスケアネット」では、機能分担などを通じて得意分野や役割が異なる医療機関がパートナーとして協力関係を構築している。こうした協力体制は、災害時や新型コロナウィルス感染症の流行時といった非常時においても、スピード感のある機動的な対応を可能にし、地域医療のレジリエンス向上にも資すると考えられる。

地域医療連携推進法人制度は、非常時の入院患者の受け入れ体制の強化を含め、地域における限られた医療資源を効率的に活用し、切れ目のない医療サービスを供給する体制の構築に向けた一つの方向性を示していると思われる。

  • 「緊急度低い入院、コロナで少なく ⽩内障・ポリープは 2 割減」(日本経済新聞、2020 年 9 月 29 日)
  • 「コロナ患者の情報共有進まず ルール統一で転院容易に」(日本経済新聞、2020 年 6 月 5 日)
  • OECD (2020), Hospital beds (indicator).
    https://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm
    (visited Nov. 20, 2020)
  • 「ICU 等の病床に関する国際比較について」(厚生労働省、2020 年 5 月 6 日)
  • 厚生労働省ホームページ 「地域医療連携推進法人制度について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html
    (visited Nov. 20, 2020)
  • 日経ヘルスケア「メリット見えてきた『地域医療連携推進法人』」(日経 BP、2019 年 9 月号)
  • 同上
  • 山本光昭 「医療アライアンス法人構想 病院の新たなグループ化の提言」(医学書院、「病院」79 巻 4 号 2020 年 4 月)
  • 「財界」編集部 「日本海ヘルスケアネットの『医療と福祉』大連合~想定外のリスクにも即時対応~」(財界研究所、 2020 年 6 月)
  • 日本海ヘルスケアネットホームページ
    https://nihonkai-healthcare.net/partnership.html
    (visited Nov.20, 2020)
  • 前掲注 9
  • 同上
  • 厚生労働省 社会福祉法人の事業展開等に関する検討会(第 5 回)資料 1(2019 年 11 月 29 日)
  • 前掲注 9

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