企画・公共政策

対面型サービスは供給制約を解消できるか ~求められる政策的な予見可能性の向上~

主任研究員 小池 理人

経済活動の正常化や政府による需要喚起策の実施によって、これまで大きな打撃を受けてきた対面型サービスに回復の動きが見えてきた。しかし、コロナ禍で対面型サービスは労働力の減少や設備投資の抑制を余儀なくされてきたため、需要の急回復に対応することは容易ではない。対面型サービスが需要の回復に対応するためには、供給能力の回復が急務である。そのためには政策的な予見可能性を高め、事業者が人材や設備への投資を積極的に行える環境を整えることが必要になるだろう。

1.経済活動の正常化と需要喚起策によって回復する対面型サービス

今秋以降、全国旅行支援の実施や水際対策の緩和、GoToイートキャンペーンの再開など、飲食業や観光業といった、いわゆる対面型サービスへの追い風が強まっている。新型コロナウイルスが国内で確認されて以降、対面型サービスは、消費者による外出手控えや行動制限の影響を受け、経営環境の急激な悪化に見舞われてきた(図表1)。とりわけ宿泊業は、国内で新型コロナウイルスが確認されてから、ほとんどの期間で経常利益が赤字となるなど、厳しい状況に追い込まれてきた(図表2)。

しかし、今秋以降、経済活動正常化によって、コロナ禍で打撃を受けた対面型サービスの回復が鮮明になってきている。クレジットカード消費額(JCB消費NOW)をみると、対面型サービスの消費は大きく回復しており、外食についてはベースライン対比でプラスの水準にまで回復している(図表3)。水際対策によってほぼ消失状態となっていたインバウンドについても、水際対策の緩和によって訪日外客数の回復が増え始めており、今後、国外からの需要を取り込んでいくことが期待される(図表4)。

2.経済活動正常化の中で懸念される供給制約

経済活動正常化の中で懸念されるのが供給制約だ。新型コロナウイルスが国内で確認されてから、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった行動制限が繰り返し課されることにより、飲食業・宿泊業をはじめとする対面型サービスは供給力の削減を余儀なくされた。労働力調査によると、2021年の宿泊業、飲食サービス業の就業者数は369万人とコロナ前である2019年の420万人から51万人も減少している(図表5)。コロナ禍で急速に需要が減少したことを背景として労働力が大きく減少していることが示唆される。労働力が減少する中で、経済活動の正常化や政府による需要喚起策によって対面型サービスに対する需要が急回復しているため、人手不足感が急速に強まってきている。日銀短観(9月調査)においても、宿泊・飲食サービス(全規模)の現状判断DIが▲47、先行き判断DIが▲53と人員不足が進むことが見込まれている。経済活動の正常化が進む中で全産業(全規模)の現状判断が▲28、先行き判断DIが▲31となるなど、まだコロナ前には届いていないながらも、全産業においても人手が不足している中で、対面型サービス事業者が人材を確保することは容易ではない(図表6)。毎月勤労統計によると、飲食サービス業等の賃金(コロナ前の2019年、一般労働者)は全産業の約7割と、他の産業と比較して低いことから、少なくとも賃金面において、他産業との人材獲得競争を勝ち抜くことは困難であると言える。

また、設備投資の回復も鈍い。全産業(全規模)の設備投資(含む土地投資額)が2022年度計画でコロナ前を上回る水準となっているのに対し、宿泊・飲食サービスはコロナ前の7割程度に止まっており、水準は依然として低い(図表7)。宿泊業については、コロナ前には2020年の訪日外客数4000万人という目標が掲げられ、急激に需要が増加していく中で、供給不足が懸念されていた。実際にはコロナ禍の影響によって、需要超過・供給不足を巡る問題は影をひそめる形となったが、水際対策の緩和によって外国人観光客が回復し、更には2030年に訪日外客数6000万人という政府目標を達成するためには積極的な設備投資が必要になる。コロナ以降、宿泊業の工事費予定額は減少が続いており、経営状態の悪化によりコロナ前に懸念されていた供給不足の問題に対処する力が失われているように見える(図表8)。設備投資を十分に行うことができない状況が続けば、今後需要が回復していく中で、コロナ前に懸念されていた供給不足の問題が早晩顕在化することになるだろう。

3.人材・設備への投資を行うためには、予見可能性を高めることが不可欠

対面型サービスは経済活動が正常化する中で、人材・設備への投資を行うことが求められる。そのためには、不確実性を低下させることが必要になるだろう。感染状況悪化に伴う行動制限や需要喚起策といった政策によって、事業者の経営環境は上下に振れをもって推移してきた。もちろん、感染を抑制する行動制限や事業者を側面支援する需要喚起策は必要なものである。しかし、ただでさえコロナ禍で先行きを見通しづらい事業者にとって、政策的な不確実性が加わることで将来の見通しを一層不透明にすることになり、積極的な人材採用や設備投資を一層抑制することに繋がりかねない。今後の消費を考える上で、第8波の到来が懸念されているが、どの程度の毒性でどの程度の感染状況であれば行動制限がなされるのかを明確化し、予見可能性を高めることが、事業者にとっての不確実性を取り除くために必要になるだろう。また、GoToトラベル実施時には予算の追加や事業の延長が行われたが、需要喚起策にかかる予算規模や実施期間が途中から変動することも、経営環境の不確実性を高めることに繋がる。既に全国旅行支援についても年明け以降の延長が発表されているが、安易な規模の拡大・実施期間の延長は予見可能性を低下させることになり、望ましくない。感染状況は刻一刻と変化するものであり、全てを事前に決定できるものではないが、政策的な予見性を高めることで、事業者の先行きへの不透明感を払拭し、積極的な人材・設備への投資意欲を高めることが、供給不足を緩和する鍵となるだろう。

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