ヘルスケア・ウェルビーイング

社会的養護のこれから(2)

副主任研究員 北山 智子

社会的養護のうち、里親制度が基本的には実親の元で暮らすことができるようになるまでの養育であるのに対し、永続的解決として特別養子縁組制度が存在する。特別養子縁組の成立件数は伸び悩んでおり、近年の育児休業法や民法改正による制度改定の効果は限定的である。児童相談所と民間あっせん事業者の連携が進まないことや、養子の年齢によっては育児休業が取得できず、共働き夫婦が養子を迎える障壁が高いことなどの課題が浮かび上がる。特別養子縁組に関連する制度の整備・周知や予期しない妊娠をした親へのサポートが広がることで要保護児童が減少し、永続的な家族関係の下で養育される子どもが増えることが望まれる。

1.はじめに-パーマネンシー保障としての特別養子縁組

前回の「社会的養護のこれから(1)」では、里親制度の動向や海外の社会的養護の事例について見てきた。里親制度が基本的には実親の元で暮らすことができるようになるまで、あるいは自立するまでの一時的な養育であるのに対し、特別養子縁組制度は永続的に養育を保障する(パーマネンシー保障)ものである。特別養子縁組で引き取られた子どもは戸籍上も実子として取り扱われ、永続的な家族関係を築いていくことができる。

特別養子縁組は1987年の民法改正により導入された子どもの福祉や利益のための制度で、家の存続等を目的とする普通養子縁組とは全く異なる制度である≪図表1≫。

特別養子縁組で子を迎え入れる親(以下養親)と迎え入れられる子ども(以下養子)のあっせんは、全国の児童相談所もしくは「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律(平成二十八年法律第百十号)」に基づき都道府県による認可を受けた民間あっせん事業者(以下民間事業者)が実施している。養親希望者は児童相談所または民間事業者に特別養子縁組を申し込んだ後、審査・面談を経て研修を受講したうえで養親候補者(児童相談所の場合は養子縁組里親)として登録する。児童相談所・民間事業者は実親の同意を得た児童と養親のマッチングを行い、養親に委託する。養親はそののちに家庭裁判所に審判を申し立て、6か月以上の試験養育期間(監護期間)を経て審判が確定すると、特別養子縁組が成立する。

里親や施設のもとで生活している要保護児童のうち、家族との交流がない子どもは1万1,000人超に及ぶ1。特に低年齢の子どもたちにとって特定の大人との愛着関係の形成は心身の発達において重要であり、これらの子どもの福祉の増進を図る観点から、特別養子縁組の拡大が望まれる。

2.特別養子縁組制度を巡る動向

(1) 制度改正と成立件数推移

特別養子縁組の成立件数は制度導入直後こそ普通養子縁組からの切替え等により最大で年間1,200件を超えたが、その後減少局面に入り年間300件を割り込む時期もあった。支援活動の活性化などで2013年度から概ね増加傾向に転じ2019年度には711件となったものの、直近2年間の成立件数は伸び悩んでいる2≪図表2≫。

厚生労働省は2017年に公表した「新しい社会的養育ビジョン」において、家庭養育優先の原則に則り「概ね5年以内に現状の約2倍の年間1,000人以上の特別養子縁組成立を目指し、その後も増加を図る。」という具体的な数値目標を掲げている3が、2021年度の成立件数は683件と目標の達成は難しい見込みである。

2017年には育児・介護休業法の改正により、それまで対象外であった特別養子縁組の監護期間についても育児休業の対象となった。また、2019年の民法改正により養子の年齢条件が「原則6歳未満」から「原則15歳未満」に引き上げられるとともに、家庭裁判所における養親の手続きにかかる負担が軽減された。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を加味しても、制度改正の効果は限定的であったと見られる。

(2)児童相談所と民間事業者の連携

特別養子縁組あっせん件数の内訳(2015年度)は児童相談所で306件、民間事業者で156件であった4。全国に児童相談所は230設置されている5のに対し、民間事業者は23団体である6ことを踏まえると、1つの児童相談所が取扱う件数は少ないことが分かる。これは児童相談所において里親・養子に関わる業務の専従組織がある割合が全体の15.6%に留まる7ことも影響していると考えられ、虐待等の緊急性が高い事案の対応に追われて養子縁組の取組みにまで手が回らない状況が浮かび上がる。

また、民間事業者が扱うケースでは主に実親からの「子を育てられない」という相談が端緒となるのに対し、児童相談所は乳児院などの施設にいる要保護児童から将来的にも実親の元に戻ることが見込めない子どもを養子として検討するケースがあり、その場合、実親から養子とすることについての同意取得の必要が生じる。実親への連絡が取れない、同意が得られない、または同意が得られたもののそれが翻るなど、同意取得に困難が生じるケースも多い8

このような観点から、養子縁組に関わる業務について民間事業者でも対応可能なものは児童相談所から民間事業者へ委託することが有効であると推察される。現状、養子縁組に関する業務を民間団体等に委託している児童相談所の割合は5%に留まる9。大阪府の児童相談所は民間事業者と連携し、養子縁組里親のリクルートや研修の実施、養子縁組成立後の支援などの業務を委託している10。このように両機関の連携が進むことにより、養子縁組の取組みの拡大が期待されるが、それには現在都市圏に集中している民間事業者が全国に広がることが不可欠である。

現在、多くの民間事業者は運営にかかる費用のほとんどを寄付や養親からの手数料で賄っており、これが民間事業者数の増加を阻害する一因と見られる。公的な支援としては厚生労働省の「養子縁組民間あっせん機関助成事業」が存在し、2022年度から対象となる事業者および助成金が拡大されているが一事業者が受けられる助成額は限定的である11。児童相談所からの委託が進むことで委託費用が民間事業者に支払われ、運営面の負担軽減も見込むことができる。

3.特別養子縁組の拡大に向けた課題

(1)不妊治療を行う夫婦への情報提供

ある民間事業者によると、養親希望者の大部分は不妊治療を経験している12。治療を繰り返しても子どもを授からなかったという過程を経たのちに、特別養子縁組の存在を知ったという夫婦も多い。厚生労働省は不妊治療を行う夫婦に対して子どもを迎える選択肢として里親・特別養子縁組の情報提供を強化する指針を2022年に制定し、夫婦向けのチラシや医療機関での説明用の手引きを公開した。不妊治療開始と同時に特別養子縁組や里親制度があるという情報を提供することにより、夫婦にとって将来的な選択肢が広がる可能性がある。なお、養親の年齢上限について一律の制限はないが、民間事業者によっては45歳以下などの基準を設定しているため、早期の情報提供によって選択肢の消滅を防ぐこともできる。

実際に不妊治療を経て最終的に養子を迎えた夫婦からは「治療中はそれ以外の選択肢はなかなか考えられないかもしれないけれど、最初に家族になる方法はひとつじゃないんだということを知っておければ、いざ治療に迷ったときに、立ち止まって他の選択肢も含めて考えることができる。」という声が上がる13

特別養子縁組制度はあくまでも子どもの福祉のための制度であり、子どもを望む親のためのものではないことには留意が必要である。しかしながら里親や普通養子縁組と異なり、特別養子縁組成立後は子どもとの関係を解消することはできないため、より実子に近い形で養子を育てたいと考える強い気持ちを持った夫婦の希望に応えつつ、子どもの福祉も確保できる可能性がある。

(2)想定しない妊娠への支援の拡大と周知

新生児への虐待や放置事件が後を絶たない。虐待死(心中を除く)の年齢別内訳を見ると、0歳児の占める割合が65.3%と最も高く、生後3か月までに死亡している事例がその内の75%を占める14。母親が周囲に妊娠を告げられないなどの社会的孤立も背景にある。

愛知県の児童相談所では、妊娠中や出産直後の相談に応じ、新生児を病院から直接里親宅へ委託する「特別養子縁組を前提とした新生児の里親委託」を30年近く前から実施している。この方法は、想定しない妊娠に直面した女性が安心して出産を迎えることができるとともに、迎える親側も自然に親子関係を紡ぐことができるという利点を持つ。

福岡市も社会福祉法人と連携し、予期せぬ妊娠・出産に関する支援を実施している。想定しない妊娠をした女性の相談に乗り、医療機関・公的機関への同行や住居の提供、また産後の自立まで総合的に支援する。子どもを育てられない事情がある場合には、特別養子縁組や里親制度について説明し、児童相談所や民間事業者につないでいる15。多くの民間事業者もSNS等による相談窓口を設置しているほか、日本財団も「妊娠SOS相談窓口」設置に対して助成している16


このような機関のさらなる拡大はもちろんのこと、その存在が支援を求める妊婦に届くような施策を打ち出す必要がある。特別養子縁組の申し出があった児童の実母の年齢は24歳以下が60%となっており(年齢不明を除く)≪図表3≫、特に若年層に届く情報提供の在り方が重要となる。

母親に子どもを育てられない事情があっても出産をサポートする機関が存在し、また、子どもが特別養子縁組により望まれた先の家庭で実子として育てられる制度があることが周知されれば、想定しない妊娠の結果虐待や放置に至る痛ましい事件を防げる可能性がある。

(3) 制度の拡大に向けた議論

①育児休業制度の改正

特別養子縁組の制度上、共働き家庭も養親となることができるが、民間事業者によっては養親が育児に専念できる環境を審査事項としているところもある。前述のとおり2017年の育児・介護休業法改正により、特別養子縁組が成立するまでの監護期間も育児休業の対象となった。しかしながら1歳以上の養子を引き取る場合は対象外となる。さらに養子が1歳未満の場合でも監護期間が直前に決定するケースも多く、養親は「時期は未定だが育児休業を取得する予定がある」ことを予め勤務先に共有しておく必要があり、共働き夫婦が監護期間に育児休業を取得することのハードルは高い。

仮に育児休業期間が養子の監護期間の開始時または申し出時から1年間、もしくは育児休業を取得できる子どもの対象年齢が引き上げられれば、養親は育児休業を取得しやすくなるだろう。共働き夫婦の割合が7割を超える現状17を踏まえ、このような制度改正が望まれる。

②同性カップルなどの多様性の受容

特別養子縁組の養親は法律上の夫婦に限られており、同性カップルやシングル家庭では養親となることはできない(里親は登録可能である)。欧米をはじめ、先進国では同性カップルでも養子を持つことは一般的であり、多様性の観点からも同性婚と同様に議論が拡大し、そのことによって特別養子縁組制度に対する世間の認知度が向上することを期待したい。

4.おわりに

前稿では、予防的ケアの強化により早期に家庭に介入して社会的養護を必要とする要保護児童の増加を防止する重要性を報告した。同様のことが、生まれる前の子どもにもあてはまる。想定しない妊娠などにより不安を抱える女性へのサポートが広がり、また、特別養子縁組に関連する制度が整備・周知され、社会的養護を経由せずに永続的な家族関係の下で養育される子どもが増えることが望まれる。

2023年4月に発足するこども家庭庁は「こども真ん中社会の実現」を掲げている。現在社会的養護下で暮らす約4万2,000人の要保護児童についても、誰一人取り残さない社会の実現が求められる。子ども一人一人の年齢・特性・親との関係等の背景に応じて、施設・里親・特別養子縁組などの制度が適切に適用されていくことが期待される。

  • 厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査の概要」(2020年)
  • 裁判所「司法統計年報(家事編)」
  • 厚生労働省「新しい社会的養育ビジョン」(2017年)
  • 厚生労働省 児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会「特別養子縁組に関する調査結果について」(2016年)
    <https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000147425.pdf>
  • 2023年2月1日時点。厚生労働省Webサイト「全国児童相談所一覧」
    <https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/zisouichiran.html>(最終閲覧日2023年2月20日)
  • 2022年4月1日時点。厚生労働省「養子縁組あっせん事業者一覧(令和4年4月1日現在)」(2022年)
  • 厚生労働省「特別養子縁組制度の利用促進の在り方について」(2017年)
  • 前掲注4
  • 厚生労働省「児童相談所関連データ」(2022年)
  • 厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」(2022年)
  • 同上
  • 慈恵病院Webサイト
    <https://jikei-hp.or.jp/engumi/faq/>(最終閲覧日2023年2月15日)
  • 厚生労働省「不妊治療中の方等への特別養⼦縁組制度・⾥親制度に関する情報提供の⼿引」(2022年)
  • 厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告)」(2022年)
  • 福岡市にんしん相談 こももティエWebサイト
    <https://comomotie.jp/>(最終閲覧日2023年2月8日)
  • 日本財団Webサイト
    <https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2020/20200720-46440.html/>(最終閲覧日2023年2月15日)
  • 内閣府「令和4年版男女共同参画白書」(2022年)

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