フューチャー・ビジョン・ラボ

ChatGPTが変える検索と仕事のスタイル

主任研究員  内田 真穂

対話型AI「ChatGPT」が世界を席巻している。ChatGPTの衝撃はグーグルとマイクロソフトによる次世代検索エンジンの開発競争に発展している。ChatGPTのような文章生成系AIは仕事のスタイルも変革し得る。質の高い文書を迅速に容易に作成できるようになり、文章作成業務は人間とAIのハイブリッド作業になっていくと予想される。一方でAIはその特性上、間違った内容を出力する欠点がある。教育現場では人間の思考能力の低下も懸念されている。AIの負の側面も認識しつつ、どう活用していくかが問われている。

1.はじめに

米新興企業OpenAIが2022年11月30日に公開した対話型AI「ChatGPT」が世界を席巻している。公開直後から爆発的な勢いで利用が広がり、スイスの銀行UBSによると、2023年1月までの2か月間で推定利用者数は1億人に達した

ChatGPTの衝撃は次世代検索エンジンの開発競争に発展している。対話型AIが検索エンジンに置き換わるとの見方も出る中、検索で最大シェアを誇る米グーグルはChatGPTに対抗すべく、2月初旬に対話型AI「Bard」を投入した。同じく2月初旬、米マイクロソフトは同社の検索エンジン「Bing」にChatGPTを搭載した「新しいBing」を発表した。

本稿では、ChatGPTがなぜこれほど注目を浴びているのかを解説し、ChatGPTを巡る米大手テック企業の動向と検索エンジンへの影響を概観する。さらに、ChatGPTが我々の仕事にどのような変化をもたらし得るかを解説する。

2.ChatGPTは何が凄いのか

ChatGPTとは、OpenAIが開発した人間レベルの会話能力を持つ「チャットボット」である。ユーザーが質問・要望を入力すると、AIが瞬時に文章を生成して回答を提示する。多言語に対応しており、日本語入力も可能である。OpenAIはこれまでも言語を扱う非常に高度なAIを開発してきた。2020年に発表した「GPT3」はキーワードを与えるだけで自然な文章を作成し、当時も人間と見分けがつかないブログなどを書いて話題となった。ChatGPTはそのGPT3の改良版である「GPT3.5」にチャット機能を付け加えたものである。

ChatGPTが注目されている理由は、非常に広範なジャンルの質問・要望に対応し、ユーザーの期待を上回る回答を返してくる点にある。単に知りたいことを教えてくれるだけではなく、質問に応じて複数の選択肢を提示したり、課題や懸念を伝えたり、助言したりする。例えば、おいしいコーヒーの淹れ方やスピーチで緊張しない方法など、正解が一つでない質問にも巧みに回答する。驚くのはそれだけではない。エッセイ、読書感想文、歌詞、プログラミングコードを書くといった要望にも高レベルで対応する。

加えて特筆すべき点は、不適切な質問や要求を拒否する機能が組み込まれている点である。例えば、筆者が試しに「会社をずる休みするための言い訳を考えてほしい」と要求したところ、回答を拒否されるばかりか、そのようなことはするべきでないとたしなめられてしまった(図表1)。ChatGPTは「強化学習」を行い、AIが出力した文章が好ましいものか否かを人間が評価し、より評価される文章を出力できるようモデルが調整されている。

AIのデタラメな回答や不適切な回答は時に炎上事件に発展する。米メタはChatGPTの登場より半月早い2022年11月15日、科学者向けの対話型AI「Galactica」を公開した。Galacticaは大量の学術論文を学習したAIで、科学的な質問や文献調査などへの活用が想定されていた。だが、デタラメな内容や人種差別的な表現を含む回答を出力したことからSNSで炎上し、わずか3日で公開停止に追い込まれた。ChatGPTもデタラメな回答を出力することはよく知られているが、好ましくない出力をしないよう鍛えた成果であろうか、これまでのところ炎上には至らずに済んでいる。

3.対話型AIと検索エンジンの融合

(1)グーグルへの影響

ChatGPTの衝撃は米ビッグテック最強の一角であるグーグルを動揺させた。グーグルは検索エンジン市場において世界一のシェアを有している。統計サイトStatistaによれば、Google検索のシェア(デスクトップ利用)は84.0%(2022年12月時点)と圧倒的首位の座にある。だが、検索エンジンに頼らずとも知りたいことはなんでもチャットボットが即答してくれるとなれば、Google検索の利用が減少する可能性がある。それは同社の収益基盤である広告収入の減少につながるおそれがある。 

Googleの広告収入は「Google検索関連」、「Googleネットワーク」、「YouTube広告」の3つに分かれる。このうち検索が関係するのがGoogle検索関連とGoogleネットワークの2つである。グーグルの親会社であるアルファベット(Alphabet)の2022年業績を見ると、Google検索関連が57.4%、Googleネットワークが11.6%と全収益の約7割(69.0%)が検索に連動した広告収入が占めている(図表2)。すなわち検索エンジンの利用が減るようだと収益に与える影響が大きい。

焦るグーグルは2023年2月6日、ChatGPTに対抗する対話型AIとして「Bard」をテストユーザー向けに公開するとともに、数週間以内に一般向けサービスを展開すると発表した。本稿執筆時点ではまだ公表されていないが、ネット上の多くの記事からはグーグルが公表に向けてテストを急いでいる様子がうかがえる。元々グーグルは、2022年5月に高度な言語能力を持つ対話型AI「LaMDA」を発表するなど、巨大言語モデルの開発に取り組んでいた。ただAIが不正確な情報や不適切な表現を出力して拡散・悪用されるリスクを考慮し、広く一般に公開することは避けてきた。グーグルがChatGPTへの対抗姿勢を露わにしたことは、ChatGPTの存在が同社にとってそれだけ脅威であることを示していると言えるだろう。

(2)マイクロソフトの動き

2023年1月にOpenAIに今後数年で100億ドルを投資すると発表したマイクロソフトは、ChatGPTを組み込んだ新生Bingを2月7日に公開した。同社のYusuf Mehdi副社長のツイートによれば、新しいBingは公開後48時間でウェイティングリストへの登録者が100万人を突破したという。BingはGoogle検索に次ぐ世界第2位のシェアを持つが、その数字は8.95%とGoogle検索(84.0%)に大きく水をあけられている。新しいBingがグーグルの牙城にどれだけ迫れるか注目される。

(3)検索エンジンの未来

検索エンジンは今後どのように進化していくだろうか。現在の検索エンジンは、検索結果画面に多数のリンクが目次のように表示され、複数のソースから情報収集するのに適している。そのためChatGPTのようなチャットボットが検索エンジンに完全に取って代わるとは考えにくい。むしろ対話型AIと検索エンジンの融合が進み、どちらのメリットも兼ね備えた新たな検索サービスが登場する可能性が高いと思われる。近い将来、新しい検索スタイルが生まれていると予想される。

4.文書作成は人間とAIのハイブリッド作業に

ChatGPTのような文章を生成するAIは仕事のスタイルも一変させる可能性がある。文章生成系AIが仕事にどのような変革をもたらすか、いくつか例を挙げてChatGPTに説明してもらった(図表3)。それによれば、例えば、①カスタマーサポートにおける的確な回答の提示、②ニュースやブログ記事の自動生成によるコンテンツ生成時間の削減、③翻訳の自動化、④広告やSEO対策のキーワードの自動生成によるマーケティングの効率化などの変革がもたらされるという。

文章を生成するAIは報告書や提案書などの様々なビジネス関連文書の作成に使用できる。AIにデータの掘り起こしと説明文の作成を任せれば、データを探す時間も文章を書く時間も短縮できる。メールの文案をAIに考えてもらってもよい。例えば、謝罪、お礼、新商品の案内、キャンペーン告知など、ある程度パターン化されている文章を書くのはAIが得意とするところだ。
文章生成系AIの汎用化が進めば、アイデアの創出と情報提供を行うAIの能力を活用することで質の高い文書を迅速かつ容易に作成できるようになる。仕事で文章を作成する業務は膨大にあるため、より短時間でより多くの文書の作成ができるようになれば、多大なメリットがあるだろう。

一方でAIが出力する文章には不正確な情報が含まれているケースがある。これはAIのアルゴリズムに起因する。AIはウェブや書籍の膨大な量のテキストのパターンをもとに次に来るべき言葉を予測して出力しているにすぎない。デタラメな内容でも一見すると説得力があるように思えるのは、過去に見たパターンに基づいて文章が最適化されているからである。ただ、当該分野の知識や専門性があれば、AIの間違いを見抜いて文章を修正できる。ゆえに仕事での活用は進んでいくと予想される。

今後、文章作成業務は人間とAIのハイブリッド作業になっていくだろう。AIは文章作成に欠かせないツールとなり、少なくとも自身が書いた記事や報告書をAIによりよくリライトしてもらうのは当たり前になっていくと思われる。

5.おわりに

ChatGPTのような文章を生成するAIは「ジェネレーティブAI(生成AI)」と呼ばれ、昨今大きなトレンドとなっている。昨年は文章を入力するだけで高精度の画像を生成するAIが登場し話題となった。ChatGPTが火をつけたことで、2023年は対話型AIサービスが次々と登場すると予想される。 

もちろん課題や懸念がないわけではない。本稿で繰り返し述べたデタラメな内容を出力するという欠点のほかにも、学生が宿題のレポートをAIに書いてもらったり、サイバー攻撃に悪用されたりといった危険性が指摘されている。実際こうした懸念は顕在化しつつある。イスラエルのCheck Point Software TechnologiesはChatGPTを使えば初心者でも悪意のあるコードを簡単に作成できるようになったと警告している。教育現場では情報収集能力や思考力の低下を懸念する声が上がっている。チャットボットの利用が常態化すると、本来養われるはずの能力が身に付かなくなってしまうおそれがある。こうしたAIの欠点や負の側面も認識しつつ、どう活用していくかが問われていると言えるだろう。

  • https://www.reuters.com/technology/chatgpt-sets-record-fastest-growing-user-base-analyst-note-2023-02-01/
  • ttps://www.statista.com/statistics/216573/worldwide-market-share-of-search-engines/
  • 「Google検索関連」は主に検索ワードに基づいて検索結果画面に「広告」と銘打って表示される広告、「Googleネットワーク」は検索ワードに基づいて第三者のコンテンツページに表示される広告を指す。
  • 前掲注2
  • https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000169.000021207.html
  • <参考文献>
  • ・イーサン・モリック「チャットGPTの登場がAIの転換点である4つの理由」(片桐嘉人翻訳、ハーバード・ビジネス・レビュー、2023年2月)
  • ・アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブ「チャットGPTは産業にどのような破壊的変化をもたらすのか」(同上)

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