企画・公共政策

官民連携によるグリーンインフラの推進

副主任研究員 宮本 万理子

本稿では、我が国におけるグリーンインフラ推進のための近年の動向を概観し、現状と課題を整理する中で今後の推進策を展望する。今後グリーンインフラを推進するための対応策として、①社会資本や自然資本、ウェルビーイング等の効果を複合した総合評価手法の確立、②グリーンインフラ推進のための支援措置や官民連携プラットフォームの創設、グリーンインフラ産業展の開催、③ESG投資等の新たな資金調達手段の3点を挙げた。グリーンインフラ推進は、気候変動対応・生物多様性保全を軸とした環境政策の要となる重要な施策である。様々な課題が残るものの、現在行われている対応策が一助になることを期待したい。

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1.我が国のグリーンインフラ推進に向けた現状と課題

(1)グリーンインフラとは

グリーンインフラとは、自然環境が有する多様な機能を国土・地域づくりに活用する考え方で、近年、欧米を中心に取組みが進められている。欧州では生物多様性保全を中心とした施策が展開されているのに対して、米国では気候変動に対応した雨水管理が主流となっている。日本では、防災・減災、環境、地域振興等の幅広い取組みが導入されているが、気候変動や生物多様性と密接不可分な関係がある点は共通している≪図表1≫。

90年代後半以降、欧米において取組みが先行していたが、日本では国土形成計画1(2015年8月閣議決定)において、「グリーンインフラ」という言葉が初めて政府文書に使われた。グリーンインフラを推進することで、「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」に対応することができるとしている。また、「自然環境が持つ防災・減災、地域振興、環境といった各種機能を活用した取組み」と位置付けられている。

(2)なぜ、今グリーンインフラが注目されるのか

グリーンインフラの取組みが注目される背景は≪図表2≫に示す通り、「世界的な潮流」と「日本固有の事情」に分けることができる。直近の出来事としては、第27回気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)における30by30の目標設定や情報開示に係るルールメイキング等が更なる国際的な後押しとなっている。

(3)グリーンインフラを巡る現状

我が国では、環境産業の取組み強化に比例してグリーンインフラの市場規模が拡大していると見られる。グリーンインフラは、環境に係るインフラ建築の一部として構築されるため、グリーンインフラだけを取り出した国内外のデータは見当たらない。しかし、環境省の環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書が区分けしている「地球温暖化対策分野」と「自然環境保全分野」が比較的近しいと見られ、今後もグリーンインフラの市場規模拡大が予測されている≪図表3≫。

(4)グリーンインフラ推進のための課題

グリーンインフラ推進のための課題として、次の3点が挙げられる。

①グリーンインフラの多面的機能を評価するための手法が不確定

グリーンインフラは多機能であるため、効果測定する指標や評価手法が定まっていない。そのため、理念や取組みの有無による善し悪しの判断になりがちで、公共事業などでグリーンインフラの導入が普及しにくい。また、産学官民の多様な主体の参画や、資金調達の阻害要因になっている。

②認知度の低さ・合意形成の難しさ

グリーンインフラは、敷地を所有する行政や民間企業と、住民がネットワークを形成して取り組むことで効果を発揮すると言われているが、認知度が低く、民間企業・住民の具体的な取組みにつながりにくい。例えば、アメリカのオレゴン州ポートランド市とワシントン州バンクーバー市の行政職員に対して行われたアンケートでは、「住民との関わり方が課題である」という回答が40%を超えており、住民の理解を得ながら取り組みを行うことの難しさが指摘されている4。たとえば、グリーンインフラとはそもそも何なのか、グリーンインフラの機能(雨水貯留・排出機能)、予算の不確実性(どのようにメンテナンスするのか)等を住民に説明し、合意形成をとることの難しさが課題として挙げられている。

③資金調達の難しさ

初期投資額や維持管理費用について、グリーンインフラとグレーインフラ(コンクリート等の人工構造物)のどちらが安価かは、案件等により異なり一概には言えないものの、資金調達が必要なことには変わらない。公共セクター(国・自治体)による財政負担は余力が限られており、一部は民間資金に頼らざるを得ない。一方で、グリーンインフラに係る事象は、典型的な外部不経済であり、民間に対して資金を拠出させる動機付けが難しい。また、グリーンインフラに対する評価手法が確立していないことも、投資意欲の阻害要因になっている。

(5)小括

近年市場規模が拡大しているグリーンインフラであるが、その推進策については、定量的な評価手法が不確定であることや、認知度の低さ・合意形成の難しさ、資金調達の難しさなどの課題がある。

2.官民連携によるグリーンインフラの推進

(1)評価手法の確立に向けた動き

グリーンインフラ官民連携プラットフォーム技術部会は、「グリーンインフラ機能の評価手法の整備に関するワーキンググループ」を2020年に立ち上げ、評価手法の確立を検討してきた≪図表4≫。同ワーキンググループでは、2020年6月に「グリーンインフラ評価の考え方とその評価例」が発表され、一定の進捗が見られている。今後は、本文書を実際に活用しながら、その内容の深化・充実に向けた展開に大きな期待が寄せられている。

(2)広報活動

国は国交省を中心に、グリーンインフラ推進のための支援措置を充実させている。官民連携・分野横断により、積極的・戦略的に緑や水を活かした都市空間の形成を図り、グリーンインフラの整備を支援している。また、都市型水害対策や都市の生産性・快適性向上等を推進する。加えて、民間事業者や自治体への補助金支給や官民連携プラットフォームの創設、「企画・広報部会」の活動によって、グリーンインフラ普及の進捗が見られる。なお、2023年2月1~3日に官民連携の一環として、はじめて「グリーンインフラ産業展」が開催された。これは企業と地方自治体間の需要をマッチングすることや、研究会を通じた産学官の意見交換が狙いで開催されたもので、官民連携のきっかけになることが期待されている。

(3)新たな資金調達手段

グリーンインフラ推進のため、持続的に民間資金を獲得するには、資金拠出する側にとって長期的なリスク・リターンを認識できるよう、プロジェクトを組成する必要がある。例えば、グリーンボンドやESG投資、インパクト投資を活用した資金調達が挙げられる。また、ESG投資をグリーンインフラに活かしていくためには、評価の透明性を確保することが重要であり、環境認証制度の整備が必要不可欠である。官民連携プラットフォーム金融部会では、グリーンインフラ整備に必要な資金調達について、公的制度、既存の金融手法および関連する認証制度の整理と活用事例紹介を通じ、グリーンインフラ導入を目指す主体と資金提供者(投資家・金融機関等)をつなぐ等の活動を行っている≪図表5≫。

3.総括

本稿は、我が国におけるグリーンインフラ推進に関する近年の動向を概観し、現状と課題を整理する中で今後の推進策を展望した。グリーンインフラの市場規模は、近年、拡大しているものの、定量的な評価手法が不確定であることや、認知度の低さ・合意形成の難しさなどが課題として挙げられた。

本稿では、グリーンインフラ推進のための対応策として、①社会資本や自然資本、ウェルビーイング等の効果を複合した総合評価手法の確立、②支援措置や官民連携プラットフォームの創設、企画・広報部会の活動、グリーンインフラ産業展開催を通じた広報活動、③グリーンボンド、ESG投資、インパクト投資等の新たな資金調達手段の3点を提示した。

グリーンインフラ推進は、気候変動対応・生物多様性保全を軸とした環境政策の要となる重要な施策である。様々な課題が残るものの、現在行われている対応策が一助になることを期待したい。

  • 国土交通省:第二次国土形成計画(全国計画)(2015年8月14日閣議決定)
    https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudokeikaku_fr3_000003.html (2023.2.20閲覧)
  • グリーンインフラ研究会(2017):決定版!グリーンインフラ、日経BP社
  • 国土交通省(2018):グリーンインフラ推進戦略、19pp
  • SHANDAS, Vivek・原田宏美(2017):アメリカにおけるグリーンインフラ導入の現状と課題について、日緑工誌42(3)、405-408
  • グリーンインフラ官民連携プラットフォーム・技術部会(2020):グリーンインフラ評価の考え方とその評価例(令和3年度中間報告書)、90pp
  • グリーンインフラ官民連携プラットフォーム:技術部会(2021):グリーンインフラ金融部会資料集、83pp

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