企画・公共政策

エネルギー政策への国民理解に関する課題 ~当社独自アンケート調査に基づく考察~

統括上席研究員  濱野 展幸、副主任研究員 尾形 和哉

2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、原子力政策をはじめ日本のエネルギー政策の転換が示された。当社では、昨今の日本のエネルギー政策に対する認知度や賛否、節電や省エネ活動への意識等についてインターネットによるアンケート調査を実施した。これらの結果から見えてくる現状と課題を報告する。

1.日本のエネルギー政策

政府は2021年に第六次エネルギー基本計画を策定した。これは、2030年度までの温室効果ガス46%削減および2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)実現を目指す上での、エネルギー政策の基本的な方向性を示したものである。具体的には、2030年に向け「徹底した省エネの追求」、「再生可能エネルギーの主力電源化」や「安全最優先での原発再稼働」を進め、2030年の電源構成比率のうち、再エネは36-38%(2021年度20%)、原子力は20-22%(2021年度7%)という目標が掲げられている。一方、2050年に向けては、安価で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や国民負担の抑制を図りつつ、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、「あらゆる選択肢を追求する」方針となっている。

2023年2月には、2022年来のロシアによるウクライナ侵略を受け、気候変動問題への対応に加え、エネルギーの安定供給確保と経済成長の同時実現のため、「GX1実現に向けた基本方針(以下、「GX基本方針」という。)」が閣議決定された。これは、第六次エネルギー基本計画に基づき、エネルギーの安定供給の確保と2050年カーボンニュートラル実現に向けた「あらゆる選択肢」を具体化したものとしても位置付けられている。特に原子力活用については「運転期間延長」や「次世代革新炉の開発・建設」など、第六次エネルギー基本計画からさらに踏み込んだ内容となっている。また、今後10年で必要となる150兆円規模の官民のGX投資を実現するため、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行についても掲げられている。このGX基本方針に関連する法案として5月12日に「GX推進法案2」が、5月31日には「GX脱炭素電源法3」が成立した。このように、日本のエネルギー政策は変化する情勢を踏まえ、検討が進められてきた。

2.エネルギー政策に係る独自調査結果と政策への示唆

当社では、こうした日本のエネルギー政策に対する国民の認識等について、インターネットによるアンケート調査を行った。結果概要と、そこから導き出される示唆は次のとおりである。

(1)エネルギー政策全体の認知度

政府はエネルギー白書20224の中で、「エネルギー政策の立案プロセスの透明性を高め、政策に対する信頼を得ていくために、国民各層との対話を進めていくためのコミュニケーションを強化していく」としている。具体的には、省エネの普及啓発や、原子力に関する国民理解促進のための広聴・広報事業などである。

本アンケート調査では、昨今の日本のエネルギー政策の認知度を評価する上で、「第六次エネルギー基本計画」や、「GX基本方針」で掲げられている政策全般をはじめとして、国民の受け止めについて調査した。

エネルギー政策の認知度については、「2030年度の温室効果ガス46%削減及び2050カーボンニュートラル達成という国際目標」「電気・ガス料金の負担軽減策」「東京都の新築住宅等への太陽光パネル設置義務化」といった政策の5割以上の人が「政策を聞いたことがある」と回答している(≪図表1≫)。

年代別では、エネルギー政策への認知度は年代が上がるほど上昇する傾向にある。また、政策のうち「2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年度のカーボンニュートラル実現という国際公約を掲げている」については、唯一20代でも「政策を聞いたことがある」と回答した人が50%を超えている(≪図表2≫)一方、GX基本方針の認知度については、いずれの年代でも「政策を聞いたことがある」と回答した人は4割に満たなかった。

各世代の認知度が最も高い政策「2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年度のカーボンニュートラル実現」に着目すると、情報の入手先について、行政機関HP、雑誌から情報を入手している人は、内容を理解している割合が62~68%程度と、他の情報源と比較して高い(≪図表3≫)。

日本政府の政策全般への信頼度別にみると、「信頼している」または「どちらかと言えば信頼している」と回答した人は、エネルギー政策全般の認知度が高い傾向にある。

行政機関HPを情報源としている人は政策の認知度が高く、内容を深く理解するのには行政機関HPの情報が有効であると考えられる。しかし、行政機関HPで情報を入手するには国民が自らの意思でアクセスする必要があることから、広く政策が伝わっていないということが考えられる。

テレビや新聞などのマスメディアは、これらを情報源としている人は政策の認知度は低いが、情報を広くある程度の影響力をもって行きわたらせるものとしては有効と一般的には考えられる。エネルギー政策の認知度向上には、行政機関がHP上で発信する情報をより広く行きわたらせるような工夫が必要であろう。

(2)原子力

一方、原子力については、GX基本方針の中で、再稼働の加速により2030年度の電源構成比率20~22%を実現するとともに、2050年に向けては「廃炉決定炉の次世代革新炉への建て替え」や「運転期間の延長」が打ち出されている。

①2030年度の電源構成目標

原子力の2030年電源比率については、「原子力を推進するべきでない」「もっと割合を低くすべき」という意見の合計が24.6%である一方で、「妥当」「もっと割合を高くするべき」の合計が42.1%となった。「分からない」という回答は33.1%である。原子力政策は世論を二分するテーマであるが、「原発推進」がやや多い結果となった。(≪図表4≫)。

年代別では、「推進するべきではない」が60代では2割以上、50代の14%と続いており、年代が上がるに連れ、原子力に否定的な傾向が見られる。20代は過半数がわからないと回答している。

「政府への信頼度」別では、政府を信頼している人では「妥当」が4割以上を占めている。信頼している人は原子力の割合が「妥当」が45%、信頼していない人は「原子力を推進すべきではない」が26%に上っている(≪図表5≫)。

②廃止決定した原子炉の次世代革新炉への建て替えに対する意見

GX基本方針における廃止決定した原子炉の次世代革新炉への建て替えに対する意見については、全体では「わからない」が38.9%と最も高い。「妥当だと思う」は37.9%、「妥当ではないと思う」は22.8%となっている(≪図表6≫)。

年代別では、30代、40代では妥当だと思うが4割を超えている。60代では「妥当ではない」が一番多い。20代は半分以上がわからないと答えている。

一方で、温室効果ガスの削減目標に対する意見別(以下、「GHG 削減目標別」)にみると、「より高い目標値にすべきだと思う(脱炭素化を進めるべきだと思う)」では「妥当ではないと思う」が43.2%と最も高い(≪図表7≫)。脱炭素に肯定的な人であっても、廃止決定した原子炉の次世代革新炉への建て替えに否定的な人がいることが見て取れる。

「政府への信頼度」別では、政府への信頼が高い人は「妥当」が多く、一方、政府への信頼が低い人は「妥当ではない」が多かった(≪図表8≫)。

③原子力発電所の運転期間延長に対する意見

GX基本方針における原子力発電所の運転期間延長に対する意見については、全体では「わからない」が48.5%と最も高く、回答者のおよそ半数にあたる(≪図表9≫)。「妥当だと思う」は29.6%、「妥当ではないと思う」は21.4%となっている。

年代別では、年代別では、60代のみ「妥当ではない」(32.8%)が「妥当だと思う」(27.1%)を上回っている。

「GHG削減目標」別では、次世代革新炉の建設と比較すると、「妥当な目標値だと思う」人の割合は低く、「わからない」と回答する人が多い(≪図表10≫)。GHG削減目標を高めるべき(脱炭素を進めるべき)人での40%程度及びGHG削減目標が妥当だと思う人の24%が、原子力発電所の運転期間延長を「妥当ではない」としており、脱炭素に肯定的な人であっても原子力発電所の運転期間延長に否定的な人がいることが見て取れる。

さらに、「政府への信頼度別」で見ると、政府への信頼度が高い人は運転期間延長を妥当とする人の割合が高く(56.0%と、信頼度が低い人の22.0%と30ポイント以上の差がある。)、また政府への信頼が低い人は運転期間延長を妥当ではないとする人の割合が高い(33.8%と、信頼度が高い人の13.0%と20ポイント以上差がある。)(≪図表11≫)。

一方で妥当と思うか思わないか「わからない」と答える人は全体で48.5%と半数近く、政府への信頼度が高い人でも30%以上、政府への信頼度が低い人では43.2%といずれでも「わからない」は高い。

これらの結果から、運転期間延長の是非について、国民の判断・議論に資する情報が十分に行き渡っていない可能性がある。

(3)節電

2022年夏、政府は7年ぶりとなる節電要請(2022年7~9月)を行った。続く2022~2023年冬には、インセンティブ型ディマンド・リスポンス6である「冬の節電プログラム(以下、「節電プログラム」という。) 7」を実施している。

2022年夏の節電要請への協力状況を見ると、「可能な範囲で協力した」が63.7%と最も高い(≪図表12≫)。「積極的に協力した」と合わせ、節電に協力した人の割合は74.1%だった。一方、「節電要請があったことを知らなかった」は7.7%となっている。年代別では20代のうち約2割の人が、節電要請があったことを知らなかった。50代以上では「積極的に協力」「可能な範囲で協力」の合計が7割を超えている。

節電プログラムの認知・参加状況については、「節電プログラムを知らない」が32.1%と最も高く、回答者のおよそ3人に1人にあたる。「節電プログラムに参加し、積極的に節電している」は9.6%、「節電プログラムに参加し、可能な範囲で節電している」は24.6%で、節電プログラムに参加し節電をした人は合計で34.2%となっている(≪図表13≫)。年代別では20代のうち約45%の人が節電プログラムを認知しておらず、「積極的」「可能な範囲」で節電に取り組んでいる人は、年代が上がるに連れて割合が高くなっている。

節電プログラムの認知・参加状況について、夏の節電要請への協力状況で比較すると、夏に節電を実施しているほど節電プログラムに参加している傾向がある。このことから、夏の節電及び節電プログラムを知っているが参加していない層を無関心層と捉えると、節電そのものに関心がない層が365人のうち37%存在しており、これらの層へ節電を促すアプローチが必要となるだろう。

(4)省エネ行動

実際に国民が取り組んでいる省エネ行動については、「高効率照明(LED照明など)の導入」が43.5%と最も高く、次いで「クールビズ・ウォームビズの実施」が41.4%、「公共交通機関や自転車の利用促進」が25.7%と続く(≪図表14≫)。全体での「取り組んでいるものはない」との回答は21.8%となっており、すなわち回答者のうち78%程度の人が何らかの省エネに取り組んだと回答している。

年代別でみると、「取り組んでいるものはない」の割合は年代が上がるにつれて減少する傾向にある。

(5)再生可能エネルギー

政府は、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を36~38%にするとしている。この割合について賛否を聞いた。

政府目標である2030年再エネ36~38%については「妥当な割合だと思う」が約38%と最も高い(≪図表15≫)。年代別では、「再エネを高くすべき」が60代で2割を超えている。「妥当だと思う」は60代、30代で4割を超えている。20代では4割以上がわからないと回答している。

「GHG削減目標別」で比較すると、「より高い目標値にすべきだと思う(もっと脱炭素化を進めるべきだと思う)」では、半数以上が電源構成における再エネの割合をもっと高めるべきと回答している(≪図表16≫)。一方で、「脱炭素化を進めるべきではないと思う」では、電源構成における再エネの割合をもっと高めるべきと回答している人は10%程度にとどまり、再エネを推進すべきではないという人が3割以上となっている。

政府への信頼度別にみると、「もっと割合を高くするべきと思う」「妥当な割合だと思う」の合計は、信頼している人では72.7%、信頼していない人でも50.6%と、いずれも半数以上となっている(≪図表17≫)。

(6) 電気・ガス料金の負担軽減策

「電気・ガス料金の負担軽減策」に対しては、「賛同する」「どちらかと言えば賛同する」の合計は60.2%であったが、その一方で「どちらとも言えない」は34.3%と3分の1以上、「賛同しない」「どちらかといえば賛同しない」の合計は5.6%となっていた(≪図表18≫)。電気・ガス料金の負担軽減策に否定的な理由としては、「電気・ガス料金ではなく、直接給付(給付金)を望むから」が31.3%と最も高く、次いで「財政への負担になると思うから」が29.5%、「高所得者も恩恵を受けるから(低所得者に支援を集中するべき)」が20.5%となっている。

3.まとめ

アンケート調査の結果から、わが国が脱炭素に向かっているという方向性については、ある程度の認知が確認できた。また、脱炭素に係る主な政策(太陽光パネルの設置・再生可能エネルギーの活用・原子力発電の活用)については、「分からない」という回答も一定割合あるものの、概ね賛成との回答が反対の回答を上回っており、政府の方針は一定の支持を得ているものと思われる。

政府の節電要請には多くの国民が協力(全体で74%)しており、認知度も92%と高かった。また、何らかの省エネに取り組んだ人は全体の78%と、国民自らが行動を起こそうとしていることが見て取れるだろう。

エネルギー政策全般の傾向について、地域差は見られなかった8が年代によって差が見られた。Z世代と呼ばれる若年層などは、環境への意識が高く知識もあって行動もしているかのようにみられることもあるが、アンケート結果からは、年代が上がるにつれ、環境に係る「知識」「意識」「行動」が高まっていることが明らかになった。

一方で、政府への信頼度(エネルギー政策に限らず、日本政府の政策全般に対してどのように感じているか)について「どちらとも言えない」と答えた層は、エネルギー政策の認知度・節電の協力要請があったこと・省エネの取組・政策への賛否(太陽光パネルなど)・電源構成(再エネ・原子力)・カーボンプライシング、すべてにおいて「分からない」と答える傾向があり、一種の「無関心層」の存在も確認できる9

日本のエネルギー政策について、国民は十分に認知し、内容を理解しているであろうか。原子力発電所の運転期間延長の結果のように、国民が公平・公正に意見を挙げるに資する情報が、広く正しく行きわたっているかという点については課題と言える。世代間の認知度のギャップ解消や、無関心層へのアプローチなど、我が国のエネルギー政策に対する信頼を得ていくためには、国民各層との対話のあり方が問われるだろう。

4.調査設計

(1)調査手法

インターネット調査(スクリーニング調査+本調査)

(2)調査対象者

全国の20~60代男女(居住地域により割付。(令和2年国勢調査における人口構成比を参照))

(3)調査時期

2023年2月24日(金)~2月28日(火)

(4)調査実施会社

株式会社インテージリサーチ

  • グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)。カーボンニュートラル実現のための経済社会システム全体の変革を指す
  • GX投資実現に向け、GX推進戦略の策定・実行、GX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入、GX推進機構の設立、進捗評価と必要な見直しを定めたもの。
  • 地域と共生した再エネの最大限の導入促進、及び、安全確保を大前提とした原子力の活用に向け、関連する法律(電気事業法、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)、原子力基本法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法))を改正するもの。
  • 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」
  • 温室効果ガス(Greenhouse Gas)の略称
  • 電力会社との間であらかじめピーク時などに節電する契約を結んだ上で、電力会社からの依頼に応じて節電した場合に対価を得る仕組み。ネガワット取引とも呼ばれる。
  • 2022年12月31日までの間に、小売電気事業者等が提供する冬の節電プログラムに参加表明した需要家(家庭を中心とする低圧の契約)は、小売電気事業者等を通じて、2,000円相当の特典が得られるというもの。冬季に実際に節電を行った場合、需要家に対する特典の支援については、契約している電力会社等によって異なる。
  • 今回のアンケートでは地域別の集計も行ったが、その結果を分析したところ特筆すべき地域差は確認されなかった。
  • 「どちらとも言えない」と答えた層がすべて「無関心層」とは限らないことに留意。

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