企画・公共政策

世帯の動向から見た空き家対策 「単独世帯」に着目して

副主任研究員 宮本 万理子、上席研究員 岡田 豊

全ての都道府県において現在空き家の増加と新設が同時並行で進行している。その背景に「単独世帯」の増加が挙げられるが、「単独世帯」の動向と住宅需給には地域特性が見られる。東京都では中高年の「単独世帯」の増加に伴いゆとりある住生活へのニーズが高まり、長年若年「単独世帯」向けであった住宅マーケットへの影響は大きい。また、和歌山県では夫婦と子どもの世帯向けの一戸建ては子どもを持たない世帯には合わず、空き家の増加が避けられない。今後の空き家対策は、全国一律ではなく、各地の状況に合わせた処方箋が必要と思われる。東京都のような経済活動が盛んなエリアでは、市場のニーズに敏感な企業やNPO等の取り組み事例が参考になろう。一方で地域経済の衰退が空き家を増加させるため、和歌山市のリノベーションまちづくりのような経済の活性化と空き家対策の連携も重要である。
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1.はじめに

人口減少時代の都市政策は、既存のインフラや住宅ストックを活かした持続可能なまちづくりが求められるが、空き家の多くはまだ十分使えるにも関わらず、広さ・間取りなどの問題から放棄され、流通市場にのらないケースが散見される。一方、住宅需要を充足させるための新設が同時並行で進行する矛盾した状況が引き起こされている。供給側では、高齢「単独世帯」による空き家相続の増加と維持管理の困難さが大きな課題とされ、需要側では、「単独世帯」の増加等を背景にした世帯の小規模化が主な要因と言われている。今後、空き家を資源として利活用するためには、「単独世帯」を中心とした小規模世帯の動向を捉え、空き家対策を推進する必要があるだろう1

こうした状況に対して、国では空き家対策に力を入れ始めている。管理不全となった空き家における固定資産税の住宅用地特例の解除2や、空き家の管理・活用に取り組むNPO等の「空家等管理活用支援法人3」への指定等を盛り込んだ「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を2023年6月に公布し、6カ月以内の施行の予定である。既に自治体でも空き家所有者と利用希望者のニーズを把握し、両者をマッチングする仕組みづくりが推進されている。しかし、同事業は主に子育て世帯を対象としており、今後増加が見込まれる「単独世帯」等の小規模世帯に対するマッチングの仕組みづくりが必要と思われる。

本稿は、東京都と和歌山県をケーススタディとして「単独世帯」と空き家動向を概観し、今後の空き家対策を検討するものである。なお、本稿は、都・県単位で考察を進めるため、自治体単位の個別事情に踏み込んだ考察は今後の機会に譲りたい。

2.人口・世帯動向から見た住宅建設と空き家

(1)人口と世帯の動向

≪図表1≫は人口と世帯の増減を都道府県別に示している。人口は、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、愛知県、滋賀県、福岡県、沖縄県以外で減少している。一方、世帯数は、「単独世帯」の増加等による世帯の小規模化を背景に、ほぼすべての都道府県で増加している。(減少している府県は秋田県、青森県、高知県、長崎県、鹿児島県に留まる。)本稿では、都道府県別人口増加率が最も高く、世帯増加率も沖縄県に次いで高い東京都と、三大都市圏の一つである大阪圏の通勤圏にあり、人口減少率が都道府県別で9番目に高いものの、世帯数が減少していない和歌山県を取り上げる。

(2)住宅の動向

≪図表2≫は世帯増加数と将来的に利用する可能性が低い「その他空き家4」増加数の関係を見たもので、世帯増加数が多いほど「その他空き家」増加数が多いことが分かる。このことは、世帯の増加は「その他空き家」の増加に一定程度繋がることを示している。東京都は世帯増加数が多く「その他空き家」増加数は他県と比較して少ない。これに対して和歌山県は世帯増加数が少なく、「その他空き家」増加数が多い自治体として位置づけられる。≪図表3≫は世帯増加数と新設住宅の増加数を示しているが、世帯数が増加するに従い、新設住宅が増加する。東京都は世帯増加数が多く、新設住宅の増加数が多いのに対して、和歌山県は世帯増加数が少なく、新設住宅の増加数も少ない自治体となっている。世帯の増加は「単独世帯」によるところが大きいことから、「単独世帯」の増加は新設住宅の増加につながる高い相関が読み取れる。東京都は再利用できる「その他空き家」の割合が少ないことから、世帯増加に対応した住宅供給を主に新設によって充足していると推察される。一方、和歌山県は世帯増加数が少なく新設住宅の増加数も少ない。なんらかの理由で「その他空き家」が流通市場にのれず、大量に放棄されている可能性も見て取れる。以上より、世帯数の増加は「その他空き家」と新設住宅の増加に繋がる可能性が示された。

≪図表4≫から全ての県で「その他空き家」が発生しているにも関わらず、新設が進行していること、新設住宅の増加数が多いほど「その他空き家」の増加数は少なくなる傾向が読み取れる。これは「その他空き家」の余剰が少ないと新設が進行することを示している。東京都が新設住宅の増加数が多く、「その他空き家」の増加数が少ないのに対して和歌山県は新設住宅の増加数が少なく、「その他空き家」の増加数が多い自治体となっている。また、全国的に見ると新設住宅の増加数と「その他空き家」の増加数には一定の相関関係にあるものの弱い関係となっている。近隣都市との人口獲得競争等の地域特性から、「その他空き家」増加数の高低に関わらず新設住宅の増加が進行している地域もあると推察される。

(3)家族類型別世帯や建物種別住宅の動向

①家族類型別世帯の動向

≪図表5≫は東京都と和歌山県の家族類型別世帯割合を示している。東京都と和歌山県ともに「その他世帯(3世代同居が多い)」、「夫婦と子どもからなる世帯」が減少し、「単独世帯」、「夫婦のみ世帯」、「ひとり親と子からなる世帯」が増加している。このうち増加が顕著な「単独世帯」を世帯主の年齢別に見たのが≪図表6≫である。東京都では39歳以下の若年「単独世帯」が最も多く、増減はあるものの一定して多い。これに対して和歌山県では、65歳以上の高齢「単独世帯」が最も多く、増加が著しい。

東京都と和歌山県では「単独世帯」の増加が共通しているが、単独化の進展はやや異なる。東京都はもともと進学・就職に伴う「単独世帯」形成が多いため、他の都道府県よりも「単独世帯」割合が高い。しかし、少子高齢化や晩婚化・非婚化に伴い、「単独世帯」でも若年が頭打ちとなり、中高年の「単独世帯」が増加している。

一方、和歌山県では以前は夫婦と子どもからなる世帯の割合が多かったが、2015年には「単独世帯」が夫婦と子どもからなる世帯を上回った。このように、「単独世帯」化が東京都に遅れて進行した。

このような家族類型別世帯割合の推移の違いは、空き家の発生や対応策に違いを生み出すと考えられる5。東京都の「単独世帯」向け住宅では、長年若年向けの共同住宅6が主に供給されてきている。中高年の住宅ニーズであるゆとりある生活のための共同住宅7とのミスマッチから、新設住宅が増えやすい傾向にある。一方、和歌山県では夫婦と子どもからなる世帯向けの住宅であった一戸建ては、そもそも子どもを持たない小規模世帯のニーズにあまり合わず、相続時に空き家となる可能性が高い。

②住宅開発の動向

≪図表7≫は東京都と和歌山県の住宅増加率の推移を示しているが、東京都では「共同住宅」の住宅増加率の方が高く、1998年以降緩やかに縮小している。今後も世帯増が想定される東京都では、空き家の活用と合わせて新設住宅の供給は一定程度必要と思われる。また、世帯の小規模化に対応し「一戸建て」の新設を抑えることが必要と思われ、小規模世帯に対する住宅供給が急務である。特に非婚化に伴う中高年「単独世帯」の増加が特別区部では見込まれることから、これらのニーズに沿う共同住宅の新設が必要である8

和歌山県の住宅増加率では、一戸建てが共同住宅を上回る時期が多いものの、直近の2013~2018年は一戸建てが大幅なマイナスで共同住宅はプラスとなっている。世帯数の増加が非常に緩やかな和歌山県では、可能な限りストックを活かした住宅供給が望まれるが、「その他空き家」率が高いにも関わらず新設が進行するのは、前述のように空き家と小規模世帯のニーズの乖離によって流通市場にのらない「その他空き家」が大量に発生していることに加えて、JR和歌山駅周辺や南海和歌山市駅周辺といった既存の住宅ストックの少ないエリアでマンション(共同住宅)開発が進められているためと推察される9。優先的に空き家を活かす点からは、一戸建て、共同住宅ともに新設住宅を適切に抑制する必要があるだろう。

③「その他空き家」の動向と対策

≪図表8≫は、東京都、和歌山県の「その他空き家」率の推移を示している。以下では、「その他空き家」の動向と空き家対策を照らし合わせる中で、自治体の住宅政策を読み取り、今後の方向性を検討したい。

東京都では、一戸建て、共同住宅ともに「その他空き家」率が低い割合(0.8~1.9%)で推移しているものの、2035年には東京都も世帯減少を迎える10ことから、付近の住宅環境に悪影響を及ぼす「その他空き家」を減らすべく、住宅需要を新築ではなく「その他空き家」の有効活用で満たすことも望まれる。そこで、東京都では、「東京における空き家施策実施方針」を2023年3月に公表した。そこでは、3つの方針が打ち出されている。1つ目は、民間事業者が実施する高い省エネ性能等の良質な住宅改修・販売の支援である。2つ目は、移住・定住用住宅や若年ファミリー向け住宅・地域の交流スペースへの改修・セーフティネット専用住宅等の供給である。3つ目は、空き家の除却のガイドブックの作成・区市町村が行う空き家の除却等に対する財政支援があげられている。しかし、今後増加が見込まれる「単独世帯」向けの対策は明示されていない。

和歌山県の「その他空き家」率は、一戸建てが共同住宅より高くなっている。既に世帯増加率はわずか0.2%(2015~2020)のため、引き続きその他空き家の増加が予想されている和歌山県では11、空き家対策に取組む市町村を支援するため「和歌山県空家等対策推進協議会」が2016年に創設され、所有者不明土地の確知、空家等相談体制の整備、老朽化が顕著なものや条件不利地に立地する流通困難な空き家の除去等に関する協議が進められている。しかし、東京都同様に引き続き増加が見込まれる「単独世帯」向けの対策は脆弱である。

3.おわりに

本稿では、東京都と和歌山県を事例に、世帯と住宅の動向から空き家の発生と対応策について概説した。空き家と新設住宅の増加が同時並行で起こることは、全ての都道府県においてみられ、三大都市圏以外で特に顕著である。

国の空き家対策は、空き家の除去費用や交流体験施設等への改修費用を自治体へ補助する「空き家再生等推進事業」(2012年)から始まり、倒壊の恐れがある等の空き家の撤去について行政代執行を可能にする「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2014年)、「全国版空き家・空き地バンク」の設置(2017年)と進められてきたが、近隣に危険をもたらす可能性のある空き家の特定と除去やコミュニティでの共同利用への転用が先行している。需給のマッチングについては全国版が2017年に始まったばかりであり、特に「単独世帯」等の小規模世帯の増加への政策対応は遅れている。

本稿で見てきたように、東京都と和歌山県では、「単独世帯」の増加によって住宅建設と空き家の発生が顕在化するが、住宅需給の関係には地域特性がある。東京都では中高年の「単独世帯」が増加しているが、こうした層の新しい住宅需要が既存の若年「単独世帯」向けニーズと必ずしも一致せず、共同住宅の新設に繋がる傾向が読み取れた。また、和歌山県では夫婦と子どもからなる世帯向けの住宅であった一戸建ては、子どもを持たない小規模世帯のニーズにあまり合わず、今後も空き家の増加が避けられない。一方で、主に大阪圏から子育て世帯を呼び込むために主要駅近くのエリアで共同住宅の新設が進んでいる。

そのため、空き家の適切な抑制にあたっては、全国一律ではなく、各地の状況に合わせた処方箋が必要と思われる。空き家は個人宅であるケースが多いことから公的支援のみでは限界があるため、市場のニーズに敏感な企業やNPO等の取り組み事例が参考になろう。空き家対策では全国単位でも各県単位でも協議会を設けられているが、そこでは先進事例の情報共有や先進事例を参考にした官民の役割分担や民間活動の支援策について議論が深まることが期待される。

例えば、空き家のマッチングでは官の取り組みは子育て世帯を主な対象としている事例が多いことから、今後増加する「単独世帯」をターゲットに民間の取り組みを支援する必要がある。具体的には、共同居住型住宅(シェアハウス等)へのリノベーションに対する支援策も考えられる。

特に、東京都のような経済活動が盛んなエリアでは民間の活動が期待できる。実際に近年では、官民連携によって所有者と利用希望者のニーズをマッチングする取組みや12、個人投資家に対する空き家紹介といったシーズ型事業を展開するなど13、空き家対策の事業化が徐々に広がっており、公的支援次第でさらなる拡大が期待できよう。

また、経済の活性化と空き家対策の連携も重要である。地域経済の衰退が空き家を増加させる一因でもあるからだ。その点で和歌山市において展開されつつあるリノベーションまちづくり14は注目される。これは、民間が遊休不動産や公共空間をリノベーションによって活用することで、地域経済の活性化を通じて空き家を減少させるものである。このような、地域活性化を通じて仕事も含めて地域で住民が活躍する場が設けられることは、住宅を含めたまちづくりに今後不可欠な視点といえよう。

  • 岡田豊(2019):世帯数の減少が各地で今後本格化、単独世帯が今後全ての都道府県で最大勢力に、みずほ総研研究所『みずほインサイト』、1-10
  • 特定空家(周囲に著しい悪影響を及ぼす空き家)に対して固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)を解除すること。
  • 空家等の管理や活用に取り組むNPO法人、社団法人等の活動を認める制度。
  • 「賃貸の住宅」「売却用の住宅」「二次的住宅」以外の住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅などを指す。
  • 平原幸輝(2022):空き家率に基づく市区町村単位の社会地図分析―「空き家」および「その他空き家」の比率を用いて-、都市計画学会論文集57(1)、1-6
  • 最低居住面積水準(世帯人数に応じて、健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積)である25㎡以上の共同住宅。
  • 誘導居住面積水準(世帯人数に応じて、豊かな住生活の実現の前提として多様なライフスタイルに対応するために必要と考えられる住宅の面積)である40㎡以上(都市型)~55㎡以上(一般型)の共同住宅。
  • 特別区長会調査研究機構(2020):特別区における小地域人口・世帯分析及び壮年期単身者の現状と課題では、特別区部における壮年期単身者は、2020年の35歳~49歳(6.0%)、50歳~64歳(3.9%)、65歳以上(5.2%)、2035年の35歳~49歳(7.0%)、50歳~64歳(6.0%)、65歳以上(6.7%)と推計している。
  • 宮本万理子・岡田豊(2023):地方都市における都市の縮退とコンパクトシティ―アフターコロナを見据えて―、都市計画学会報告集22、34-40
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」(2019年推計)による。
  • 和歌山県(2013):和歌山県長期人口ビジョン、11pp
  • 世田谷区では空き家相談窓口を設けるほか、空き家活用株式会社と連携することで区内の空き家利活用を推進している。空き家活用株式会社では、所有者と利用希望者のマッチングをするための遺品整理やリノベーション、賃貸契約等の一連の工程をコーディネートしている。
  • (一社)全国古家再生推進協議会では、空き家の再生から収益化までを個人投資家に対して提案する事業を展開している。
  • 和歌山市のHPによると、「リノベーションまちづくり」とは「今あるもの(遊休不動産・公共空間)を活かして、新しい使い方をしてまちを変えることで、民間自立型のまちづくり会社が、遊休不動産や公共空間のリノベーションを通じて都市型産業の集積を図り、雇用の創出やコミュニティの活性化等につなげていきます。」とされる(和歌山市http://www.city.wakayama.wakayama.jp/kurashi/douro_kouen_machi/1007741/1002217.html

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