ヘルスケア・ウェルビーイング

ケアプランデータ連携システムの利活用が進むための方向性

上席研究員 成瀬 昂

介護保険制度の要は介護支援専門員(ケアマネ)である。介護保険制度の持続に向けて、「ケアプランデータ連携システム」の普及によるケアマネ業務のクラウド化が進められている。今後の同システム拡充の可能性として、①情報共有相手の拡大、②共有情報の量・質の拡充、が考えられるが、障壁として、データ連携先のICTリテラシー・準備性の低さと、システム導入にかかるコストの問題、共有する情報の多様性・専門性・取り扱いの難しさがある。システムの拡充にあたっては、ケアマネが困難な状況の中で情報を入手・取り扱っていることをふまえ、彼らの思考・業務動線に沿う仕様を定義していくことが重要であろう。
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1.はじめに

65歳以上の高齢者数は、2043年にピークを迎える予測である1。そして高齢者人口の増加に伴い、介護サービスの需要、サービス給付費の財政負担の増加が見込まれている。介護保険制度の持続可能性は昨今の日本の大きな課題である。介護保険制度の開始以降、介護サービス受給者数は増加の一途をたどっており、2021年度の年間実受給者数は約547万人である2。そのうち約420万人は訪問・通所サービス、福祉用具、短期入所等を含む居宅サービスの利用者である《図表1》。居宅サービスを利用する場合には、あらかじめサービスの利用計画と目的(通称ケアプラン)を設定する必要があるが、それを補助するサービスが居宅介護支援、その業を担う専門家が居宅介護支援専門員(居宅ケアマネ)である。同年度の居宅介護支援の実利用者数は約379万人である3

介護システムの大部分を占める居宅サービス提供機構の要は居宅ケアマネである。居宅ケアマネの業務効率改善を実現するため、「ケアプランデータ連携システム(CPD連携システム)」の普及が進められている。2024年度の介護保険報酬改定を前に、CPD連携システムの現状と今後の可能性について整理する。

2.居宅ケアマネの業務とCPD連携システム

(1)居宅ケアマネの業務

居宅ケアマネは、「要介護者の人の相談や心身の状況に応じるとともに、サービスを受けられるようにケアプランの作成や市町村・居宅サービス事業者・施設等との連絡調整を行う」者である4。こうした営為を「(介護保険分野での)ケアマネジメント」と呼ぶ5。ケアマネジメントは、基本ケアと疾患別ケアに大分され6、それを遂行するための業務手続には対人支援と事務作業がある。タイムスタディ調査によれば、居宅ケアマネ1人あたりの1ヶ月間の労働投入時間は平均160.6時間で、そのうち36.2時間が書類作成(ケアマネジメントに関する帳票作成および周辺業務)に費やされている7。CPD連携システムは、書類作成を中心とした事務作業の軽量化に貢献するものである。

(2)CPD連携システム

CPD連携システムは居宅介護支援事業所と介護サービス事業所間で生じる書類のやりとりを、オンライン化するための全国共通の情報連携基盤である8。厚生労働省主導のもと、2023年4月より稼働している。ケアマネジメント業務の大まかな流れは、居宅ケアマネが利用者本人の状況を把握し、必要なサービス計画を立て、実際にサービスを提供する各種サービス事業所と合議することから始まる。合議の末、実際にサービスが提供された後、居宅ケアマネはその様子を日ごろからモニタリングしつつ、毎月末には給付管理(当月の利用実績に応じて支払われるべき利用料とその手続きを管理・補佐すること)をする。CPD連携システムは、図表2で示す通り、主にケアプラン・サービス提供実績の共有にかかる居宅介護支援事業所とサービス事業所間のやり取りをオンライン上で行えるようにするものである。システムがない場合、やり取りは基本的に書面で行われ、居宅ケアマネやサービス事業所はそれぞれ、他者から受け取った書類の情報を各自が請求管理ソフト等に手入力する作業が必要であるが、CPD連携システムの導入によってその作業時間が省力される(同時に、転記による入力ミスを回避できる)。

現在、CPD連携システムの導入には費用(年間2万1千円)が必要で、導入の有無は各事業所の判断に任されている。導入義務化に関する公の議論は見つからないが、介護人材の不足は今後20年間の国家的課題であり、そうした議論が出てくる可能性は十分にある。

3.CPD連携システムの次の可能性

(1)利活用が進むための方向性

CPD連携システムの利活用が進むための方向性として、①情報共有相手の拡大、②共有情報の量・質の拡充、の2つが考えられる。①情報共有相手の拡大とは、情報共有する相手を介護サービス事業者だけでなく、利用者・家族/医療機関/行政へと広げることである。これまでは居宅ケアマネが関係者すべての情報ハブとなる場面が多かったが、それを部分的にシステムが担うイメージである。②共有情報の量・質の拡充とは、ケアプランやサービス提供実績に限定された共有仕様(2023年8月時点)を、他の情報(例えば日常の支援経過等)へと広げていくことである。IoT/Personal Health Recordの在宅ケアへの導入・普及と、同方向の議論である。厚生労働省は近年、介護現場のICT化を積極的に推進しており、2021年度にはICT等を用いて業務負担軽減に取り組む居宅介護支援事業所への支援施策(居宅介護支援費の逓減制の緩和)を開始した9。こうしてデータが蓄積されていくことで、ケアマネジメントの質の評価や専門性の可視化など、居宅介護を支える機構全体の改善にも貢献できると期待される。

チーム内の情報交換の適切性を説明するRelational coordination理論10によれば、交換される情報は多すぎても少なすぎてもよくない。さらに、タイムリーで、正確で、問題解決的な指向性を持って、同じ目標に向かってチーム員が互いに情報を共有しあうことが、チームパフォーマンスを高めることになる。このような条件を満たすような仕様定義を作り出すことができれば、CPD連携システムは、居宅ケアマネと利用者・関係機関間のよりよい情報共有を促すキーバッファーへと成長していけると期待される。

また昨今では、ビジネスケアラー/ヤングケアラーの問題に着目が集まっている。居宅ケアマネにも課題解決の一助となることが期待されるが、主にデイタイム勤務している居宅ケアマネにとって、就労・就学中のケアラーに直接会う機会は限られるため、情報収集や関係機関との連携体制構築のきっかけや介入のためのタッチポイントが少ない。こうした状況でも、「CPD連携システムの利活用」がさらに拡大していくことで、ケアラーからの情報提供やケアラーとのコミュニケーションが図りやすくなり、適切な介入を実現できる可能性が高まると考えられる。

(2)利活用普及の障壁

障壁として考えられるのは、CPD連携システムによって情報交換する相手先のICTリテラシー・準備性の低さである。パソコンやタブレットの利用に不慣れな高齢者や医療・介護機関が多い場合には、そうしたツールを用いたデータ共有は難しい。さらに、こうしたシステム・技術を導入するためにかかるコストを負担する主体が不明確になりがちである(詳細は「Insight Plus介護ロボット等の導入が 生産性につながるロジック」参照11)。また、居宅ケアマネの業務で取り扱う情報の多様性・専門性・取り扱いの難しさは、共有データの入力フォーム、閲覧権限の管理、メンバー間での情報共有によるトラブルの発生や活用方法の複雑さにつながるため、システムの利活用を進みにくくする要因となりうる。これについては、次項で具体例を示す。

(3)居宅ケアマネが業務で取り扱う情報の多様性・専門性・取り扱いの難しさ

居宅ケアマネが取り扱う情報の多様さ、専門性の高さ、取り扱いの難しさを端的に示す事例を2つ紹介する。2023年7月、東京都内の居宅介護支援事業所への聞き取りを経て収集したものである。

事例1は、認知症・独居高齢者の認知機能低下との関わりの難しさを示す事例である。自立支援の観点から高齢者は「できることは可能な限り自分で行う」ことが基本である。例えば、鍵の管理・通所介護へ徒歩で通所すること等である。しかし、認知機能の低下によりそれらが行えなくなるタイミングがやってくる。そのままにしておくと、家の鍵をなくしてしまう、寒い冬に徘徊して戻れなくなってしまう等の事故が生じる恐れがある。特に独居高齢者の場合、リスク回避を考えれば、まだ自分でできるうちから「早めに」自立行動を取り上げるようなケアプランを立ててしまいたくなるが、それは自立支援の理念12と反する。居宅ケアマネは、日ごろから細かい日常動作や様子について情報を集め、本人の自立支援のモチベーション維持とリスク回避を両立しうるように、ケアプランの内容を常に更新し続けている。

事例2は、家族介護者から身体的・経済的虐待を受けている要介護者に対し、行政と連携して支援する難しさを示す事例である。行政からの強制的介入には至らないものの、居宅ケアマネは自宅を定期的に訪問しているため、日常の中での虐待が起きている可能性を濃く感じ取っている。行政からは、家族の様子を定期的に知らせるよう指示があり、さらにそのことを家族には知られてはいけない時期がある。居宅ケアマネは、ケアプランをたててマネジメントするという一般的な業務に加えて、行政と家族の間で板挟みになりつつも、本人に顕著な危害が加わらないように、虐待者である家族から穏便に同意を引き出しながら、自分以外の外部サービスの手と目が定期的に家庭に入るよう調整しなければならない。行政や家族から見聞きした情報は、特定の関係者以外の目に触れないよう特に慎重に取り扱う必要がある。居宅ケアマネは日常のケアマネジメント業務で使用する端末等から独立した端末に情報を記録し、事務所内で保管している。

2つの事例からわかる通り、居宅ケアマネは対象者の状況・課題に応じて適切な頻度、深度で、適切な経路で情報を入手しなければならない。また同時に、その共有・開示に際して専門的な判断が求められることもある。CPD連携システムで情報を共有する相手や取り扱う情報の内容が拡大していく場合には、こうした状況を踏まえた仕様が必要であろう。例えば、情報更新頻度・深度をユーザーである居宅ケアマネがアレンジできたり、情報開示相手をいつでも変更できたりすることで、より使い勝手の良い仕様になると考えられる。

4.まとめ

CPD連携システムの利活用が進むことで、居宅ケアマネの業務の軽量化が期待される。データを共有する相手や共有する情報の中身がさらに拡充していくことで、システムの効用はさらに高まっていくであろう。そうした好循環が起きるためには、システムそのものが情報利活用者の思考動線に沿うよう考慮される必要がある。そこで重要なのが、対人支援の内容と複雑さへの適応である。居宅ケアマネ業務の根幹にあるのは対人支援である。そこには、本人の尊厳を守るための意思決定・生活支援があり、支援の過程ではたびたび、居宅ケアマネにとって時間的、もしくは心理的負荷が高い状況もある。こうした困難な状況の中で居宅ケアマネが情報を入手・取り扱っていることをふまえたシステム仕様を定義していくことが重要である。

  • 国立社会保障・人口問題研究所. 日本の将来推計人口(令和5年推計).2023
  • 厚生労働省.令和3年度 介護給付費等実態統計の概況(令和3年5月審査分~令和4年4月審査分)2022.
  • 前掲注2
  • 厚生労働省.介護職員・介護支援専門員.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000054119.html(2023年8月15日アクセス可能)
  • 成瀬昂.第4章-Ⅲ ケアマネジメント. 河野 あゆみ(編). 地域・在宅看護論 第6版,メヂカルフレンド社.2021.
  • 株式会社 日本総合研究所.令和2年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業).適切なケアマネジメント手法の策定に向けた調査研究事業報告書.2021.https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/210414_r2tekisetsuna_houkokusho.pdf(2023年8月15日アクセス可能)
  • 株式会社 三菱総合研究所.令和4年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分).居宅介護支援および介護予防支援における令和3年度介護報酬改定の影響に関する業務実態の調査研究事業報告書.2023.https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/t3loi400000008a0-att/R4_021_2_report.pdf(2023年8月15日アクセス可能)
  • 公益社団法人 国民健康保険中央会介護保険課.ケアプランデータ連携システムについて.2023.
    https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001047111.pdf(2023年8月15日アクセス可能)
  • 厚生労働省.令和3年度介護報酬改定について.令和3年度介護報酬改定の主な事項.2021.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html(2023年8月15日アクセス可能)
  • Relational Coordination Collaborative. Theory of Performance. Relational Coordination Collaborative.
    https://heller.brandeis.edu/relational-coordination/about-rc/theory-performance.html(2023年8月15日アクセス可能)
  • 成瀬昂.介護ロボット等の導入が生産性につながるロジック. Insight Plus. 2023.
    https://www.sompo-ri.co.jp/2023/06/14/8684/(2023年8月15日アクセス可能)
  • 厚生省高齢者介護対策本部.高齢者介護・自立支援システム研究会.新たな高齢者介護システムの構築を目指して 高齢者介護・自立支援システム研究会報告書.1995年.

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