ヘルスケア・ウェルビーイング

ヤングケアラーの早期発見に向けた教育データ利活用の可能性
~ケアラー支援の現在地②~

副主任研究員 北山 智子

本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行うヤングケアラーに対し、各自治体では実態調査を進めるとともにヤングケアラー対応マニュアル・相談窓口を設置するなど、支援体制は徐々に整いつつある。一方、早期発見については課題が残る。援助希求能力に乏しい子どもはSOSを発信できず、周囲が気付くのは明らかな問題が表出してからになりやすい。早期発見に対して、日常的に子どもと接している学校関係者に期待される役割は大きいが、教員が気付くことの難しさが存在する。自治体や学校が持つ成育歴や教育データを連携させることで、困りごとを抱える子どもたちを早期に発見しようとする仕組みの活用がヤングケアラーの早期発見にもつながる可能性がある。

1.ヤングケアラー支援の現在地

(1)ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもを指す1≪図表1≫。責任や負担の重さにより学業や友人関係などに影響が出てしまうことがあり、子どもの権利の擁護という観点からも適切に支援していく必要がある。2023年4月にはこども家庭庁が発足すると同時に、子どもの権利を守るための「こども基本法」が施行されている。

(2)ヤングケアラー実態調査と国の施策

2015年、日本で初めての体系的なヤングケアラー調査が新潟県南魚沼市の教員を対象に行われた。これまでに関わった児童・生徒の中で家族のケアをしているのではないかと感じた子どもが「いる」と回答した教員の割合は25.1%2であり、家族のケアをする子どもは決して稀な存在ではないことが示された。

国は2018年に厚生労働省の子ども・子育て支援推進調査研究事業として「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」の委託事業を開始した。2020年には初の全国調査を実施し、「世話をしている家族がいる」と回答した割合は高校2年生(全日制)で4.1%、中学2年生では5.7%3と、1クラスに概ね1~2名の割合でヤングケアラーが存在するという結果が明らかになった。

2021年5月、文部科学省と厚生労働省は合同のプロジェクトチームによるヤングケアラー支援に向けた報告書を公開し、今後取り組むべき施策として「早期発見・把握」「支援策の推進」「社会的認知度の向上」の3点を掲げた4

2022年度から2024年度までの3年間はヤングケアラーの認知度向上のための「集中取組期間」と位置づけ、動画配信やオンライン交流サロンの開催、民間団体のイベントやシンポジウム開催等を支援する。また2022年4月には「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」を介護保険最新情報として介護関係機関へ通知し、多機関連携によるヤングケアラーへの支援の必要性を周知した5

(3)自治体のヤングケアラー支援動向

ヤングケアラー実態調査は全国の自治体に広がっており、2022年度は少なくとも23の都道府県で実施されたほか、市町村単位でも広く行われ、各自治体での実態把握が進んでいる6

埼玉県では、2020年3月に全国初となるケアラー支援条例が施行された。全てのケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる社会を実現することを目的としており、ヤングケアラーについては学校等に「教育の機会の確保の状況、健康状態、その置かれている生活環境等を確認し、支援の必要性の把握に努めるものとする」と定めている7。その後も茨城県・長崎県・栃木県・北海道・鳥取県等で同様の条例が制定され、ヤングケアラーに対する支援が掲げられた。

各自治体では認知度向上に向けた啓蒙活動の実施や、電話だけではなくメールやLINEによるヤングケアラー相談窓口を設置するなど、徐々に支援体制を構築しつつある。例えば東京都では「ヤングケアラー支援マニュアル」を発行すると共に、ヤングケアラー本人・家族と各関係機関とのつなぎ役となるヤングケアラーコーディネーターの配置を推進している8

(4)課題が残る早期発見・把握

国の施策のうち「支援策の推進」および「社会的認知度の向上」については上記のとおり自治体でも一定進捗しているものの、「早期発見・把握」については課題が残る。まず本人が自分はヤングケアラーであると認識していないケースが多く、実態調査をしても捕捉しきれない。家庭内の問題は外からは見えづらく、援助希求能力に乏しい子どもはSOSを発信できない。ヤングケアラー当事者からは「本当に大変な人はできるだけそっとしておいてほしいと思う。」「ケアをしている人の中には、『まわりには言わないでくれ』と言われる人もいると思う。」という声も上がる9

適切な支援がされず過負荷の状態が続くと、子どもの心身の状態や学校生活に影響が出てしまう恐れがある。対応が後手に回らないためには、周囲が早く気付いて支援することが重要である。SOSを出せないヤングケアラーをどう早期に発見して支援につなげていくのかは大きな課題である。

前述の「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」では、学校関係者、保健・福祉・医療従事者、地域の住民等に対し、それぞれがヤングケアラーに気づくためのポイントを記載している。しかし、保健・福祉・医療従事者や地域の住民がヤングケアラーに遭遇する機会は限られる。平日の日中に子どもが在宅し家族の世話をしていたり、家族の通院に付き添っていたりすれば発見は容易だが、基本的には学校に通っているヤングケアラーとのタッチポイントは限定的である。

その点において学校関係者に寄せられる期待は大きい。東京都のヤングケアラー支援マニュアルでも学校関係者は「日々の様子から気付くことのできる可能性が大いにある」と位置づけている≪図表2≫。

一方、教師を始めとする学校関係者は日々多くの業務を抱え、一人一人の児童・生徒の様子を細やかに気に掛けることは難しい。実際、大阪府の府立高校生徒を対象にした調査では「世話をしている家族がいる」と回答した生徒のうち、約65%については学校側が現状を把握していなかった10

ヤングケアラーであることが学校生活に与える影響として「欠席、遅刻、早退が多い」「提出物が遅れることが多い」「宿題ができていないことが多い」などが挙げられる11が、その原因は家族のケアに起因するものとは限らず、虐待や貧困など他の家庭環境が原因であったり、友人関係や学業の悩みによるものであったり、またはそれらの要素が複合的に絡みあっていることも考えられる。よって、それらの兆候をもとにヤングケアラーと推察するのは困難である。また、ヤングケアラーだけが支援を必要とし、他の困りごとを抱えている子どもの支援が不要というわけではないことは明らかである。つまり、ヤングケアラーを見つけようとするのではなく、広く「困りごとを抱える子ども」への支援を徹底することが、ヤングケアラー支援の充実にもつながっていくと考えられる。

この「困りごとを抱える子ども」について、教育データ等を活用した早期発見の取組みが進められつつあるため、次項で詳しく紹介する。

2.教育データ等の利活用による困りごとを抱える子どもの早期発見

(1) 1人1台端末を活用した心と体調の健康観察

文部科学省は不登校対策等の一環として、児童・生徒に1人1台配布された端末を活用し、心や体調の変化を把握して支援につなげようとする取組みを進めている12。2023年7月には全国の教育委員会等に「児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知)」を発信し、1人1台端末で無償・有償で利用できる健康観察・教育相談システムの一覧ならびにGoogleフォーム等を活用したアンケートフォームを作成するためのマニュアルを公開した13

こうした取組みが悩みを抱えている児童・生徒を捕捉し、彼らを早期支援へとつなげられる可能性がある。しかしながら、これらの多くは児童・生徒が自分で心や体調の状態を回答したり、教師に相談したいことがあれば自ら個別に入力する任意型スクリーニング方式である。困りごとがあっても学校の介入を望まない場合や、親に連絡が行くことを躊躇する児童・生徒は悩みがないように装って回答することが想定されるため、捕捉することができない。

(2) こども家庭庁による実証事業「こどもデータ連携」

こども家庭庁は教育・保育・福祉・医療等の分野を超えたデータを連携し、子ども・家庭の支援につなげる「こどもデータ連携」実証事業を実施している(2023年4月にデジタル庁から移管)14。これは自治体、学校、医療機関等の複数の主体がそれぞれ保有するデータを連携し、困難を抱える子ども・家庭を発見してプッシュ型の支援に活用する際の課題を検証する取組みである≪図表3≫。

例えば学校が持つ欠席や遅刻の履歴・学力データ・健康診断データや学校生活アンケート結果等と、自治体が持つ成育歴・家族構成等のデータを組み合わせることで、支援を必要とする子どもを広く把握できる可能性がある。

実証事業に参画する埼玉県戸田市では、客観的なデータに基づく教育施策の推進を掲げ、教育分野のデータを軸にした「教育総合データベース」の実装に取り組んでいる。これまで子どもに関する様々なデータは、それぞれの分野・部局・情報システムごとにバラバラに保存されており、かつ帳票形式でデジタル化されていないものも存在していた15。帳票形式のものを1ファイルにまとめてデータ化、IDを付与し種々のチェックを行うという手順を踏み、膨大なコストをかけて教育総合データベースを整備している16。2022年度は不登校等に係る子供達のSOSの早期発見・不登校の防止として、実証事業協力校において県の学力調査テストで前年度から学力レベルが下がったり、市の授業理解度調査等で回答の肯定レベルが下がったりした児童を抽出し、その中から学校が要支援の児童を決定して個別の声掛け含むプッシュ型の支援につなげている17

このようなデータベースには健診情報や成績などのセンシティブなデータも含まれることから、個人情報保護の観点からデータの取扱いについては十分な注意を要する。戸田市は個人情報保護に詳しい弁護士やデータ分析領域の研究者をアドバイザーに迎えたうえで、「教育データの利活用に関するガイドライン」を策定した18。データの標準化やデータフォーマットのオープン化についても取り組んでおり、他の自治体においても導入しやすい基盤となることを目指す19

《BOX》アメリカの教育データ活用事例

教育データを活用して子どもの支援につなげる動きは、アメリカが先行している。全米の初等・中等教育課程(5歳~18歳までの13年間)の公立学校のデータを集めるシステムEDFactsは2004年に稼働を開始した。各学校の生徒情報システム「SIS(Student Information System)」から州のシステム経由で生徒データを収集し、2018年度時点で5,069万人の生徒の統計データを収蔵している20

各州や学区では収集したデータを利用して、支援を必要とする生徒(通常の学校教育を受ける上での、経済的・言語的・社会的・身体的な困難などを抱える生徒)の早期発見、生徒やその家族とのコミュニケーション改善、保護者の関与増大などの対処を実施している21

ミシガン州の公立高校Bad Axe Public SchoolsではSISの出席、行動追跡、および成績表などのデータから学生のリスクの兆候を取得し、学生およびその家族とコミュニケーションを取り支援することで、中退率の41%減少などの効果が得られた22

3.早期発見後に必要な支援

教育データ等の活用により困りごとを抱える子どもの早期発見の可能性がある一方で、データへの過度な依存は禁物である。データ上の問題がないからと言って悩みを抱えていないとは言い切れない。あくまでも学校関係者の気付きをサポートするものとして位置付けるべきである。

また、当然ながら困りごとを抱える子どもは発見してそこで終わりではなく、支援につなげていかなければ意味をなさない。教師は日常接する子どもたちの様子や教育データ等から、困りごとを持つ子どもの第一発見者となりうる一方で、全ての子どもに寄り添い支援することは困難である。必要に応じて学校に配置されているスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)に支援を依頼することが望ましい。教師やSC等が子どもから話しを聞きとる中で、ヤングケアラーの可能性があると思われる場合、学校単独での解決は難しい。各自治体の要保護児童対策地域協議会や児童相談所等の児童福祉機関への連携が求められる。介護保険制度を利用することでヤングケアラーの負担を軽減できるケースもあることから、児童福祉機関と高齢者福祉機関との連携も欠かせない。

学校関係者には関連機関につないだうえで、子どもの日々の様子を見守ることが期待される。その中で家族の世話をしていることを咎めたり、本人が望まないのにも関わらず家庭に介入することは避けなくてはならない。適切な支援のためには国や自治体が発行しているマニュアル・ガイドライン等を参照し、ヤングケアラーに対する正しい知識や自治体の支援体制を知っておく必要がある。

子どもの問題を発見する際には原因から入らず包括的に、そして問題解決の際には専門家の力を借りて支援するという流れが定着することが望ましい。

4.おわりに

少子高齢化が進む中で、子どもがケアを引き受けざるを得ないケースは今後も増加すると想定される。ヤングケアラー支援のためには、学校関係者を始め、地域の関係者や保健・福祉・医療従事者などがヤングケアラーに対して正しい知識を持ち、気になるケースは早めに相談・連携する支援体制を構築することが重要である。

また、これまで見てきたように、教育データ等の利活用がヤングケアラーも含めた困りごとを抱える子どもの早期発見の一助となりうる。個人情報を取扱う上での課題等、議論はまだ必要ではあるものの、自治体や医療機関が持つ様々なデータと組み合わせることでさらにその可能性は広がる。今後のデータ利活用の拡大に期待したい。

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