フューチャー・ビジョン・ラボ

ブレイン・マシン・インターフェースの進化と社会実装に向けた課題

主任研究員 秦野 貫

脳と機械を直接接続して相互作用させるブレイン・マシン・インターフェース(BMI)が本格的に社会実装される日が近づいている。米国で麻痺障害がある患者の運動能力を補う技術の臨床試験が相次ぎ、いずれ日本でも導入される可能性がある。将来は治療以外の日常的な用途も広がるとみられ、円滑な社会実装を進めるためには倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に早くから対処しておく必要がある。BMIをどう活用し、規制していくべきなのか、国内でも企業や市民が広く参加する形で議論を深めていくべきだ。
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1.ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)とは

「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」は脳(ブレイン)と機械(マシン)を接続して直接データをやり取りし、脳神経の機能を補助・補完する技術を指す1。日本語で「脳介機装置」と訳されることもある。主にコンピューターとの接続が想定されており、海外では「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」と呼ばれることが多い。BMIの厳密な定義は定まっておらず、脳の活動データを測定・解析して活用する技術を広く包含して説明されることもあるが2、本稿では「脳データを用いた機器制御・行動支援」をBMIとして述べる。

BMIは機能や体内への導入方式によって次のように分類することができる。機能としては、機械から脳に情報を書き込む「入力型」、機械が脳の情報処理に介入する「介入型」、脳から機械に情報を書き出す「出力型」がある。導入方式としては、手術によって脳の表面や脳内にセンサーを設置する「侵襲型」と、体外のセンサーで脳活動データにアクセスする「非侵襲型」に分けられる。侵襲型は取得できるデータの質が高い利点がある一方、デバイスを留置することによる組織の損傷や免疫反応、感染症リスク等の課題がある。

BMI研究の源流は1960年に公表された「サイボーグ」に関する論文に遡るとされる3。以降のBMI研究の歴史は60年余りあり、既に一部の脳機能を補うものとして実用化されているものもある。入力型では体外のマイクが拾った音声を耳の奥に設置した電極を通じて脳に届ける人工内耳や、カメラでとらえた光の情報を電気信号として脳に送る人口網膜が代表的だ。介入型では、脳に電極を埋め込んで特定部位に刺激を与える深部脳刺激(DBS)がパーキンソン病による運動機能障害の治療に利用されている。出力型は脳活動の測定手段としての皮質脳波(ECoG)等があるほか、脳活動データに基づいてロボットが患者の動きをサポートするリハビリ支援機器や、消費者向けに精神状態を把握する製品等が販売されている。

2.BMI実用化の動きが本格化

(1)国家レベルで基礎研究に投資

世界のBMI市場は2022年の18億6,000万ドル(約2,700億円)から2032年に83億7,000万ドルに拡大すると予測され、同期間のCAGR(年平均成長率)は16%と急成長が見込まれる4。高齢化でパーキンソン病等の神経変性疾患が増え、医療用途の需要が高まるためだ。市場拡大を見込んだ投資も活発化し、BMIを含む脳神経技術を手掛ける企業への投資額は2021年に世界で71億ドルと5年前の2倍超に増えた5

加えて国家が主導する基礎研究への投資が技術革新を加速させる。米国は2013年に「The BRAIN Initiative」を発表し、国立衛生研究所(NIH)や国防高等研究計画局(DARPA)、食品医薬品局(FDA)といった国家機関を中心に脳機能の解明や治療方法等の研究を進めている。民間からも財団や研究機関、大学、企業が参加し、2026年までに少なくとも48億ドルの資金が投じられる見通しだ6

欧州連合(EU)は2013年から2023年にかけて6億700万ユーロを投じて「Human Brain Project」を実施した。500人を超す研究者や155の機関が参加し7、成果の一部は2019年にスタートした脳研究データベース「EBRAINS」に引き継がれた。BMIについてはEUの研究費助成プログラムでも別個に資金が拠出された8。中国は「China Brain Project」を2021年に本格的に開始し、最初の5年間に50億元を投じる見通しだ9。中国は第14次五カ年計画(2021~2025年)でもBMI等脳科学に注力することを明記している。

日本では2007年に策定した長期的な研究開発指針「イノベーション25」で脳機能や疾患に関する研究目標を盛り込み、2008年にBMIの開発や脳神経疾患の克服を目指す「脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)」が始動した。2014年には脳機能解明を目指す「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDS、革新脳)」がスタートし、400億円規模の予算計画で小型サルを使った研究を進めて来た。海外と連携する「戦略的国際脳科学研究推進プログラム(Brain/MINDS Beyond、国際脳)」も2018年に始まった。革新脳が終了する2024年度からは6年間の新たなプロジェクトを創設し、仮想空間上に脳を再現する「デジタル脳」の構築を進める10。BMIに関しては2020年に始まった科学技術の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」の中でプロジェクトが進んでいる11

(2)侵襲×出力型で臨床試験が相次ぐ

足元では医療用途でBMIの実用化を目指す動きが活発になっている。具体的には脳の表面や内部に設置した電極から脳活動データを取得し、患者が考えた通りに機械を動かす侵襲×出力型のBMIで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等麻痺障害を持つ患者への適用を目指すものだ。侵襲×出力型BMIの臨床研究は2004年に米ブラウン大学のグループによって本格的に始まったが12、実用化には至っていなかった。2010年代後半からは電子部品や電極の素材、解析技術といったハード・ソフトの進化が追い風となり、キーボード等を用いることなく機器を操作する技術の臨床研究が相次いでいる。2023年には脊髄を電気刺激する装置を組み合わせて患者自身の足による歩行機能の回復に成功した事例も報告された13


市場の創出を目指す企業の参入も広がり、特に米国では複数の臨床試験が始まっている。米Synchronは2021年にBMIの臨床試験として初めてFDAの認可を受け、ALS患者を対象とした試験を開始した14。カテーテル手術によってステント型の電極を脳内に置く低侵襲型で、データ送信機を通じてパソコンやスマートフォンに患者の意志を反映する。テキスト入力やオンラインショッピング等を利用でき、2021年12月にはBMIによる初のTwitter(現X)投稿を実現した15。起業家のイーロン・マスク氏が設立した米Neuralinkも2024年に事故による麻痺患者を対象とした臨床試験を開始した16。同社のBMIはロボットによる手術を実施し、約1000個の電極を持つ糸状センサーとデータの送受信装置で構成するデバイスを脳皮質上に設置する。データは無線通信で体外に送られ、パソコン等を操作する。両社の臨床試験が順調に進めば、数年後にはFDAの医療機器承認を取得し、治療に使われるようになる可能性がある。

一方、データの質は劣るものの身体の負担は軽い非侵襲型のBMIも、その特徴を生かした研究開発が進んでいる。慶應義塾大学発スタートアップのLIFESCAPESは麻痺患者向けのリハビリ用訓練装置を2023年に発売した。ヘッドセットで脳波を読み取ると同時に麻痺した手指に装着した電動装具を動かして残された神経回路の活性化を促す仕組みで、将来は医療機器承認を目指すという17。脳の指令によって運動時に発生する「筋電位」を検知して義手を動かす「筋電義手」は開発企業が相次いでおり、例えば米BrainRoboticsは人工知能(AI)と組み合わせて精密に制御する製品を2024年に発売する予定だ18

出力型BMIは今後AIとの組み合わせによって進化が加速すると考えられる。活用方法の1つとして期待が大きいのが取得した脳データを解析・予測する「デコーディング」の性能向上だ。患者の意志と脳活動の関係をディープラーニング(深層学習)によってAIに学ばせ、脳データを解析する際の誤りを減らすことを狙う。京都大学の神谷之康教授による非侵襲的手法の研究が知られるほか、2023年には侵襲型で大幅な誤り率の低下や解読速度向上に成功した例が相次ぎ報告された19

(3) 多様な場面に応用の可能性

BMIは将来、医療用途に限らず日常生活の多様な場面で活用される可能性がある。例えば家電やスマートフォン、ゲーム、インターネット上の仮想空間「メタバース」におけるアバター等、デジタル機器・ソフトを操作する際にコントローラーや動作が不要となったり、「テレパシー」のように感覚・運動器官を介さずにコミュニケーションを取ったりといった使い方が想定される。実際、コンピューター等を一部操作できる非侵襲型のヘッドセットについては、フランスのNextmind社が2020年に発売した例があるほか、米Cognixionは麻痺患者向けの医療機器として開発を進めている20。米OpenBCIが2024年に発売を予定するデバイスは脳に加えて心臓、皮膚、筋肉、目の動きを同時に測定し、ゲームやドローンの操作が可能だという21。米Metaは筋電位を読み取って空間コンピューティングを操作するリストバンド型のデバイスを開発中で、数年内の発売を目指している22。米Appleもイヤホン型の脳波計測装置の特許を出願したことが2023年に明らかになった23。こういった技術が進化・普及すれば、手足や目の動きといった身体による操作の煩わしさから解放され、例えばメタバースの使い勝手や没入感は各段に向上すると予想される。

今後は出力と入力の双方の機能を備えたBMIの開発が進む見通しだ。マスク氏は「Neuralinkの最終目標は脳とAIを融合し、人間がAIに置き去りにされるリスクを軽減することだ」と述べており24、Neuralinkのデバイスは脳への入力も想定して開発されている。国内でもAIやインターネットと脳を接続して脳の機能を飛躍的に高める研究が始まっている25。将来データの入出力が可能な汎用的デジタルインターフェースとしてBMIが広く利用されるようになると、パソコンやスマートフォン、テレビといった既存のインターフェースはもちろん、今後普及が見込まれるヘッドセット等のXR(クロスリアリティ)用デバイスも不要になるため、電子機器産業への影響も大きくなるだろう。

軍事利用の可能性も現実味を増している。米DARPAは2000年代初めからBMI研究に数億ドルを投じているとみられ26、2018年には脳と機械の間で双方向にデータをやり取りする非侵襲型BMIを開発する「N3プログラム」を開始した。ドローン操作やサイバー防衛での利用を想定し、軍事作戦における応用を視野に入れている27。米国では陸軍や空軍も2000年代からBMIの研究を進めている28。中国人民解放軍は認知領域を物理・情報に並ぶ三大作戦領域のひとつと捉え、敵の脳を支配する「制脳」を将来の戦争で想定している29。日本でも防衛省が2023年、防衛技術基盤の方針を示す「防衛技術指針」で初めてBMIに言及した。将来は戦場を飛ぶドローンから脳に情報を取り込んで作戦を実行したり、戦闘機や戦闘ロボットを脳波で操ったりといった兵士が登場することも考えられる。

3.BMIを巡る倫理的・法的・社会的課題(ELSI)

(1)想定されるELSIの整理

BMIは現在急速に発展している最中で、センサー性能やデータ解析精度の向上、身体への悪影響の回避等技術的に乗り越えるべきハードルは多く残っている。ただ仮に技術的課題が解決されたとしても、人を人たらしめている器官である脳に変化を加えることには多くの人が多様な意見を持つはずだ。したがってBMIを多くの人に受け入れられ、有効に活用される方向で発展させていくには、技術面の進化と並行して倫理的・法的・社会的問題(Ethical, Legal and Social Issues、ELSI)にも真剣に対応していくことが重要になる30

それでは今後BMIを巡って具体的にどういったELSIが顕在化していくことになるのだろうか。BMIに関するELSIの議論は多岐にわたる一方で整理や提言が遅れている面があり31、本稿では社会実装に向けた課題を明確にするという観点から、改めて技術の発展・普及過程に沿う形で整理した。なお技術的課題は解決されることを前提とし、ELSIは技術の発展・普及に伴って追加的に発生していくものとする。

①研究

医療・医学研究で広く尊重されている基本的な原則である「生命倫理の4原則」32は、BMIにおいても研究者や企業が守るべき普遍的な概念であろう。このうち人間を被験者とする段階では患者自身の意志や決定を重視する「自律性の尊重」と、患者に危害を及ぼさない「無危害」の2つが特に重要であると考えられ33 、これを実現するには被験者と研究者の間で十分なインフォームドコンセントを確保することが求められる。被験者の遺伝的素因など研究課程で偶然知り得た情報の扱いも問題点として挙げられる。

②患者の治療

疾病・障害への臨床応用が進むと、日常的に取得される脳データの取り扱いに関する問題が発生する。脳データは個人情報なのか、プライバシー保護の対象なのかといった問題は、技術開発に活用することのメリットも踏まえつつ法的視点から整理する必要がある。さらにBMIは思考を解読したり脳に変化を及ぼしたりするため、基本的人権として保障される「内心の自由」の新たな概念として「認知の自由」を保護すべきだとの議論も起きている34。人格等、想定した治療の目的とは異なる部分に予期せぬ変化を及ぼす可能性もあり、そもそも「他人の脳にどこまで介入してよいのか」という問題は、哲学的観点からも深く議論されるべきだろう。

③健常者の能力拡張

BMIを健常者にも適用する際には、まず「人間拡張(エンハンスメント)はどこまで認容されるべきなのか」という大きな問題と向き合う必要がある。健常者へのBMI適用は人間が持つ能力の限界を超えることを意味し、学習やスポーツにおける「ニューロドーピング」が実現し得る。他人の心を読み取る「マインドリーディング」や心を操作する「マインドコントロール」も可能になるかもしれない。こういった技術は子どもや被雇用者など従属的な立場の人に対して本人の同意がないまま導入されたり、本人が意図しない用途で利用されたりする恐れがある。また、軍事利用が進めば戦争の形態は一変し、国家間のパワーバランスにまでも影響する可能性がある35

④自主的な利用

一般消費者が広く自主的にBMIを利用するようになると、ELSIの範囲はさらに広がる。1つはBMIの利用を巡る機会の不均等や差別の問題だ。金銭的理由等によってBMIを利用したくてもできない人がいた場合、個人の努力や訓練と関係ない要因で経済的・社会的な不平等が発生しかねない。同様に個人的信条や健康面の理由等でBMIを利用しない選択をした人とBMI利用者の間に「BMIデバイド」とも言うべき格差が生じる懸念がある。脳とインターネットを接続することも想定され、ハッキングによる情報の盗難や行動監視、行動操作といった事象も起こり得る。利用者が増えれば誤作動等による事故の影響も大きく、効果や品質を巡る責任や保証について、国や企業には技術・サービスの透明性確保が求められるだろう。

(2) ELSIを巡る議論の状況

上記のような世界が実現するとは現在の感覚ではにわかに想像しがたいが、夢物語とばかりも言えない現実が既に起きている。中国では鉄道運転士や小学生の集中度や疲労度をモニタリングしている例がある36ほか、欧米でも疲労の把握等を目的に従業員の脳波を継続的に計測する企業が広がっている37。BMIが社会にもたらす恩恵は大きいと考えられ、技術革新が起きればBMIの社会実装とELSIの顕在化は急速に進む可能性がある。

BMIの社会実装が近づく欧米ではELSIの議論も活発化している。米国のBRAIN InitiativeやEUのHuman Brain Projectは同時にELSIに関するプログラムも実施している38。国レベルでは米FDAが2021年に埋め込み型BMIの研究に関するガイドラインを策定し39、中国も2023年に「倫理指針」を決定した40。チリ等では法制化を試みる動きも出ている41。民間でも欧米の複数大学に研究教育組織が設置され、研究者ネットワークの組織化も進む。企業や学会等による公開型のイベントも多く開催されている。

国際的な合意形成については、人権保護の観点で国連教育科学文化機関(UNESCO)や欧州評議会、国連人権理事会等が議論しているほか、技術・倫理面の標準化で米国電気電子学会(IEEE)が2015年に専門組織を設けて活動している。社会実装に向けた企業の役割と責任については経済協力開発機構(OECD)が2019年に勧告を採択した42

日本でも2008年の脳プロで倫理問題の研究が設定され、比較的早い時期から議論が始まった。民間では2009年に川人光男氏らが「BMI倫理4原則」を公表し、慶應義塾大学の牛場潤一准教授(現教授)は海外の研究者と共同で2017年に「BMI倫理綱領3基準」を発表した43。日本医療研究開発機構(AMED)による「脳科学研究の倫理的・法的・社会的課題の解決に関する研究」は2021年に「BMI研究のための倫理ガイド」を作成し、これを一部引き継ぐ「人と社会と脳科学のための知的ネットワーク」は研究者と市民の対話の場を設けている。ムーンショット型研究開発事業では「BMI利用ガイドライン」の作成を進めている44

BMI市場が立ち上がっていない日本では従来ELSIの議論も小規模にとどまっていたが45、海外の研究開発の動向を考えると、日本でも遠くない将来にBMIの導入が本格化する可能性がある。日本でも研究者や企業、市民を巻き込んだ形でBMIのELSIに関する議論の活性化を急ぐべきだろう。

4.おわりに

日本でBMIを巡るELSIの議論を活性化するため、主体としては企業の行動に期待したい。企業には技術や製品・サービスの開発・提供者としての責任があるのは当然だが、ELSIの議論に主体的に関わることで得られる事業活動上のメリットも大きいと考えられる。一般に法規制やガイドラインは新興技術の社会影響の可能性が予見されるようになってから策定されるため、新たな市場の創出を狙う企業にとっては規制を待っていると製品やサービスの設計に出遅れてしまう。ELSIの議論が収斂していくことはすなわち技術進化の方向性が定まることを意味し、ELSIの議論に早期から携わった企業はそこで得られた知見を研究開発や販売戦略に活かすことができる。

企業にとっては自社の製品・サービスの社会的受容性を高めるためにも議論への参加は重要だ。新興技術は技術的に優れていたとしても社会の理解が得られなければ実装は難しい。例えば米Googleのグループ企業は2017年にカナダで5,000万ドル規模を投じるスマートシティ計画を発表したが、市民団体等から「企業による監視都市」になると反発を受けて頓挫した例がある46。新興技術を手掛ける企業は技術に磨きをかけると同時に、市民との密接なコミュニケーションを通じた信頼感の醸成にも力を尽くすべきだ。

ELSI議論への参加が企業活動に与える影響が大きいということは、裏を返せば産業振興の面でも議論活性化の意義は深いと言える。海外でBMIの研究開発と市場拡大が先行している現状を踏まえると、国内でBMI産業を育てるためにも、国や自治体が音頭を取って議論を盛り上げていくことが重要だろう。

BMIを巡るELSIへの対応は日本人の精神性や倫理観とも密接に関連するものであり、海外の議論をそのまま輸入すべきものではないと考える。米国で臨床試験が進むデバイスが薬事承認されれば、日本市場への投入を検討する企業も現れる可能性がある。技術進化が先行して受け入れ側のELSIの議論とかけ離れてしまうと、導入時のショックは大きくなる。海外の事例を対岸の火事ととらえることなく、日本人一人ひとりが自身の問題として考えを深めていく必要がある。

  • 吉峰俊樹・平田雅之・栁沢琢史・貴島晴彦(2016)「ブレイン・マシン・インターフェイス (BMI) が切り開く新しいニューロテクノロジー」(日本脳神経外科コングレス『脳神経外科ジャーナル』25巻12号)
  • 計測した脳活動データを被験者自身が行動改善に活かす「ニューロフィードバック」等は広義のBMIと位置付けられる。(三原雅史(2018)「治療型BMIとしてのNeurofeedbackの神経疾患治療への応用」(『臨床神経生理学』46巻1号))
  • Manfred E. Clynes & Nathan S. Kline(1960)“Cyborgs and Space”をきっかけに人と機械が融合する技術の研究が盛んになったと考えられる。(横井浩史、姜銀来(2017)「BMI出力デバイス-人と機械が相互に適応できる技術を目指して-」(精密工学会『精密工学会誌』Vol.83 No.11))
  • The Brainy Insights (2023) “Brain Computer Interfaces Market”
  • NeuroTech Analytics(2021)“NeuroTech Industry Overview Q4-2021”
  • National Institutes of Health( 2023年1月12日)“Congress passes budget bill: NIH BRAIN Initiative receives $60M in additional funds for fiscal year 2023”
  • Human Brain Project (2023) “Pioneering Digital Neuroscience”
  • 「第7次枠組計画」(2007~2013年)や「Horizon 2020」(2014~2020年)で予算が設定された。
  • 科学技術振興機構(2023)「研究開発の俯瞰報告書(2023年)」
  • 文部科学省(2023)「令和6年度予算(案)」
  • ムーンショット目標1の研究開発プロジェクト「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」
  • ブラウン大の研究チームは脊髄損傷による四肢麻痺患者の脳内に神経電極を埋め込み、患者の思考によるコンピューターのカーソル操作に成功した。(L. R. Hochberg et al., (2006) “Neuronal ensemble control of prosthetic devices by a human with tetraplegia”, Nature 442)
  • Henri Lorach et al., (2023) “Walking naturally after spinal cord injury using a brain–spine interface”, Nature 618
  • Synchron(2021年7月28日) “Synchron receives green light from FDA to begin breakthrough trial of implantable brain computer interface in US”
  • Synchron(2021年12月23日)“Synchron announces first direct-thought tweet, “Hello World,” using an implantable brain computer interface”
  • Elon Musk(2024年1月30日) “The first human received an implant from Neuralink yesterday and is recovering well.”, https://x.com/elonmusk/status/1752098683024220632、Neuralink(2024年3月21日) “Neuralink live”, https://x.com/neuralink/status/1770563939413496146(いずれも2024年3月22日参照)
  • 日本経済新聞電子版(2023年6月28日)「脳波分析し手を操作、脳卒中リハビリ装置 慶大発新興が実用化」、 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72282440Y3A620C2EA2000/(2024年3月18日参照)
  • Brainroboticsホームページ https://brainrobotics.com/(2024年3月18日参照)
  • Francis R Willett et al., (2023) “A high-performance speech neuroprosthesis”, Nature 620等
  • Cognixion(2023年5月4日) “Cognixion Receives FDA Breakthrough Device Designation”
  • OpenBCI(2023年12月1日)“OpenBCI unveils Galea Beta and Galea Unlimited Roadmap”
  • UploadVR(2024年2月20日)“Zuckerberg: Neural Wristband For AR/VR Input Will Ship “In The Next Few Years””, https://www.uploadvr.com/zuckerberg-neural-wristband-will-ship-in-the-next-few-years/(2024年3月18日参照)
  • Apple Inc. (2023) “Biosignal Sensing Device Using Dynamic Selection of Electrodes”, United States Patent and Trademark Office, Pub. No. : US 2023/0225659 A1
  • Neuralink(2022年12月1日)“Neuralink Show and Tell, Fall 2022”, https://www.youtube.com/live/YreDYmXTYi4
  • 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業プログラムERATOの一環で「池谷脳AI融合プロジェクト」が2018年から脳とAIを連動させる研究を進めている。
  • RAND Corporation (2020) “Brain-Computer Interfaces U.S. Military Applications and Implications, An Initial Assessment”
  • Defense Advanced Research Projects Agency(2018年3月16日)“Nonsurgical Neural Interfaces Could Significantly Expand Use of Neurotechnology”
  • 前掲注26
  • 飯田将史(2021)「中国が目指す認知領域における戦いの姿」(防衛研究所『NIDSコメンタリー』第177号)
  • 新興技術の社会的受容を円滑に進めるためには普及前の早い段階から市民の視点を取り入れ、問題解決や研究開発の修正に活かす「アップストリーム・エンゲージメント」が有効であると指摘されている(James Wilsdon & Rebecca Willis (2004) “See-through Science: Why Public Engagement Needs to Move Upstream”)。
  • 三羽恵梨子・中澤栄輔・山本圭一郎・瀧本禎之・赤林朗(2018)「出力型 Brain-Computer Interface に関する倫理的論点とその考察-体系的な文献レビューに基づいて-」(日本生命倫理学会『生命倫理』Vol.28 No.1)
  • 「自律性の尊重」、「無危害」のほか、患者のために最善を尽くす「善行」、患者を平等・公平に扱う「公正」の4つから成る。(Tom L. Beauchamp& James F. Childress(1997)“Principles of biomedical ethics”、トム・L.ビーチャム、永安幸正・立木教夫訳(1997)『生命医学倫理』成文堂)
  • 植原亮(2012)「社会脳と機械を結びつける」(芋阪直行編(2012)『道徳の神経科学 神経倫理からみた社会意識の形成』新曜社)
  • 山口直也(2022)「神経法学の序論的考察」(立命館大学法学会『立命館法学』403号)
  • 前掲注33
  • The Wall Street Journal電子版(2023年2月15日) “When Your Boss Is Tracking Your Brain”, https://www.wsj.com/articles/brain-wave-tracking-privacy-b1bac329、The Wall Street Journal電子版(2019年10月24日) “China’s Efforts to Lead the Way in AI Start in Its Classrooms”, https://www.wsj.com/articles/chinas-efforts-to-lead-the-way-in-ai-start-in-its-classrooms-11571958181 (いずれも2024年3月18日参照)
  • 日立建機グループの豪SmartCap Technologiesが提供する疲労検知デバイスは2023年時点で世界5,000社超が導入しているという。(Nita A. Farahany(2023)”Neurotech at Work”, Harvard Business Review, March–April 2023)
  • BRAIN Initiativeでは米国大統領生命倫理委員会でELSIを議論して2014年に報告書「Gray Matters」をまとめ、NIHも2019年に出したレポート「Neuroethics Roadmap」で主に研究者向けの課題を指摘した。
  • U.S. Food and Drug Administration (2021) “Implanted Brain-Computer Interface (BCI) Devices for Patients with Paralysis or Amputation – Non-clinical Testing and Clinical Considerations, Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff”
  • 中華人民共和国科学技術部(2023)「脳機接口研究倫理指引」
  • チリは肉体と精神の不可侵性を守る「神経権」の考え方を2021年の憲法改正案に盛り込んだが、国民投票で否決された。米国ではコロラドやミネソタなど複数の州で脳データを個人情報として保護する法案の議論が進んでいる。
  • OECD (2019) “Responsible innovation in neurotechnology enterprises”
  • BMI 研究には「BMI 動作が引き起こした事故や事件に対する法的責任の明確化(行動責任)」「読み出した脳情報の保護、脳への不正なアクセス防止(個人情報保護)」「技術情報の正確かつ迅速な開示に基づく倫理規範の熟成と社会受容の促進(社会啓発)」の倫理綱領 3 基準の必要性を訴える声明を『Science』誌に発表した。
  • 国際電気通信基礎技術研究所・アラヤ(2021年7月30日)「BMI 利用ガイドラインの作成がスタート~誰もがブレイン・テックを正しく理解して安全に使える社会へ~」
  • 科学技術振興機構研究開発戦略センター(2022)「ニューロテクノロジーの健全な社会実装に向けたELSI/RRI 実践」
  • The New York Times電子版(2019年10月31日) “Toronto’s City of Tomorrow Is Scaled Back Amid Privacy Concerns”, https://www.nytimes.com/2019/10/31/world/canada/toronto-google-sidewalk.html(2024年3月18日参照)

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