企画・公共政策

空き家対策は早期の実態調査から
事後対応策から予防対策への転換

副主任研究員 宮本 万理子

2023年改正の空家特措法のポイントは、空き家対策が事後対応から予防対策へと方針転換された点だろう。今後、将来的に悪影響を及ぼす可能性のある管理不全空家を、早期に特定するための調査方法の開発が急がれている。これまで現地調査を基本とした空き家特定や建物診断が行われてきたが、手間やコストがかかることや、客観性が乏しいなどの課題がある。スマートメーターやドローンを活用し、水道・電気使用量や空中写真等のデータ収集、AIを活用した解析は、現地調査を補完する新技術として導入されつつある。個人情報の公開制限、専門職員の配置、統一したデータベースの構築といった法令、人材、技術的課題を精査することで、新しい事業創出と実用可能性が高まることに期待したい。
【内容に関するご照会先:ページ下部の「お問い合わせ」または執筆者(TEL:050-5862-7270)までご連絡ください】

1.はじめに

人口減少、高齢化を背景に空き家の増加が問題になっている。2014年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空家特措法とする。)が制定され、全国の自治体で空き家対策計画が策定されるようになった。空き家などの土地・建物は私権が強いことから行政の介入が難しく、これまで全容が明らかではなかったが、同法の制定により全国の1,450自治体(83%)で実態調査および対策計画が策定されてきている(2023年時点)。2023年には同法が一部改正され、空き家の事後対応から予防対策へと方針が転換された。本稿では、改正空家特措法のポイントを概説し、空き家の予防対策のための最新技術を活用した調査方法をレビューし、今後の実用化に向けた可能性と課題について紹介したい。

2.改正空家特措法のポイントと課題

≪図表1≫は、空家特措法制定時と改正後のポイントを整理したものである。

空家特措法は、全国的な空き家増加を背景に、空き家が防災、衛生、景観等の生活環境に深刻な影響を及ぼすことへの危機感から2014年に制定されたのが始まりだ。同法は、空き家の①基本指針・計画の策定、②実態調査、③活用、④管理の4つの施策方針に特徴がある。国や市町村による基本指針、計画の策定、空き家に関するデータベースの整備が始められたのはこの時期からである。また、空き家の活用は、自治体主導の協議会が中心になり、著しく周囲に悪影響を及ぼす特定空家1に関する対策が進められている。

同法の制定から約10年が経過し、空き家の実態が明らかになりつつあるが空き家は増え続けている。今回の法改正は、これまでの流れを受けて、特定空家の適切な活用、管理の促進に加えて、空き家化する前の予防対策に焦点が当てられている点に特徴がある。

これを受けて、将来的に放置され周囲に悪影響を与える可能性のある管理不全空家2の考え方が示され、実態調査に向けた「管理不全等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」が公表された。ガイドラインによって、今後全国的に空き家特定基準の標準化が進むだろう。

また、同法の改正により、空家等活用促進区域3の指定が可能になり、密集市街地、郊外住宅地、中心市街地等の空き家対策が推進されることになる。当該地域の空き家活用は、これまで自治体が主導してきた協議会から民間企業を含む支援法人制度の設置によって進められることになる。今後、空き家活用の拡大につながる可能性がある。

さらに、管理不全空家の固定資産税・住宅用地特例の解除4といった、空き家所有者の責務が強化したことが特定空家の対策につながるのかも、今後注視したい。

以上のことから、法改正に伴い、空き家対策が、事後対応から予防へと方針転換したことにより、管理不全空家の特定が今後必要不可欠になるだろう。現在、管理不全空家は市町村主体の現地調査や、公的データを活用した所有者調査から特定することが多い。国土交通省は、空き家の判定基準をガイドラインとして示しており、≪図表2≫の4つのステップから空き家を特定することになっている。特定には、登記簿等の行政資料が活用されるほか、現地調査、水道・電気・ガス等の事業者との連携を要するものまで含まれている。

また、空き家の特定には、≪図表3≫で示したような①保安上の危険、②衛生上の有害、③景観の悪化、④周辺の生活環境の保全への影響といった判定項目が示されており、定量的なものから質的判定まで多岐にわたる。これらは現地調査によって把握されているが、空き家の特定は手間やコストがかかることや、属人的な判定になりやすいことが課題とも言われている。このため、簡便、安価でかつ客観的な空き家の調査方法の開発が今後必要になると思われる。

3.新技術を活用した空き家調査への期待と課題

第2章でみてきたように、既存の技術を用いた空き家調査にはコストがかかるなど、課題も多い。第3章では、新しい技術を用いてこうした点に取り組む動きを紹介する。

(1)新技術・データを活用した空き家調査の動向

官民連携での空き家調査の技術開発は全国で行われており、メディアでも取り上げられるようになった。新聞記事に掲載された事例を見ると、地域ごとに空き家調査に携わる事業者に異なる傾向があることが分かる≪図表4≫。

空き家調査は、全国規模、大都市では、民間企業によって実施される傾向がある。例えば、不動産(株式会社LIFULL)、情報通信サービス(株式会社NTTデータ、LINEヤフー株式会社、株式会社ゼンリン)や、電力会社(東京電力ホールディングス株式会社)などの大手企業が参入する他、不動産(空き家活用株式会社)、解体業者(株式会社クラッソーネ)などの新興企業も事業展開している。大都市では、中古住宅の市場開拓がまだ期待できるためと思われる。

一方で、中・小都市では、地方自治体によって実施される傾向があり、特に3大都市圏近郊や県庁所在地で行われるケースが多い。地元不動産、日本郵政、地銀、新興企業も参入しており、これは空き家管理代行サービスと抱き合わせた事業展開等が望めるからだろう。

≪図表5≫では、空き家調査のためのデータ収集装置と解析ツールの利用状況を見ている。全体的にWEBを使って既存データ(住民基本台帳や登記簿、現地調査によるデータ等)を集約し、空き家を特定するものが多い。地方自治体、民間企業では、ドローン等を活用して情報収集した後、AI解析を通じた実証実験の取組みを行っている。これは、2023年の航空法改正によって飛行空域禁止エリアの緩和が行われたことが後押ししている。

≪図表6≫は、事業者別に空き家調査のためのデータ種別を見たものである。国では、主に公的データを活用した空き家調査が進められている。詳細は後述するが、建築・都市のDX推進に向けた不動産IDのデータベース整備が進んでおり、これを活用している。一方、地方自治体、民間企業では、衛星写真や現地写真による目視情報とを合わせて活用するケースが多い。また、地元不動産が保有する建物情報の活用も進められており、今後国の不動産ID整備事業との連動も想定されよう。このほか、NPO法人や住民による空き家調査では、地元不動産の物件情報、現地調査による目視情報、写真などが活用されており、地域が保有する情報共有が進められている。

(2)新技術・データを活用した空き家調査の実用化と課題

ここまで、空き家調査に使われているデータや技術について紹介した。ここからは、今後活用が期待される新技術やデータを紹介する。新技術・データを活用した空き家調査は、公的データを活用したものとして、①プラットフォーム/不動産情報、②スマートメーター/水道使用量のAI解析、民間データを活用したものとして、③ドローン/空中写真のAI解析、④スマートメーター/電気使用量の解析等が挙げられる。以下では、その各々について、特徴と実用化のための課題について紹介する。

①プラットフォーム/不動産情報を活用した取組みとして、全国の土地・建物、不動産登記簿等の情報を17桁の識別番号で整備する不動産IDの取組みを紹介したい≪図表7≫。デジタル田園都市国家構想を受けて、国土交通省、法務省、デジタル庁が連携し、建築ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)5、都市デジタルツイン実現プロジェクト(PLATEAU)6、不動産IDが一体的に推進されてきている。

不動産IDは、2024年夏ごろを目途に運用が開始される予定だが、システム開発が実現されれば、迅速で簡便な空き家調査の実用化が今後可能になるだろう。一方、個人情報保護法による公開制限、不動産会社との情報共有、地図情報のための統一した情報整備が導入する上での課題だ。

次に、②スマートメーター/水道使用量のAI解析について紹介したい≪図表8≫。スマートメーターは、自動で水道使用量を記録する装置で、水道料金支払いの効率化、防災、防犯や空き家対策にも使われ始めている。全国的にスマートメーターの設置が進むことで、空き家の特定につながるだろう。このように、スマートメーターから取得した水道使用量を活用する空き家の調査方法は、群馬県前橋市の実証実験が注目される。前橋市、東京大学、株式会社帝国データバンク、株式会社三菱総合研究所から構成される「超スマート自治体研究協議会」は、AI(機械学習7)判定による空き家の特定を試験的に実施し、安価で簡便な空き家の特定に役立てることを目的としている≪図表7≫。

2023年12月より実証実験が開始されており、成功すれば全国の自治体への展開可能性も見込まれるため、今後に期待したい。一方、個人情報保護法8や水道法9によって、水道使用量など個人情報の公開制限があることが簡便な利用を妨げる一つの要因だ。また、スマートメーター導入率が全国的に低く、今後普及する必要があることや、AIの機械学習(XBoost)を活用した特定の精度に制限があることが導入課題だろう。

③ドローン/空中写真のAI解析は、ドローンに取り付けたサーモグラフィ等で建物の可視光や熱環境を測定し、そのデータを使ってAIの深層学習10(ディープラーニング)により解析を行うものである≪図表9≫。首都圏を中心に事業展開する空き家活用株式会社では、サグリ社が開発したアプリ(Sagri)を用いて、世田谷区を対象に人工衛星とドローンで撮影された可視光カメラや熱赤外線カメラのデータと同社が保有する空き家データベースを組み合わせ、AI判定を行うモデル事業を展開している。同取組みは、航空法改正によって調査地域が拡大されたこと11が普及を後押ししている。

一方、航空法により操作可能地域がまだ限定的であることや、操縦者の資格保有、操縦技術に課題があるとも言われている。個人情報保護法による公開制限も同様に留意が必要である。これらの点については、航空法改正による操縦範囲の拡大が今後の注目点となろう。

④スマートメーター/電気使用量の解析は、民間企業が保有するデータを活用した取組みだ。スマートメーターは、自動で電気使用量を記録する装置で、個人の生活サービス向上のために活用が検討され、空き家調査にも応用されている≪図表10≫。導入率も9割程度と高いことから、空き家調査の手段としても実用化への期待は高い。電気使用量を活用した調査方法は、東京電力パワーグリッド株式会社、中部電力株式会社、関西電力送配電株式会社、関西電力株式会社、株式会社NTTデータの4社が出資している株式会社GDBLの取組が新しい。東京都のモデル事業として提案され、2022年7月~事業を開始している。

電力会社が保有するデータをAI判定し空き家の特定を行っており、今後有力な新事業となるだろう。一方、水道使用量のデータと同様に、個人情報保護法による公開制限や、電気事業法12による顧客情報保護が普及に向けた課題である。また、データの標準規格導入、データ収集のための通信品質の向上も技術的課題であることや、有料であることも簡便な利用を妨げる要因になっている。

4.終わりに:新技術・データを活用した空き家調査の実用化に向けて

空き家特措法は、今回の改正によって、空き家発生後の事後対応から予防対策へと方針を転換した。それを受けて、特定空家と管理不全空家を特定する方法の開発が進められている。現在、空き家の特定は現地調査によるところが大きいが、手間やコストがかかること、属人的な判定になり易いなどの課題があり、このため、官民が保有するデータを活用した簡易、安価で客観的な調査方法の開発を目指して技術開発が期待されている。

本稿では、これらの新技術として、不動産ID、スマートメーター(水道・電気使用量測定装置)、ドローンを活用した空き家調査を紹介した。その上で、これらの手法には、いずれも共通して、個人情報の公開制限、データベースの標準化、AI技術の精度向上が課題であることを示した。その他、個別課題として、スマートメーターの導入率が低いことや、ドローン等を操縦できる有資格者、操縦スキルが不足していることが挙げられる。

新技術を用いて、空き家の特定を進めていくには、上記の課題の解決に向けた動きが今後進むことが期待される。まず、個人情報の公開制限については、公益に資する事業に限定して、個人情報保護法、水道法、電気事業法等の一部緩和を行うことが必要だろう。現在、個人情報は本人の許可を得ることで公開可能だが、空き家の調査では、所有者特定が難しく対応が遅れる可能性がある。このため、第三者機関による個人情報公開の許可制度の検討も期待される。

次に、データベースの標準化は、全国一律の空き家の調査方法の開発には欠かせないだろう。標準化が進むことで、例えば空き家を活用した中心市街地活性化や観光振興につなげるための、地図情報への展開(経緯度情報の付与)なども可能となってくると考えられる。

最後に、空き家の特定のためのAI技術の導入は、迅速なデータ処理を進めるうえで、期待の大きい領域だ。その上で、実用化に向けては、AI判定の精度向上が引き続き必要であり、今後、特に深層学習に期待するところが大きい。

このように、空き家を介した新技術の導入は、空き家問題への処方箋を提示するだけでなく、新しい事業創出の可能性があることから、今後も期待が大きいマーケットと言えるだろう。

PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る