企画・公共政策

老朽マンションは再生できるか
~改正区分所有法に向けて~

副主任研究員 宮本 万理子

老朽マンションの再生を目的とした区分所有法の改正は、管理と建替え・売却、双方の円滑化を目的として検討されている。改正のポイントは、①管理組合における不明区分所有者の決議除外(管理規約変更の円滑化)、②財産管理制度の導入、③管理、建替え・売却のための区分所有者の合意形成要件の緩和である。同法の改正によって、民間企業のマンション管理事業への参入が促進され、管理組合員の負担軽減にもつながる。一方で、適切なマンション管理には、管理組合の総会による監督体制の維持や、住宅行政による管理不全マンションへの助言、指導措置も必要と思われる。また、建替え・売却のための資金捻出に関する事業スキームの創出が、今後の国会審議の重要な論点になるだろう。
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1.はじめに

経済成長期に大都市圏で大量供給されたマンション1の老朽化が著しい。老朽化に伴うマンションの管理不全は、周囲に悪影響をもたらす。これを受けて、管理不全マンションの発生を抑制するため、近年、管理や建替え・売却の円滑化につながる法改正が進められてきた。国会での審議はこれからだが「建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法とする。)」の改正が進められており、既に「区分所有法の改正に関する要綱案」が法制審2で決定している。同法の改正は、老朽マンション再生の円滑化が目的だ。本稿では、マンションの全国動向を概説し、管理不全マンションの抑制を狙った法改正と、それに伴うマンション再生の可能性と課題について触れ、論点整理を行う。また、マンション再生のための新たな事業方式についても最後に紹介したい。

2.全国のマンションストックの動向

本章では、全国のマンションストックの推移と、建替え状況について見たい。≪図表1≫を見ると、全国のマンションストック総戸数は、約694万戸と過去最多となっている(2022年時点)。鉄筋コンクリート造の建物の耐久性が50年前後3であることを踏まえると、1970年以前に建てられたマンション(約9万戸)は更新の時期を迎えている。それ以降に建設された、旧耐震(約94万戸)、新耐震(約276万戸)、2000年基準(約315万戸)のマンション4も順次管理不全化する恐れがあるため対策が急務だ。

マンションは一般的に築年数が古くなるほど、高齢単独世帯率5が高くなる傾向にある。1970年以前に建てられたマンションになると、高齢単独世帯率は48%となり、今後空き家化する恐れがある。1971年~1980年に建てられたマンションの高齢単独世帯率も同様に44%と高く、また、所有者不明住戸率は14%となっている。空き家の増加と居住者の高齢化は、管理組合の担い手不足や、相続等を契機とした所有者不明化を招き、管理不全が進行するため、早期の対策が必要である。

≪図表2左≫は、国土交通省による建替え実績と、地方公共団体に対する建替えの相談等の件数を集計したものを示している。本調査にもとづくと、建替え検討マンションの増加ペースと比較し、工事完了済は250件(約2万戸)程に留まる。また、実施中、実施準備中のものは35件程に留まることから、今後マンション建替えの促進や適切な管理による長寿命化が求められる。

マンション、団地の規模別に建替え状況を見たのが≪図表2右≫である。これまでに実現したマンション・団地の建て替え事例は、小規模な場合が多い(マンションは事例全体の約7割、団地は事例全体の約6割が50戸以下)が、建て替え検討事例のうち、マンションは約5割、団地は約7割が大規模マンション・団地(101戸以上)であり、今後、合意形成が難しくなることが予想される。

3.老朽マンションの再生と、区分所有法の改正

管理不全マンションの増加と建替えの停滞を懸念し、国は関連法の改正をここ数年で行ってきた。本章では、関連法改正の流れを概観したうえで、「区分所有法」の改正に着目し、そのポイントを整理したい。

(1)マンション管理、建替え・売却に係るこれまでの法改正

まず、「マンション管理の適正化の推進に関する法律の一部を改正する法律」は、マンションの老朽化と管理組合の担い手不足を背景に、2022年に改正されている。具体的な施策として、国はマンション管理適正化のための基本方針を策定する。これを受けて自治体が、マンション管理適正化推進計画を作成し、適切な管理計画を作成したマンションに対して優良マンション認定を行い、指導・助言する仕組みだ。つまり、管理の円滑化を通じて管理不全マンションを発生させない狙いがある。

次に、「マンションの建替え等円滑化に関する法律の一部を改正する法律(以下、改正マンション建替え法とする。)」は、マンションの老朽化と建替え・売却の停滞への懸念から、2022年に改正された。改正マンション建替え法では、新設されるマンションに対して、容積率緩和特例6の適用対象が拡大されている。また、団地を建替える際、一部棟を残しながら進める場合の合意形成要件を緩和する敷地分割制度7も創設されている。これら、マンションや団地の建替えにあたっての敷地条件や合意形成要件を緩和することで建て替えを促進しており、小規模マンションや団地で徐々に建て替えが進んでいる。

(2)今後予想される区分所有法の改正

改正が予定されている「区分所有法」は、経済成長期に旧日本住宅公団による団地、民間分譲住宅の大量供給を受けて、1962年に制定された法律である。団地や分譲住宅は、独立した各部分から構成されていることで所有関係が複雑であり、それまでの民法では権利区分が明確でなかったため、整備されたものである。

足元、高齢化によって管理組合の担い手が不足し、さらには不明区分所有者の増加が、管理、建替え・売却のための合意形成を難航させ、マンションの管理不全や建替え・売却の停滞が起こっている。こうした現状を背景に、今回の法改正は、特に不明区分所有者への対応に焦点を当て、管理、建替え・売却の円滑化を目的として行われる。具体的には、①管理組合における不明区分所有者の決議除外(管理規約変更などの円滑化)、②財産管理制度8の導入、③管理、建替え・売却のための区分所有者の合意形成要件の緩和、が検討事項だ。それぞれの項目詳細については以下に示す通りである。

第一に、管理組合の合意形成要件の過半数決議が緩和され、決議者から不明区分所有者を除外することが可能になる。これにより、管理組合の規約変更が容易になる。従来の規約では「管理者」は区分所有者によって構成される管理組合の代表者(理事長)が担ってきた。しかし、規約変更が容易になることや、組合員の担い手不足が相まって、民間企業をはじめとする管理組合以外の第三者がマンション管理者に採用される可能性がこれまで以上に生じやすくなる。マンション管理に関する専門知識を保有する民間企業の参入は、修繕工事などの適切な対応や迅速な意思決定が期待できる。しかし、区分所有者の管理会社に対する費用負担が大きくなることや、事業性のないマンション管理から企業が撤退するケースがあるため、持続性の担保が懸念材料である。

第二に、財産管理制度の導入がある。これは、所有者が不明な共用部分(外壁や通路など)の管理を、裁判所を通じて管理組合等に命ずることができるものである。つまり、管理組合等が不明区分所有者の共用部分に対して権利が付与され、管理の円滑化が進むのである。現在の原則として、区分所有者は、共用部分に対する管理義務があるため、長期間の不在が予想される場合は、管理組合に届け出ることとなっている。今回の法改正により、裁判所を通じた所有者の特定が可能になるが、それ以前の段階で管理組合内での区分所有者の所在を把握しておく体制づくりも必要だろう。

第三に、建替え・売却のための区分所有者の合意形成の要件緩和は、前回の法改正をさらに推し進めたものになる。これまで、マンション、団地等の建替えは原則住民の4/5以上の賛成者が必要だった。加えて、区分所有者が不明な場合でも、決議の母数に含まれることから要件を満たせず、決議が難航することが多い。今回の法改正によって、耐震・耐火性基準をクリアしていない物件、外壁、給排水設備の著しい老朽化や、高齢者、障がい者等の移動等円滑化促進法の基準に適合していないマンションに限り、決議要件である賛成者数が、4/5以上から3/4以上へと引き下げられる。加えて、売却には住民の全員同意が必要だったのに対し、住民の決議要件が4/5以上に要件緩和されることになる。以上のことから、今後マンション建替え・売却の合意形成が容易になると思われる。一方、オープンスペースの少ないマンションは、高層化が難しく、新しい住民から建替え費を回収することが望めない。このため、建替えに合意した人への多額な費用負担は懸念材料だ。

4.老朽マンションの管理、建替え・売却のための事業方式

先で述べた通り、「区分所有法」の改正によって3つの施策を打つと、マンションの管理、建替え・売却にどのような影響がでるのか、具体的な事業方式を見るなかで検討してみたい。老朽マンションの再生は、行政、民間企業、管理組合が主導するものに分けられる。今回の法改正は、管理規約変更のための合意形成要件の緩和によって、民間企業の参入が促進される可能性があることから、本稿では民間企業が事業主体になる事例について見ていく。管理に係るものとして①第三者管理方式、建替えに係るものとして②URリンケージによる団地建替え事業について紹介する。

(1)第三者管理方式によるマンション管理事業

第三者管理方式は、区分所有者の高齢化を背景に、管理組合の担い手不足から出てきた事業方式である。≪図表3≫で示す通り、従来、管理組合は区分所有者から構成される理事会の決議に対して、総会が承認し、マンション全体の合意形成が図られるのが一般的だった。これに対して第三者管理方式では、理事会に代わってマンション管理会社が管理組合を運営することになる。管理組合の運営方針は、総会または組合員や外部専門家によって構成される監事によって、マンション管理会社の職務執行や財務状況が監督されるのである。

今回の法改正によって、管理組合規約の変更が過半数決議から要件緩和されること、不明区分所有者の決議権の除外が許されることで、合意形成がとりやすくなると思われる。また、管理組合の担い手不足と相まって、民間のマンション管理会社等への委託に対して賛成が得られやすくなる。このため、民間企業の参入が今後増えるだろう。一方で、区分所有者から修繕積立金が回収できない、建物の経年劣化により大規模修繕費がかさむなどの理由から、事業収益が望めないマンションについては、管理事業からの撤退が考えられ、持続性が乏しい面もある。また、区分所有者によって構成される総会や監事の監督が滞る場合、区分所有者の意向が十分反映されない可能性も生まれる。

以上のことから、適切なマンション管理体制の構築には、区分所有者の総会参加率を上げることや専門人材の育成が必要不可欠と思われる。

(2)URリンケージによる団地の建替え事業

団地の建替えに係る事業方式として、株式会社URリンケージによる団地の建替え事業がある。URリンケージは、独立行政法人UR都市機構のグループ会社で、団地建替えとそれに伴う居住者の合意形成を図るコンサルタント会社だ。団地建替えのための事業方式として、建替え計画から事業者選定、合意形成までの一連の流れを請け負っている。

例えば、全棟一括建替えは≪図表4≫で示す通り、現在の住棟すべてを取壊し新たに建設する事業方式で、一括建替えのための合意形成要件9をクリアする必要がある。各棟の住民の2/3以上と団地全体で4/5以上の賛成を得ることが要件のポイントだ。今回の区分所有法改正では、建替えのための合意形成の要件が団地全体の住民の4/5以上から3/4以上、各棟要件は2/3以上の決議要件から1/3以上の反対がない限り要件を満たすとし、これをもって決議要件を緩和することが検討されている10。一方で、特にオープンスペースが少ないマンションは、建替えによる高層化が望めないことから、新しい区分所有者からの資金回収が望めない。このため、今回の法改正をもってしても、建替えが進まないケースが想定できる。

以上のことから、合意形成のための要件緩和によって建替えを促すためには、建替え費用捻出のための事業スキームも合わせて検討する必要があるだろう。例えば、建替えのための区分所有者による積立金制度の導入や、民間の貯蓄型保険制度の活用、固定資産税や都市計画税への上乗せ課税等による財源確保を提案する声もある。

5.まとめ

本稿は、老朽マンションの再生に関わる法改正の流れを概説し、改正区分所有法の論点を整理した。同法の改正は、①管理組合における不明区分所有者の決議除外(管理規約変更の円滑化)と、②財産管理制度の導入、③管理、建替え・売却のための区分所有者の合意形成要件の緩和が焦点だ。

管理組合の規約変更が容易になることで、民間企業のマンション管理への参入はこれまで以上に進むことが予想される。一方で、民間企業によるマンション管理を適切に運営するためには、総会の定期的な監督が必要と思われる。このため、総会参加率を上げることや専門人材の育成が今後のカギとなるだろう。

次に、財産管理制度の導入は、不明区分所有者の共用部分の管理について、管理組合等の第三者の介入を容易にする。このため、マンションの長期管理不全化を防ぐ意味で重要だ。一方で、裁判所を通じた、第三者への管理権の付与に至る前に、管理組合内で区分所有者の所在を常に把握できる体制づくりも必要と思われる。

建替え・売却は、最後の数%の賛成取り付けに非常な労力を費やす。このため、要件を引き下げる今回の法改正は、停滞している老朽マンションの再生を促すための、住民の合意形成を円滑にするという観点では意義は大きい。一方で、狙い通り再生を促すには、建替え費用を抑える仕組みづくりも欠かせない。建替えを伴う住民の費用の負担を軽くしなければ、建替え決議は大きく増えないとの見方もある。マンションの建替えは、高層化することで新たな所有者に売却し、その資金を工事費に回すことで既存の所有者の負担を抑えるのが定石だ。しかし、既に容積率を満たしたマンションに限っては、こうした事業方式が見込めない。今後は容積率の見直し検討も必要になるだろう。

今国会(24年6月期末)への改正法律案の提出が見送られ、結果的に改正区分所有法の施行時期が遅くなる可能性がある。老朽マンションの増加は喫緊の課題であるため、早急な国会での議論が望まれる。

  • 本稿では、中高層(3階建て以上)・分譲・共同建で、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の住宅をマンションと総称しており、団地型マンションも含める。
  • 法務審議会は、法務省に設置された審議会で、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議することを所掌にしている。本審議会の決定を受けて、国会に法案が提出されることになる。
  • 財務省:減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表では、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造の住宅耐用年数は47年とされている。
  • 旧耐震は1971年~80年、新耐震は1981年~1999年、2000年基準は2000年以降に建てられたマンションで、年次が上がるほど耐震性が強化されている。
  • 世帯主が70歳以上の住戸の割合を示している。
  • 容積率の緩和特例は、耐震性不足の老朽マンションの建替え等を促進するため、容積率(建物の延べ床面積の敷地面積に対する割合)制限を緩和できる制度である。「改正マンション建替え法」では、新たに建設されるマンションのうち、政令で定める規模以上のマンションで、要除去認定を受けたものを対象としている。市街地の環境整備(交通、安全、防火及び衛生上)に資するマンションについて、容積率制限を緩和できるものである。
  • 敷地分割制度は、一部棟を存置しながらその他の棟の建替え・敷地売却を行う制度である。耐震性不足や外壁の剥落等により危害が生ずるおそれのあるマンション等のうち、除去の必要性に係る認定を受けたマンションを含む団地において、全員合意によらず多数決により敷地の分割を可能とする制度。
  • 財産の所有者や相続人が不明な場合に、家庭裁判所が選任した財産管理人が当事者に代わって財産の保存や処分を行う制度。
  • 一括建替え決議の実施が可能な団地の要件は、①団地内建物の全部が区分所有建物であること、②団地内建物の敷地が区分所有者の共有に属していること、③団地管理組合の規約で各区分所有建物の管理を団地管理組合で一括して行うことが定められていることとなっている。
  • 地震、火災の安全性基準に適合していない、外壁等の剥離、給排水の損傷や腐食が顕著、高齢者・障がい者等の移動が困難な団地に限定して適用対象が拡充される予定である。

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