動画生成AIは広告、企業PR、個人創作など多方面で活用が進んでいる。企業広告では、制作期間の短縮やコスト削減を実現している。個人創作では、AIが生み出す不自然さがむしろユーモアとして評価されている。将来的に、短編だけでなく長編コンテンツやインタラクティブ動画の生成も可能になり、ビジネスでは幅広い分野に変革をもたらす。また、動画生成の裾野が広がり個人の自己表現手段が多様化する。未来のクリエイターには技術を賢く使うリテラシーが求められる。
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1.はじめに
動画生成AI(人工知能)は目覚ましい進歩を遂げており、広告、企業PR、個人の創作活動など、さまざまな分野でその可能性を広げている。前編では、動画生成AIの進化の歴史と代表的なサービスについて概観した。後編では、これらの技術がどのようにビジネスや個人の創作活動に応用されているかを取り上げると共に、動画生成AIの将来性と課題について考察する。
2.動画生成AIの応用例
(1)テレビCM
現在のところ、動画生成AIの活用が進んでいるのが広告宣伝分野だ。商品紹介動画やプロモーションビデオの制作において、その効果が顕著に表れている。
例えば、米Coca Colaが2024年12月に放映したクリスマスシーズンTV-CMは、1995年に放映した「Holidays are coming」をリメイクし、Luma1、Runway2、Kling3 などの動画生成AIを活用して制作された(図表1)。特にKlingは人間の動きをリアルに再現するうえで効果的だったという4。また、このCMは動画だけでなく、テキスト、画像、音声も全て生成AIで制作された。従来の方法だと制作に1年かかっていたのが、AIを使ったことで制作期間は2か月程度だったという5。
日本では2023年10月、伊藤園が日本初のAIタレントをTV-CMに起用して話題となった。CMでは白髪の女性が若い女性に切り替わる。1人の女性の現在と30年後の姿を生成AIが違和感なく描き出している。これにより、実在の俳優を起用した場合に発生する出演料や撮影コストを抑えられたうえに、視聴者に強いインパクトを与えることに成功した。翌2024年4月に公開された第2弾のCM(図表2)では、音楽と声もAIで制作された6。
生成AIを活用する利点は、制作期間の短縮やコスト削減だけではない。プロトタイプの作成が容易であるため、広告主とクリエイター(あるいは広告代理店)の間でイメージのすり合わせがスムーズに進む。また、昨今有名タレントの不祥事によりCM放映を取りやめる事例が続出しているが、AIタレントなら不祥事を起こす心配がない。レピュテーションリスク対策として、今後AIタレントの起用を検討する企業が増えるかもしれない。
(2)企業PR動画の制作も容易に
動画生成AIにより、企業PR動画の制作手法も大きく変わる可能性がある。動画生成AIは、前編で紹介したモデルやツールに加え、テキストやスクリプトからショート動画を自動生成するタイプのツールも登場している。これらのツールには、あらかじめ用意された画像の中からAIが最適なものを選ぶ方式や、スクリプトの内容に応じてAIが画像を生成する方式がある。いずれの方法でも、基本的にはスライドショーのように場面を構成し、音声を合成して一つの動画コンテンツを作り出す仕組みである。こうしたツールを使えば、企業PR動画の制作も容易になってきている。
実際に筆者も「Mootion AI」という動画生成AIツールを使用し、自社の案内動画を作成してみた。手順は非常に簡単だ。まず自社のウェブサイトから企業メッセージを抽出し、その内容を基にChatGPTで台本を作成する。次にその台本をMootion AIに入力し、言語とビジュアルスタイルを選択。生成ボタンを押すと、AIが台本を適宜再構成し、シーンごとに画像を生成。その後、必要に応じてシナリオや画像を微調整した後、音声やBGMの設定、字幕の有無・フォントを決め、コンポジットボタンを押せば完成だ。数分後に完成された動画は、一部漢字の読み間違いや字幕の改行位置に改善の余地があったものの、プロトタイプとしては十分なクオリティだった。なお、他の動画生成ツールでも似たような手順で制作が可能だ。
こうしたツールは、企業PR動画だけでなく、企業内研修用動画の作成にも活用できるだろう。これまで専門家に依頼して時間と費用をかけて制作していた動画が、手軽かつ低コストで、短時間で作成できるようになりつつある。今後、動画生成AIのさらなる進化とともに、こうしたツールや活用事例がさらに増えていくことが予想される。
(3)個人の創作活動
動画生成AIは個人の創作活動にも広がりを見せている。SNS用のショートムービー、オリジナルキャラクターの動画、アバターを使った動画メッセージなど、さまざまな用途で活用されている。TikTokやYouTubeでは、AIで生成したユニークな動画が急増しており、視聴回数1億回を超える事例も登場している。
例えば「AI猫料理」や「AIに〇〇を作らせてみた」シリーズが“バズ”を起こしている。前者では、AI猫が器用に包丁を使って肉や野菜を切り、フライパンや鍋を使って料理を作るもので、その仕草が妙にリアルで可愛らしく、多くの視聴者を惹き付けている(図表5)。一方、後者の「AIに〇〇を作らせてみた」シリーズでは、AIによる奇想天外な調理方法がユーモアとして楽しまれている。これらのコンテンツは、AIが生み出すデタラメさと不自然さに価値が見出されていると言える。
今後、AI技術の進化によって、より自然でリアルな動画が生成できるようになり、個人の創作活動は一層活性化していくだろう。しかし、AI特有の不自然さが解消されると、ユーモアの源泉である不自然さも失われ、少し寂しく感じる部分もあるかもしれない。
3.動画生成AIの将来展望と課題
(1)マルチモーダル化とインタラクティブ動画
調査会社Exactitude Consultancyによると、世界の動画生成AI市場は2024年の約7億9,932万ドルから、2034年には35億8,229万ドルに拡大する見通しだ9。技術面では、より長編のコンテンツ生成が可能になると同時に、テキストや画像だけでなく、音声や動画、センサー情報などを組み合わせた「マルチモーダル化」が進むと予想されている。
その先にあるのが、リアルタイムの反応を取り入れ、コンテンツを動的に変化させる「インタラクティブ動画」である。例えば、視聴者の表情や音声などの反応に応じて、物語の展開やキャラクターのセリフ・表情が変化するような演出が可能になる。ゲームやオンラインイベントの分野では、参加者の行動や選択に応じて映像が変化する仕組みが広がるだろう。教育分野においても、生徒の理解度や関心に応じてアニメーション教材が自動生成されるオンライン学習コンテンツが普及し、より個別最適化された学習体験が実現する可能性がある。
インタラクティブ動画の普及は、これまでの一方向的なコンテンツ視聴から、双方向かつパーソナライズされた体験への転換を意味する。視聴者のエンゲージメントを高める効果や、コンテンツの多様性・表現力の拡大が期待されるだけでなく、視聴者自身の思考や創造力を刺激する新たな装置として注目されるだろう。
(2)法制面・倫理面の課題
生成AIの発展には、法的・倫理的な課題が伴う。その一つが、生成されたコンテンツが意図せず著作権を侵害するリスクである。例えばAdobeの「Firefly Video Model」では、学習データとして使用する画像などを著作権侵害の恐れがないものに限定することで、企業のAIによる権利侵害に対する懸念を払拭している。
また、ディープフェイク(悪意をもって本物のように合成された偽の画像・動画)も深刻な問題となっている。このため、生成コンテンツにウォーターマークを埋め込んだり、AI生成であることを明示したりする対策が進められている。例えばGoogleの最新モデル「Veo 2」に搭載された「SynthID」は、目に見えないウォーターマークを動画に埋め込み、後からその動画がAIによって生成されたことを識別できるようにしている。
各国政府や国際機関も、ディープフェイクの規制やAI学習データに関する法整備を急いでいる。しかし日本では、ディープフェイクの作成や拡散を直接的に規制する法律はまだ存在せず、名誉毀損罪など既存の法令を適用して対応しているのが現状だ。技術の急速な進化に、法制度が追いついていないという課題が浮き彫りとなっている。
(3)未来における動画生成AIの影響と社会的責任
今後10年の間に、生成AIの性能向上と関連アプリケーションの普及が進み、誰もが手軽に動画を制作できる時代が本格的に到来すると考えられる。これにより、コンテンツ制作の裾野が広がり、個人がより多様な手段で自己表現や情報発信を行えるようになるだろう。加えて広告、教育、エンターテインメントといったさまざまな分野でも、AIが生成する映像が新たな価値を生み出し、サービスやビジネスモデルに変革をもたらす可能性がある。一方で、技術の進化に伴い、倫理的・社会的な課題が顕在化してくることは避けられない。AIと人間が協働してコンテンツを生み出す時代においては、技術を賢く使いこなし、責任ある姿勢で活用することがこれまで以上に求められる。未来のクリエイターには、創造力だけでなく、倫理観やリテラシーを備えた「賢い創造者」としての役割が求められていくだろう。
- 米スタートアップLumaが提供する動画生成AIツール「Dream Machine」を指す。
- 米スタートアップRunwayが提供する動画生成AIツール「Runway」。
- 中国の快手科技が提供する動画生成AIツール「Kling AI」。Luma、Runway、Klingについては、「進化する動画生成AI(前編)相次ぐ新モデル・サービスの登場」で取り上げている。
- GIGAZINE「AI生成のクリスマスCMでコカ・コーラが大炎上」(2024年11月20日付)
- 同上
- 日本掲載新聞「伊藤園、AIモデル起用のCM第2弾 「声」生成で効能説明」(2024年3月29日付)
- 前脚注4
- NIKKEI Digital Governance「架空AIタレントのCM「作らない」英広告最大手WPP」(2025年1月22日付)
- https://exactitudeconsultancy.com/reports/40808/ai-video-generator-market-by-component-solution-services-by-organization-level-by-source-text-to-v