マクロ経済・公共政策

下がる持ち家率、増える住宅相続

主任研究員 宮本 万理子

本稿では、戦後から2000年代以降にかけての持ち家取得と相続の変遷を概観している。戦後日本は、中流層の大衆化を推進するため持ち家政策が行われ、持ち家率がおよそ6割と高い水準に引き上げられた。このため、特に高齢者の住宅ストックが蓄積され、この世代が所有する住宅資産は、当分の間次の世代に相続にされることが予想される。一方で、少子化の進行は法定相続人の減少を意味し、一人当たりの相続財産が増える傾向にある。相続からの恩恵を受ける機会が多くなったと捉えることもできるが、空き家処分問題にみられるように、利用のできない住宅を相続した負担が大きくなる可能性も含まれている。このような住宅相続の実態を踏まえ、高齢者の住宅ストックを活かした住宅流通市場の形成が、これからの持続的な住宅政策にとって不可欠であろう。
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1. はじめに

戦後日本では、中流層の大衆化を図るため、1950年代から住宅金融公庫法を中心に持ち家政策が推進されてきた。また、企業は福利厚生の一つとして持ち家取得を支援する役割を担ってきた。特に大企業は、終身雇用・年功序列制度を基本として、従業員の家族形成とその受け皿としての持ち家取得に大きな役割を果たしてきている。その結果、日本の持ち家率は全年齢でおよそ6割、高齢期では8割に達している。

1970年代以降になると、経済対策として住宅建設が推進されることになり、これがさらに持ち家促進につながった。しかし、1990年代のバブル経済の崩壊が住宅・土地価格の急落をもたらし、住宅市場の混乱が引き起こされる。バブル崩壊に続くリーマンショックや東日本大震災そしてコロナ禍による経済の低迷に加えて、少子高齢化の急速な進行によって、住宅取得に大きな変化が生じた。

いま高齢者層は住宅ストックを蓄積し、住宅相続が多く発生しつつある。そこで本稿では、戦後から2000年代以降にかけての持ち家取得と相続に係る流れを概観し、そこから見える住宅に関する課題を述べたい。なお、日本の持ち家政策と相続については、神戸大学・摂南大学の平山洋介氏の一連の研究成果に詳しい1,2,3。本稿はその研究成果をもとに、国の基幹統計である最新の「住宅・土地統計調査」を使って、全国を対象にして作業を進めるものである。

2.低下する持ち家率

まず、持ち家率が低下していることを、年齢別、コーホート別に≪図表1≫に示した(BOX参照)。これを見ると、1954年以前コーホート(75歳以上)の持ち家率が最も高く70歳の時点で8割に達している。また1955年から59年コーホートもほぼ同一水準にある。この2つのコーホート世代は、中流層の大衆化を目的とした持ち家政策と、企業の福利厚生に下支えされ、結婚・出産を期に30代後半頃から住宅取得が多く行われている。大企業に代表される終身雇用、年功序列制度を背景に高い婚姻率によって、核家族を中心とした標準型ライフコースが確立し、住宅取得が行われてきた世代である。75歳以上の時点で8割に達した持ち家ストックが彼らの死によって相続されることになる。相続先は主に配偶者か子どもであるが、本稿では子ども世代への相続に注視する。

一方で、コーホートが若くなるにつれ持ち家率は低下する。その背景には、1990年代以後の“失われた30年”がある。その影響をもろに受けた若年層や中年層の所得低下と、未婚・単身者の増加が持ち家率に大きな影響を及ぼしている。標準型ライフコースの衰退を如実に表す現象といえるだろう4

3.増加する相続

日本の高齢化率は、2024年で約3割となり世界で最も高い水準にある。死者数(65歳以上)は2024年に140万人に達し、1950年からおよそ2倍に膨れ上がっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年をピークに2070年にかけて毎年150万人超の人が亡くなるとされている。このことから、相続が大量に発生することが予想できる。一方で、少子化が進み、親世代の持ち家を子世代が相続する可能性は高まることが、人口動態から予想することができるが、具体的にその様子を見てみることにする。

財務省の相続税の課税状況に係る統計から、被相続人数と被相続人1人当たりの法定相続人数との関係を見たのが≪図表2≫である。1983年から2022年にかけて、被相続人数は約74万人から160万人へと2倍以上増加している。逆に、被相続人1人当たりの法定相続人数は4.08人から2.68人まで減少している。法定相続人は主に配偶者と子どもから成るが、相続人が減少する背景には、高齢者がもつ子どもの減少がある。被相続人1人当たりの法定相続人数が減少することによって、一人当たりの相続財産が増えることになる。なかには夫婦で複数の住宅を相続する例も増える。一方で、空き家処分問題にみられるように、利用のできない住宅を相続した負担が大きくなる可能性も含まれている。以降では、持ち家相続に絞り込んでその動向を見てみたい。

4.現住居の取得方法の推移-増加する相続住宅―

≪図表3≫は、現在居住している持ち家の取得方法の推移を見たものである。これを見ると、「会社などの法人から取得(購入)」した割合が最も多く、次いで「個人から取得(購入)」「相続・贈与」と続く。2003年から2023年にかけて、「会社などの法人から取得」や「個人から取得」が上下するものの全体として減少トレンドにある一方、「相続・贈与」は、2003~2023年にかけて増加トレンドにあり、主に後期高齢者とその子世代間に対する相続と思われる。

以上を見ると、相続・贈与による住宅取得が増えており、高齢化の進展を勘案すると、その傾向は続くと思われる。とくに戦後生まれの高齢者は持ち家率が高いため、今後その層の死亡にともない相続はより多く発生するであろう。

それでは、現住居(持ち家)を取得した年齢を、コーホートで比較してみてみよう。≪図表4≫は、現住居の取得方法別に、コーホートごとの住宅取得年齢を見ている。「相続・贈与」によって取得した以外のものとして「会社などの法人」から取得(購入)した住居は、どのコーホートでも30~39歳時点で取得したものが最も多い。なかでも1965年以前コーホート(現在60歳以上、以下同様)はこの時期に集中して取得している。一方、1966~1975年コーホート(50~59歳)以降は、取得数が大きく減少している。これはリーマンショック後の経済低迷や、未婚・単身化の増加が主な要因となっていると思われる。特に1966~1975年コーホートで取得数が大きく減少しているのは、就職氷河期世代の経済状況の悪化と見て取れる。さらにコーホートが若くなるにつれてピーク時の件数が低下し、より上の年齢へと分散しており、標準型ライフコースの衰退がみられる。

一方、「相続・贈与」で取得した住宅は、全てのコーホートで大きな違いはない。1966~1975年コーホートについて、50~59歳時点で1965年以前のコーホートを上回っている点は、日本全体で相続・贈与により住宅取得が増加傾向にあり、今後もその傾向が続くことを示唆している。このように相続・贈与による住宅取得は50代で増加が始まり60歳以上で急増することが予想される。

5.現住居以外の住宅取得方法の推移-増加する第2の持ち家相続-

≪図表5≫は現住居以外の住宅を所有する世帯数を示している。これらの住宅は、第2の住宅、別荘、賃貸、あるいは空き家として存在するだろう。50歳以降に現住居以外の住宅を所有する世帯数が多くなり、70~74歳にピークを迎え、その後なだらかに減少していく。50代での取得は、親からの相続・贈与によって取得したもののほか、別荘などの取得も考えられる。後述するリゾートマンションや建売別荘販売によって取得した物件が多く含まれるものと思われる。その後、70代にかけては親からの相続・贈与によって取得したものが多いことが予想されるが、75歳以降には手放す傾向が見て取れる。

次に、現在居住する住宅以外の持ち家保有率を、年齢別、コーホート別に見たのが≪図表6≫である。年長コーホートほど、現住居以外の住宅保有率が高くなっている。1949年以前コーホート(76歳以上)、1950~1959年コーホート(66~75歳)、1960~1964年コーホート(61~65歳)は、他のコーホートと比較して、各年代での保有率が高い。この時期の住宅取得には、1987年のリゾート法制定が後押しして、1990年代の別荘取得が多く含まれているものと思われる5

次に、現住居以外の住宅の取得方法の推移を詳しく見たのが≪図表7≫である。「相続・贈与」が最も多く、次いで「個人」「会社・都市再生機構(UR)などの法人」と続く。「個人」「会社・都市再生機構(UR)などの法人」からの取得は1998年から2023年の間で減少し、逆に「相続・贈与」での取得が増加している。従って、先述した3つのコーホートは高齢期になると、その親からの相続によって第2あるいは第3の持ち家を取得している可能性が高い。現在の後期高齢者がその親世代から住宅を相続していることで、1998年以降に発生している。加えて、後期高齢者人口の増加に伴って、その子世代への相続が増加しつつあるためと推測できる。

6.住宅ストックを活かした住宅流通市場の形成に向けて

本稿では、戦後から2000年代以降にかけての持ち家取得と相続の変化を概観してきた。それを踏まえたとき、今後住宅所有はどのような方向に進むのだろうか。

戦後日本は持ち家政策により高い持ち家率が維持され、特に今の高齢世代には潤沢な住宅ストックがある。この世代が所有する住宅資産は、当分の間次の世代に相続されることが予想される。また、人口規模が大きいため、その数は今後さらに増えていくだろう。

一方で、少子化の進行は法定相続人の減少を意味し、一人当たりの相続財産が増えることになる。このことは、相続からの恩恵を受ける機会が多くなったと捉えることもできるが、空き家処分問題にみられるように、利用のできない住宅を相続した負担が大きくなる可能性も含まれている。以下では、具体的例を提示しながら、住宅相続に関する留意点について述べる。

まず、親から相続した住宅の資産価値が高いケースである。例えば、相続した住宅が都心部に立地するため資産価値が高く維持され、築年数も比較的新しい場合には、再度住宅市場に流通させることが可能なことが多い。実際に、相続住宅を賃貸するなどして収益を得ている者も多く、こうした層は相続から得られる恩恵が高い。このようなケースでは、築年数が古くなることで住宅の資産価値が低くなる前に、高齢の両親が生前中に不動産会社等を仲介し、売却・賃貸活用を進めることで中古市場の流通形成につながる可能性がある。

これに対して、建築年代が古いうえに処分の難しい遠隔地の住宅を複数相続した場合、相続人の管理負担が大きくなり、時には空き家として放置されかねない。従って、特に1970年代以前に建てられた古い住宅に関しては、子世代の管理負担を軽減するため、古い住宅の改修支援策を講じる、空き家市場を拡大する、金融資産とセットの相続を奨励し、住宅の補修や解体のために利用できるようにする、などさまざまな対策が必要になるだろう。

以上のように、本稿で示した親子間の住宅相続の実態を踏まえつつ、高齢者の住宅ストックを活かした住宅流通市場を形成することが、これからの持続可能な住宅政策にとって不可欠であろう。

  • 平山洋介(2014):持ち家社会と住宅政策、社会政策学会誌6(1)、11-23
  • 平山洋介(2019):超高齢・持ち家社会における住宅相続の階層性について、日本建築学会計画系論文集84(760)、1433-1442
  • 平山洋介(2023):家族住宅資産の階層化について、日本建築学会計画系論文集88(805)、1071-1080
  • 平山・川田(2015)では、未婚・低所得の若年層では、親が所有する持ち家に居住する人が約6割に達し、それ以外の約2割は自身の借家暮らしをしているという実態が明らかになっている
  • 不動産経済研究所「全国マンション市場・40周年史」、p80

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