ワーク・エコノミックグロース

楽天銀行に学ぶ 「人と組織を育てる」 組織運営
~コンピテンシー強化が支える成長モデル~

主任研究員 久井 環

実店舗を持たない楽天銀行において、顧客との唯一の接点となるシステムの品質は生命線である。その品質の中核を担うシステム本部と、人事戦略を司る人事本部への取材を通じて見えた同行の強さの源泉は、デジタルバンクの成長を裏で支えるアナログなまでの「人間力」へのこだわりである。同行の差別化戦略「システムの内製化」の真価は、技術力そのものよりも、それを動かす「人」と「組織」のあり方にこそあった。一人ひとりが自らの役割と責任を深く理解し、的確な判断と行動を可能にするコンピテンシーの強化を、事業戦略の根幹に据えている。そして、それを支える「役職員をエンパワーメント(元気づけ)する組織運営」と、常に全役職員が同じ瞬間に同じ景色を共有し得る「風通しの良い風土づくり」がある。卓越した技術力に加え、このような組織運営と風土醸成、さらには最適かつ迅速な意思決定プロセス ―― 楽天銀行の強さの源泉は、コンピテンシーの継続的な強化を軸とする成長モデルにあるといえる。

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1.楽天銀行株式会社が貫く「システムの内製化×スピード」戦略

(1)グループ独自の経済圏「楽天エコシステム」における金融(フィンテック)事業の中核企業

楽天銀行株式会社(以下、楽天銀行)は、楽天グループ株式会社(以下、楽天グループ)が展開する金融事業の中核を担う企業である。楽天グループは銀行と並行して証券、クレジットカード、ネット通販、モバイル、トラベルなど多岐にわたるサービスを展開している。こうしたサービスは、楽天グループが保有する1億人を超えるメンバーシップ基盤1を背景に、インターネットを介した独自の経済圏「楽天エコシステム」2を形づくっている≪図1≫。この「楽天エコシステム」を強みに、楽天銀行は急速な成長を遂げ、口座数・預金残高ともにネット銀行業界首位の座を確立した3。2023年4月には、東京証券取引所プライム市場への新規上場を果たした。上場後も順調に事業は拡大しており、「楽天エコシステム」による相乗効果に加え、金利上昇も追い風に、2026年3月期通期の連結純利益は、6期連続での過去最高益更新が見込まれている4

(2) 差別化戦略:システム開発・運用・保守の内製化

楽天銀行の経費率は32.9%5にとどまり、他の金融機関と比較して低い水準にある。これは、事業規模の拡大に加え、2001年の開業6以来、システムを経営の中核資源と位置づけ、 開発から運用・保守までを一貫して自社で担ってきた結果といえる。

システム関連業務をシームレスに統括する常務執行役員システム本部担当役員兼システム本部長は「特定のベンダーに依存することなく、すべて自社開発することに強いこだわりを持っている」と話す。さらに、「インシデント(システム障害など)が起きた際、社長含む経営陣が入った情報共有用チャットを通じて、事態発覚直後から瞬時に情報が行内で周知される。これにより、意思決定までの時間を最短化し、顧客対応上の無駄を徹底的に排除する」と強調する。楽天銀行では、顧客の視点に立つと、関連部署や役職に配慮した報告順序を検討する時間こそ、最も排すべき無駄との考え方が共有されている。顧客に対して迅速に安心・安全を届けることに全力を傾ける姿勢が窺える。

インシデント対応に並行して、顧客影響が見込まれる場合は、顧客からの問い合わせ対応を担うコールセンターとの連携など、部門を跨ぐ伝達も瞬時に行われる。行内における「知らない」「聞いてない」の一切を排除し、顧客に対する利便性確保に向けた即応的かつ妥協のない取組みは随所に見られる。

即応性を可能にする要因のひとつに、現場を担うシステム本部所属の行員は、開発段階において、同本部を構成する各部が、緊密に連携する組織体制を挙げる≪図2≫。「システムの設計・開発を担う開発部、システムのインフラ全般を所管する基盤部、バンキングサービスの安定稼働や障害対応を司る運用部の3つの異なる部に所属する各メンバーが、サービス開発の構想段階において、多角的視点を反映する形で部を跨いだ協議を重ねている。これが、将来のシステム運用を見越した設計・開発を可能にする要素と考える。また、サービス稼働後、システム障害などの緊急時には、設計趣旨を熟知した行員が復旧対応にあたることができる。開発当初において、業務を部単位で縦割りにすることなく、顧客に対する安心・安全を見据え、本部内で垣根を超えた連携が、緊急時における即応性を実現している」と語る。システム開発の初期過程において、さまざまな専門性を持つ行員が活発に議論することを、現場を預かる行員はもとより、システム担当役員はじめ部長陣も重視していることから、同本部について「風通しの良い組織」との印象を抱く声がある。

システム開発から運用・保守まで自社で主導するということは、高い技術力や豊富な業務知識と同時に、24時間365日稼働できる体制が求められる。実店舗を持たない楽天銀行の顧客満足度は、ネットバンキングサービスの品質そのものによって決定されると言っても過言ではない。では、楽天銀行はどのようにして、差別化の要であるシステム開発・運用・保守の内製化と、持続可能な組織運営の両立を実現しているのか。

本稿では、すでに述べた行内連携の具体的事例を起点に、楽天銀行の中枢であるネットバンキングサービスを担うシステム本部と、人的資本の戦略的活用を推進する人事本部への取材を通じて、同行の「人と組織」に見られる特徴から、成長戦略の本質を考察する。

2.楽天銀行が掲げる人事戦略:起業家精神を基軸とした当事者意識の組織的醸成

人口減少に伴う労働力不足、メガバンクを中心としたネットバンキング事業の拡大、さらには異業種による金融サービスへの参入など、金融業界はかつてない環境変化に直面している。楽天銀行にとっても、採用力強化や離職防止は、将来の競争力を左右する重要な経営課題である。さらに、急成長を実現するべく戦略的に経営資源を配分してきた結果、組織基盤の一部に強化の余地が生じていることは否めない。

こうした環境変化や組織課題と向き合いながら、同行はいかにして人材を育み、持続的成長を支える組織基盤を築いているのか。本章では、人事戦略を統括する執行役員人事本部担当役員兼人事本部長への取材を通じて、楽天銀行がどのような意図のもとで人事戦略を推進しているのかを紐解く。

(1)楽天銀行の原動力:役職員の起業家精神と「楽天主義」

起業家精神(Entrepreneurship、アントレプレナーシップ)とは、革新的な挑戦に対する主体性や積極性、最後までやり抜く責任感や行動力、困難に直面した際の決断力や勇気などを含む概念である。楽天エコシステムを構成する各事業会社は、楽天グループが掲げるミッション「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」7を共通の大義8とし、ビジョンである「グローバルイノベーションカンパニー」9であることが求められている。 楽天グループおよび各事業会社には、起業家精神を原点とする 「楽天主義」10と呼ばれる価値観と行動指針が通底している≪図3≫。これに照らし、人事担当役員は次のように語る。「同じ楽天エコシステムのもとで事業展開する企業として、楽天グループはもとより他の事業会社同様に、楽天銀行もまた、すべての役職員に起業家精神が求められる。当行は新規上場を機に引き続き独立性を重視しつつも、企業グループの一員としての立ち位置を踏まえ、グループ全体のさらなる成長に資する存在であり続けるため、起業家精神をより一層磨いていく必要がある。

寓話「3人のレンガ職人」11を例に引きつつ人事担当役員は、目の前の作業をこなすこと自体を目的化するのではなく、その先にあるさらに大きな目的を見据えて職務に向き合う姿勢の重要性を説く。「日々の業務を「やらされている仕事」と受動的に捉えるのではなく、自らが企業を形づくる主体であるとの気概を持ち、高い志と当事者意識をもって行動することが望ましい」 ―― この姿勢こそが、「楽天主義」を体現する人物像の要諦であることを明示している。

(2)起業家精神を養い、役職員に当事者意識を醸成させる取組み

楽天銀行の経営陣が思い描く役職員の起業家精神は、どのようにして養われるのか。その手掛かりとして、人事担当役員が指摘するのは、毎週月曜に全グループ会社を対象とした楽天グループによる「朝会」である。これは、楽天グループ代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷氏が、自らの言葉で今後の展望や事業を取り巻く環境、KPIの進捗状況などを語り、楽天エコシステムを構成する国内外の全事業会社の役職員に向けてライブ配信するとともに、双方向の対話を行う場である。

楽天グループは、グローバルに事業展開し、海外に多数のグループ会社を擁し、国内においても外国籍人材の採用を積極的に進めている。こうした背景から、役職員間の情報格差を排除する目的もあり、英語が公用語化されて久しく、「朝会」も英語で実施される。

「朝会」において、グループ代表が描くビジョンや課題認識は、各社役職員へ一斉に共有される。楽天銀行においても、楽天エコシステムの一員として求められる行動や姿勢を再確認し、出席する行員一人ひとりがグループの展望と照らしつつ、自らの役割と深く向き合う機会と位置づけられている。

楽天銀行に他業種から転職したシステム本部所属の行員らは「過去に在籍した企業では、全役職員はもとより、グループ企業所属の役職員が一堂に会する会議体は稀であった。ましてや、毎週開催されることは類を見ない」と一様に振り返る。

また、同行では、毎週水曜に全行員を対象とした「銀行・信託朝会」が開催されている。ここでは、代表取締役社長最高執行役員をはじめとする経営陣が「朝会」同様に、自らの言葉で、経営方針やKPIといった展望と足元の状況が共有される。「銀行・信託朝会」について、「従来は各本部や各部による業務紹介が中心であったが、昨今は各本部を統括する役員が、自身の言葉で当行の将来像や目指す組織のあり様を語る場としての性格が強まっている」との声があった。さらには、システム担当役員が主宰するシステム本部定例を挙げ、「楽天エコシステムを構成する銀行として、本部として、どこへ向かい、何をなすべきか、各組織の責任者自らが語る会議体が頻繁に開催されることで、情報の透明化が図れている。これにより、自身に任せられた業務の目的や背景に対する理解が深まり、仕事への納得感が生まれやすい」と、各会議体の意義を評価する声もある。このような情報共有を通じて、役職員一人ひとりが見る景色が同じである前提に立ち、「上司と忖度なく、業務遂行にあたる改善案を提案しやすい」との好意的な受け止めが見られる。

人事担当役員は、役職員一人ひとりに当事者意識を醸成させるためには、情報共有が不可欠と説く。楽天銀行として果たすべき大義への共通認識を最優先するこの姿勢は、それぞれの会議体が定期的かつ頻繁に開催されている事実、そして、これら共有の場に対する行員らの前向きな共感によっても、如実に裏付けられている。

3.コンピテンシー強化を目的とした組織構築

(1)楽天銀行におけるコンピテンシー重視の評価制度

コンピテンシー(Competency)は、一般に「能力」「適性」「技能」などと訳される。日本においては、とりわけ組織運営や人材開発の分野で、「優れた成果に結びつく行動特性」を指す言葉として定着してきた。職場において高い成果を継続的に生み出す人材、いわゆるハイパフォーマーに共通する行動や思考、物事への取り組み姿勢の特徴として整理され、人事評価や育成の指標のひとつに用いられることが多い。

人事担当役員は、「楽天銀行の役職員に求められるコンピテンシーの水準は、人事上の7段階の格付け(職位)に応じて異なる」と説明する一方で、「楽天主義」に即した行動ができているかどうかが、全役職員共通の重要な評価軸であるとの認識を示す。このような方針が、現場でどのように理解されているかについて、行員の目標設定や人事評価において重要な役割を担うシステム本部システム運用部部長を取材した。

同部長は今年度改定された評価制度の要点について、次のように説明する。「楽天エコシステムの一員として求められる「楽天主義」は共通でありつつも、楽天グループではコンピテンシーに比重が置かれている一方、当行では成果が重視される傾向にあった。しかし、本改定を機に、当行は楽天グループの評価軸に準拠する方向性が示された。これにより、行員が掲げた仕事目標が外的要因などにより成果に結び付かなかった場合でも、達成に向けたプロセスを重視し、コンピテンシーをより意識した評価を実施している。

金融業は認可事業であることから、行政が定める監督指針に基づいた運営が必須となる。そのため、顧客に対する安心・安全を最優先とした業務遂行は、金融機関にとって当然の前提条件であり、楽天銀行も例外ではない。この観点からすれば、楽天エコシステムにおいて金融サービスの中核を担う楽天銀行に対し、安心・安全に資するサービス提供が成果として強く求められてきた背景は、極めて合理的であろう。

一方で、新規上場を果たした楽天銀行においては、持続可能な組織体制の構築を通じた企業価値向上を目的とする人的資本経営の深化も、成果創出と並んで重要な課題であると考えられる。その一環として、コンピテンシーを基軸とした評価制度をより一層推進していく方針は、同行の中長期的な成長戦略とも軌を一にする施策と位置付けられるだろう。

(2)職員の起業家精神とコンピテンシー強化を促す管理職の使命:「抽象の具体化」と「具体の抽象化」

「楽天主義」の体現を通じて、個人および組織として楽天銀行の持続的な成長を実現するべく、人事担当役員は、組織を牽引する管理職に求める諸要件の中から、特に「抽象の具体化」と「具体の抽象化」に焦点を当てた。本項では、これらの要素について詳述する。

①「抽象の具体化」

楽天銀行の役職員に重んじられる「楽天主義」が、日々の行動として具現化されるためには、その体現者を適正に評価する仕組みが不可欠である。その基盤となるのが、会社が掲げる経営方針という大義を、各部署の責務へと翻訳し、現場職員へ浸透させる管理職の役割である。

人事担当役員は「銀行・信託朝会」などの場において、時として必然的に経営方針は抽象性を帯びる点に触れつつ、経営陣から本部長、部長へと階層を経る過程で、自部署のミッションへと正しくブレークダウン(落とし込む)する能力こそが、同行管理職の要諦であるとの認識を示す。

役職員一人ひとりが起業家精神に基づき、高い当事者意識を持って業務に臨むためには、自らの仕事が組織の大義の中で、いかなる位置を占めるかを理解することが前提となる。寓話「3人のレンガ職人」を用いて人事担当役員が示唆するように、単なる作業としての従事と、「大聖堂建設」という目的意識の保持とでは、成果の質に決定的な差が生じる。ひとつひとつの作業を、将来の大義達成に向けた確かな一歩と位置付け、将来のビジョンから現在を「バックキャスティング」12する視座を持ち、それぞれの業務へ意味づけを行える管理職の存在は、組織の士気とパフォーマンスを左右する。

このように、楽天銀行における管理職の使命である「抽象の具体化」とは、すなわちこの「大義の接続と意味づけ」に他ならない。

システム本部システム運用部部長は、行員の目標設定にあたり、次のことを心がける。「システム担当役員は、常に顧客目線を重視する。それを踏まえ、システム運用部の最も重要な役割は、システムの安定稼働である。これに照らし、各行員との目標設定面談13の際、それぞれが掲げる目標の「背景」「目的」「行動」「効果」について解像度を高める。これらを各自が明確に整理できていれば、行員は自走する」と語る。

また、組織強化に向けたキャリア採用を行う同部長および副部長は、「エンジニアとしての高い技術力を求める一方で、大前提に、銀行員としての金融知識を習得する意欲を問う」と述べる。ネットバンキングサービスの品質を担うシステム本部においては、金融庁の監督指針や行内の業務規程等に基づいたシステム設計・開発が不可欠である。なぜ厳格な安定稼働が求められるのか、その根拠となる背景や目的を深く理解しようとする姿勢こそが、技術力以上に重んじられる要件である点を強調する。

次に、管理職のこうした方針が、現場に浸透する実態に目を向ける。

同行ではシステム開発・運用・保守を24時間365日体制の内製で担い、システム運用部では厳格な三交代勤務体制が敷かれている。 現場を担う行員らは一様に、「シフト間の引継ぎは重要なタスクである。将来のシステム障害を発生させないために、いかなる微細なアラート14であっても、見逃すことは許されない。すべての事実を確実に次のシフトと連携し、積み残し業務を含めた情報伝達を徹底する」と口を揃える。これらの言葉からは、システムの安定稼働という「大義」が、実務レベルで「具体化」されている様子が窺える。また、「システム業務は決して一人では成しえない。システムの安定稼働を担う部署では、コミュニケーション能力や協調性が重視され、このような行動特性を持った行員が評価される傾向にある」と続ける。

以上の実態から、個人の持つ技術力に偏重することなく、組織全体で大義達成を目指す「楽天主義」 ―― とりわけその核心である「ブランドコンセプト」が、現場において深く浸透していることが見て取れた。

②「具体の抽象化」

「抽象の具体化」と並び、管理職に必須とされる「具体の抽象化」である。これは、個別の事実や成果を起点として、その背景にある要因や本質を抽出し、他の場面においても応用可能な知見へと昇華させ、一般化する能力を指す。この思考プロセスは、成功事例・失敗事例のいずれをも組織の教訓として体系化し、属人性を排した「再現性のある仕組み」として定着させる際に不可欠となる。こうした考え方は、「楽天主義」に掲げられた行動指針の一つである「仕組化」に深く通底する概念といえる。管理職には、自らがこの能力を体現することはもとより、行員に対して、その重要性を説き、実践を促す責務が課されている。

現場の行員へのインタビューにおいても、この「仕組化」がもたらすポジティブな効果が確認された。

発生したアラートの解析や一連の対応プロセスを通じて得られた知見を、個人の経験にとどめず、業務手順書の改定や新たなルール策定に反映させることができる。このように自身の知見を制度化できたとき、自分自身が社会的な金融インフラを支えている実感を持つことができ、誇りに思う。

ここには、自らの仕事が組織、ひいては社会への貢献に直結しているとの確かな自負と、力強い意志が窺える。

「抽象の具体化」による大義達成に向けた個々の業務への意味づけと、「具体の抽象化」による知見の資産化。この双方向のサイクルが機能することで、楽天銀行は、組織としての成長と、個人の働きがいを同時に実現しているといえる。

(3)管理職が意識する管理職としての素養:「覚悟が伴う発信力」と「傾聴する包容力」

システム担当役員、同本部システム運用部部長および副部長に対するヒアリングを通じて、同本部管理職が描くビジョンと、それを現場で具現化するプロセスが明らかとなった。本章の総括として、人事担当役員が提示した要件に加え、現場管理職3名への取材から浮き彫りになった「行員との向き合い方」と「行員からの印象」を手がかりに、彼らがリーダーとして不可欠だと考える「素養」について考察を加える。

第一に挙げられるのは、意思決定への責任を負う「覚悟が伴う発信力」である。

管理職という立場にある以上、下した判断とその結果に対する責任は不可避である。彼らはその重責と向き合い、方針を自らの言葉で語り続けている。行員からのヒアリングにおいて、彼らが目指すべき方向性を明確に指し示し、自らもその道を率先して歩む姿勢こそが、行員の納得感を醸成し、業務遂行における心理的な拠り所となっている、との声が多数寄せられた。

第二に、彼らが自ら重視する素養として「傾聴する包容力」が挙げられる。

システム本部所属の行員は、直属の上長のみならず、部長や副部長と定期的に1on1ミーティングを実施する。その効果は、多面的といえる。例えば、本部に新卒として配属された行員からは、新卒者の受け入れが未経験であったにもかかわらず、部長陣含めた上長らとは、仕事やプライベートについて相談しやすい間柄、との意見があった。また、過去の勤務先で1on1経験のない行員は、「意見を聞く」ポーズにとどまらず、提案したことが組織運営に反映された実感があるという。特筆すべきは、リファラル採用(知人紹介)の実績である。膨大な開発案件の中で、時に担当プロジェクトの優先度が下がる葛藤を抱えつつも、知人を転職先として推薦する行員や、入行間もなく旧友を招き入れる者が存在する。これは、職責や重圧を補って余りある信頼関係と、組織に対するエンゲージメント(満足度)の高さを示す何よりの証左といえよう。

こうした「傾聴と受容」による包容力を示す一方で、彼らの言葉の端々には、現場を預かる管理職ならではの葛藤と、責任と向き合う強い信念が滲む。「金融機関にとって生命線である安心・安全を24時間365日支え続けるシステム本部の業務は、行員本人の努力のみならず、その家族の理解と協力があって初めて成立する」と、同部長は語る。かつて自身が一担当者であったとき、当時の上司(現システム担当役員)は支えとなったことを振り返る。その原体験があるからこそ、今、自らが上長の立場として、行員一人ひとりの私的事情や背景に可能な限り配慮し、組織運営にあたっている。これらのことから、世代を超えて受け継がれる周りへの気遣いや組織の絆を重視する姿勢が窺えた。

4.役職員一人ひとりのエンパワーメントとコンピテンシー強化が支える成長戦略

楽天銀行に対する一連の取材15から、同行の成長戦略を支えるふたつの核心的要素が浮き彫りになった。

第一に、役職員それぞれの役割が組織として掲げる大義に照らして明確に定義され、個人と組織がベクトルを合わせて共に前進していること。第二に、「風通しの良い組織」という理念が単なるスローガンにとどまらず、日々の実務レベルで徹底的に実践されていること。

インシデントが発生した際、情報の周知が迅速であっても、受け手が自らの役割に即して取るべき行動を的確に把握できなければ、 単なる情報の伝達にとどまる。顧客対応は後手に回り、内製化する最大の強みであるはずの 「即応性」は失われてしまう。楽天銀行では、各自の役割が明確に定義され、組織として何をなすべきかを瞬時に判断できる体制が整っている。さらには、平時から不測の事態に備え、必要な技術と知識を自律的に学ぶ姿勢、経験に基づく改善と仕組化、周囲と連携する協調性、これらを推奨し評価する文化が根づいている。

役職員が同じ瞬間に同じ景色を共有する「風通しの良さ」、自らの役割に対する解像度の高さ、そして学びと成長が組織によって見守られているという安心感 ―― 「楽天主義」の実践を通じて積み重ねられた要素が、組織において強固な信頼関係を醸成し、役職員一人ひとりのエンパワーメントとコンピテンシー強化を加速させている。この好循環が、同行の成長戦略を支える中核エンジンとして機能している。

今一度、誰もが自らの職場に思いを馳せてほしい。楽天銀行は、顧客からの信頼を勝ち取るべく、体制強化と人材育成への不断の努力を重ねている。この姿勢は、決して楽天銀行にのみ求められる特殊なものではない。ビジネスに携わるあらゆる組織が備えるべき普遍的な要諦といえる。

徹底した顧客視点に立ち、個人として、組織として、今この瞬間に下すべき決断を見極め、それを確実に実行へと繋げられるか ―― この連続した営みの質と量こそが、企業の競争力を形づくり、やがて市場において揺るぎない差となって表れるのである。

  • 楽天会員IDを保有する顧客基盤。ID登録数は、登録完了後に1回以上のログイン実績があり、退会者数を除いたもの。
  • 楽天グループ株式会社 Webサイト(2026年1月5 日閲覧)<https://corp.rakuten.co.jp/careers/services/>
  • 日本経済新聞 Webサイト(2026年1月5日閲覧)<https://www.nikkei.com/nkd/company/?scode=5838>
  • 楽天銀行株式会社 2026年3月期第2四半期(中間期)決算説明会資料
  • 前掲注4
    2026年3月期第2四半期(中間期)における単体経費率を示す。直近通期では、2025年3月期35.6%であり、2021年3月期55.0%からの推移をみると、連続した低下基調にある。
  • 楽天銀行株式会社 Webサイト(2026年1月5日閲覧)<https://www.rakuten-bank.co.jp/corp/about/history.html>
    楽天銀行は、2001年7月に前身のイーバンク銀行株式会社として開業した後、楽天グループとの資本・業務提携、ならびに子会社化を経て、現在に至る。
  • 楽天グループ株式会社 Webサイト(2026年1月9日閲覧)<https://corp.rakuten.co.jp/about/philosophy/>
  • 一連のヒアリングの中で、「大義」という言葉が多く聞かれた。これは、「楽天主義」の根幹を成す概念であり、楽天グループが掲げるミッションやビジョンを追求し、実現しようとする姿勢や目的そのものを指している。
  • 前掲注7
  • 前掲注7
  • “Three Stonecutters: On the Future of Business Education”, Harvard Magazine, Oct. 15, 2008
    マネジメント理論を提唱した経営学者ピーター・ドラッガーらが援用することで知られる「3人のレンガ職人(Three Stonecutters)」とは、「あなたは何をしているのか?」と問われたレンガ職人3名それぞれの回答から、働く意義を考えさせるたとえ話である。それぞれの回答には諸説あるが、1人目のレンガ職人は「生計を立てるために、レンガを積んでいる」、2人目は「この国で一番のレンガ職人としての仕事をしている」、3人目は「人々の心の拠り所となり、世代を超えて語り継がれる大聖堂を建設している」との趣旨で答えたとされている。
  • バックキャスティング(バックキャスト) とは、将来のあるべき(ありたい)姿から逆算して、今何をなすべきかを中長期的な視点で考えることを意味する。フォアキャスティング(フォアキャスト)の対義語。
  • 楽天銀行では、 年度を上期(4月~ 9月)と下期(10月~翌3月)の二期に区分し、各期において目標設定、中間面談、評価面談、および振り返りという人事PDCAサイクルが実施されている。これにより、昇給機会は年2回ある。
  • システム監視において、重大インシデントやシステム障害などに将来発展する可能性がある異常や予兆を検知し、運用担当者へ通知・警告するメッセージを指す。
  • 当社が単独インタビューを実施した相手方と、その面談日は以下のとおりである。
    常務執行役員システム本部担当役員兼システム本部長(2025年10月30日)
    執行役員人事本部担当役員兼人事本部長(2026年1月9日)
    システム本部システム運用部部長(2026年1月9日)、同副部長(2025年10月30日および2026年1月9日)
    システム本部所属行員4名(2026年1月6日および2026年1月9日)

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