
因子間の相関を見ると、因子4「環境問題への関心」は、因子2「リスク認知」と比較的強い正の関連を示しており、また一方で、因子1「ベネフィット認知」とも正の関連がみられる(図表3)。
また、ベネフィット認知は、因子5「情報公開への期待」と中程度の正の相関を示しており、さらに、因子3「エネルギー政策全般の透明性・対話・政府への信頼」も情報公開への期待と正の相関を示している。
日本のエネルギー政策は、脱炭素だけでなく、安定供給と経済成長の同時達成が問われている。2025年12月に閣議決定された2026年度予算案では、国産エネルギーの強化に向け、ペロブスカイト太陽電池等のサプライチェーン構築や次世代革新炉の研究開発、水素の拠点整備といった支援の実施が盛り込まれている。
エネルギー個別の論点を見ると、足元では柏崎刈羽原子力発電所6号機の再稼働に向けた動きがある一方、北海道では泊発電所3号機を巡り、道による住民説明会が実施されるなど、立地地域を含めた理解促進の取組が進められている。再生可能エネルギーについては、昨今、大規模太陽光発電事業(メガソーラー)の自然環境への影響など地域共生における課題が生じている。これに対し政府は2026年1月、地上設置型の事業用太陽光に対する再エネ賦課金を用いた支援について、2027年度以降廃止する方向性を示した。このように、再生可能エネルギーの導入拡大にあたっては、脱炭素と生物多様性の両立が求められる局面を迎えている。水素については、2024年10月に水素社会推進法が施行され、拠点整備支援や価格差支援の認定制度の整備も進んでいる。ただし、水素は原子力・再生可能エネルギーと異なり社会実装の途上にあるため、国民がベネフィットとリスクを具体的に想像しにくいことが想定される。つまり、情報の発信の方法次第で受容態度が左右される可能性がある。
このように、原子力・再生可能エネルギー・水素の特徴を鑑みると、受容の前提となる不安・懸念・理解度はエネルギー源ごとに異なると考えられる。本稿では、エネルギー政策への「賛否」そのものではなく、「判断保留(わからない)から態度明確(賛否表明)へ移行する段階」に着目し、3エネルギーで「何が態度明確化に関連するのか」を比較するものである。具体的には、①受容態度を構成する要因の「まとまり」を抽出し、②その要因が態度の明確化にどのように関係しているかを統計的に検証し、印象論ではなくデータに基づいて明確化することを目的とする。
当社では、日本のエネルギー政策に対する国民の認識等について、全国2,089名を対象としてエネルギー政策に係るアンケート調査1(以下、「アンケート調査」)を2025年1月に実施した。この結果に基づき、エネルギー政策推進にあたって国民とのコミュニケーション設計の示唆を提示することを目的としたレポートも発行しており2、当該レポートでは、エネルギー政策の主要論点(原子力・再生可能エネルギー・水素への賛否)について「わからない」と回答する層(判断保留層)が3~4割に達することが明らかとなっている。本稿では、判断保留層に着目した追加分析として、エネルギー(原子力・再生可能エネルギー3・水素)の受容要因を明らかにするため、「因子分析」及び「2値ロジスティック回帰分析」を実施した。
エネルギー政策の受容要因については、住民の認識や態度形成を規定する要因に関する研究が蓄積されている。例えば、王ら(2023)によると原子力発電の受容に影響する要因として、「リスク認知」や「ベネフィット認知」、「原子力発電への信頼」による要因が強いことが示されている4。また前川ら(2023)は、太陽光発電事業による景観変化への不快感が反対態度の形成の規程要因となり得ること5、飯田ら(2022)は洋上風力発電の受容が「経済的豊かさ」や「事業への関心」などの複数因子で説明できることを報告している6。水素については、三原ら(2019)によって、水素ステーションに対する危険性よりも必要性が受容態度に影響しやすい一方、知識が必ずしも受容につながっていないことなどが報告されている7。
このように、先行研究では各エネルギーの賛否を規定する要因の解明が進んできた。これに対し本稿では、アンケート調査の結果から一定数見られた判断保留層を分析の中心に位置づけ、賛否の方向ではなく態度明確化の規定要因に着目した。分析の手法として、まずアンケート調査で尋ねた受容に関する質問項目について、その背後で共有している潜在的な受容要因(ベネフィット認知、リスク認知、環境への関心など)を抽出するために、因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行った8。因子分析の対象とする質問項目は、先行研究で論点化されてきた観点に沿って便宜的に整理し(図表1)、抽出される因子は、後述する各エネルギーの因子分析結果に基づき決定した。そのうえで、各エネルギーに対する態度が明確になっているか(賛成または反対と回答)、あるいは判断を保留しているか(わからないと回答)という点に着目した分析として2値ロジスティック回帰分析を行った。抽出された因子を説明変数、受容態度(明確か保留か)を目的変数として推定し、どの因子が態度の明確化に効いているかを検証した9。
原子力に関しては、態度を明確にする要因は「ベネフィット認知」「リスク認知」そして「環境問題への関心」であるという示唆が得られた。
因子分析の結果、原子力の受容に関する設問は、「ベネフィット認知」「リスク認知」「政府への信頼」「環境問題への関心」「情報公開への期待」の5つの因子に整理された(図表2)10。

因子間の相関を見ると、因子4「環境問題への関心」は、因子2「リスク認知」と比較的強い正の関連を示しており、また一方で、因子1「ベネフィット認知」とも正の関連がみられる(図表3)。
また、ベネフィット認知は、因子5「情報公開への期待」と中程度の正の相関を示しており、さらに、因子3「エネルギー政策全般の透明性・対話・政府への信頼」も情報公開への期待と正の相関を示している。
以上のことから導き出されるのは、原子力に関する態度形成は複数の要因によって形成されることが示唆されるということである。特に、環境全般への関心の高さが、ベネフィット認知・リスク認知の両方に強く関連するという点は、政策コミュニケーションの打ち手を考えるうえで重要な示唆と言えよう11。

原子力について、態度が明確になることに有意に関係する因子は、「ベネフィット認知」「リスク認知」「環境問題への関心」の3つであった(図表4)。
一方で、「情報公開への期待」や「政府への信頼」は有意ではなく、これらの因子が受容態度の明確化そのものを左右する要因ではないことを示唆している。つまり、ベネフィットとリスクの双方が判断材料として揃ったときに、判断保留から脱しやすいということを示唆していると言える。
再生可能エネルギー(太陽光及び風力)に関しては、リスク認知が「一般」と「自然環境」に分離しており、態度を明確にする要因は「ベネフィット認知」と「環境問題への関心」と「リスク認知:自然環境」であるという示唆が得られた。
再生可能エネルギーの受容に関する設問は、「ベネフィット認知」「対話への期待」「情報公開への期待」「政府への信頼」「環境問題への関心」「リスク認知:一般」「リスク認知:自然環境」の7つの因子に整理された(図表5)。

因子間の相関を見ると、因子1「ベネフィット認知」は因子2「対話への期待」、因子3「情報公開への期待」及び因子5「環境問題への関心」と正の関連がみられる(図表6)。また、因子2「対話への期待」は因子3「情報公開への期待」や因子5「環境問題への関心」にも相関が見られる。
以上のことから導き出される示唆として、まず、再生可能エネルギーにベネフィットを見出す層ほど、環境への関心が高く、対話・情報公開を求める傾向が強いということが考えられる。一方、「電気代の上昇・騒音の影響等」といった実生活に対するリスクと、「生態系への影響・土砂災害等」といった自然環境へのリスクに分かれて捉えられている可能性も示唆された。これは、再生可能エネルギーの立地や開発形態によって地域と摩擦を起こし得るという点で、現に生じている課題とも整合的である。

再生可能エネルギーの態度が明確になる因子は、「ベネフィット認知」「環境問題への関心」「リスク認知:自然環境」の3つであった(図表7)。この結果から、土砂災害や生態系影響といった自然環境へのリスクが、判断保留ではなく賛否を表明する(態度を明確にする)傾向が観察されたことを示唆する。
一方で、電気代や騒音等の「リスク認知:一般」は5%水準で有意とならなかった。すなわち、これらのリスクがあっても態度を決定づけるほどの反対要因にはなりにくいことを示唆している。
水素に関しては、態度を明確にする要因は「ベネフィット認知」「環境問題への関心」「情報公開への期待」の3つであり、リスク認知は態度の明確化に影響しないという示唆が得られた。
因子分析の結果、水素の受容に関する設問は、「ベネフィット認知」「政府への信頼」「環境問題への関心」「情報公開への期待」「リスク認知」の5つの因子に整理された(図表8)。

因子間の相関を見ると、因子1「ベネフィット認知」は、因子3「環境問題への関心」や因子4「情報公開への期待」と比較的強い正の関連を示しているほか、リスク認知も、これら3つの因子と中程度の正の相関を示している(図表9)。
これらの結果から、環境問題への関心が高い人ほどベネフィットもリスクも認知しやすく、また、情報公開を求める人ほど、リスクも重視しやすい傾向が示唆される。一方、因子2「政府への信頼」は水素のベネフィット認知やリスク認知に相関は見られなかった。

水素の態度が明確になる因子は、「ベネフィット認知」「環境問題への関心」「情報公開への期待」の3つであった(図表10)。
一方で、「リスク認知」や「政府への信頼」は有意ではなく、これらの因子が受容態度の明確化そのものを左右する決定要因ではないことを示唆している。これは、リスクが存在しないという意味ではなく、そもそもリスク認知は水素に対する態度の明確化に影響しないことや、現時点では国民がリスクの具体像を十分に形成できておらず、賛否を決める(態度を明確にする)材料として機能しにくいという可能性が考えられる。この点において、水素は原子力や再生可能エネルギーとは異なるコミュニケーション設計を必要とすると言えよう。
本稿では、原子力・再生可能エネルギー・水素に対する国民の受け止めを「判断保留から態度明確へ移行する段階」に着目して整理した。分析の結果、3つのエネルギーに共通して「ベネフィット認知」及び「環境問題への関心」が、判断保留から態度明確への移行に関連することが示唆された。一方、各エネルギー個別の論点としては、原子力では「リスク認知」が、再生可能エネルギーでは「自然環境へのリスク認知」が、水素では「情報公開への期待」が態度の明確化と関連する可能性が示唆された(図表11)。
3エネルギー別の示唆は次の3点が挙げられる。第一に原子力は、態度明確化に「ベネフィット認知」と「リスク認知」がともに関連しており、ベネフィットの強調かリスクの説明かのどちらかではなく、両者を同一の枠組で示すことが重要であろう。第二に再生可能エネルギーは、判断保留層に伝えるべき情報は脱炭素への貢献だけでは不十分であり、地域の自然環境へのリスクも重要な論点として扱う必要がある。第三に水素は、リスク認知が態度の明確化に影響しない、あるいは判断材料として機能しにくい可能性が考えられることから、政府や事業者による具体的な活用事例の発信など、判断材料の提供が重要であると言える。
こうした分析結果から、判断保留層に対する情報発信・コミュニケーション活動は、「意思決定の準備」として位置づけることが適切であろう。「意思決定の準備」とは、賛否の方向へ誘導することではなく、論点や根拠の所在に到達できる状態を整えることである12。例えば、政策や科学的な判断における不確実性を隠さず、「分かっていること」と「分かっていないこと」を区別して提示することは、情報やその発信者の信頼性を損なわないという結果が報告されている13。
政策の是非をめぐる議論が先鋭化する局面ほど、判断材料が不足したままの層を置き去りにしては不信感の増大や分断が生じる恐れがある。そこで肝要なのは、論点の可視化など必要な情報に到達できる道筋を提示し、十分な情報に基づく判断を可能にする「意思決定の準備」を支援することであろう。そのうえで、原子力・再生可能エネルギー・水素で異なる態度明確化の要因に合わせ、国民が自らベネフィットとリスクを比較検討し、関連する不確実性を考慮しながら自分自身で判断を下せる環境を整えることが、情報発信や対話を組み合わせたコミュニケーション活動に求められるだろう。
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