クマ被害の増加を地域要因から読む
~地域共生型再エネと野生動物管理の接点を探る~
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1.はじめに
(1) 背景
近年、北海道や東北6県を中心として、クマ類(ヒグマ及びツキノワグマ)の市街地出没や人身被害が深刻化している。2025年度の出没件数は2026年1月までの速報値で49,916件、人身被害は2026年2月までの速報値で231件と、いずれも過去最多を記録した。環境省が2026年2月に公表した「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)令和7年度版(案)」では、クマ類の個体数の増加や分布域の拡大に伴う市街地等への出没・人身被害の増加が、新たな問題として整理されている。また、2026年3月27日開催の第三回クマ被害対策等に関する関係閣僚会議にて決定された「クマ被害対策ロードマップ」でも、出没時の緊急対応、人の生活圏への出没防止、個体数管理の強化、人材確保・育成、生息環境の保全・整備などが柱として示されており、クマ問題は人命と暮らし双方に関わる政策課題として位置づけられている。
この問題をめぐっては、ブナ科堅果類の凶作、人口減少といった里山利用の縮小、耕作放棄地の拡大等に加え、近年ではいわゆるメガソーラー1の立地がクマ被害増加の一因ではないかという言説もしばしばみられる。しかし、クマ類の出没や人身被害は、単一の要因だけで説明できるものではない。例えば近年の研究では、クマ類を含む大型陸生哺乳類が、農地放棄の増加や積雪減少を背景に、人間活動が優位な領域へ分布を広げてきたことが示されている2。また、太陽光発電設備についても、中規模以上(0.5MW以上)の設備が、二次林・人工林や農地で多く建設されてきたことが明らかになっており3、クマ被害を理解するには、こうした土地利用の変化と、ブナ科堅果類の豊凶や人口減少による影響を重ねて捉える視点が必要であると言える。
(2) 目的
以上を踏まえ、本稿ではクマの出没要因を、①ブナ等の結実状況に代表される「食物資源要因」、②人口減少や人間活動の縮小に関わる「社会構造要因」、③耕作放棄地の増加や森林・農地等の改変による「空間・土地利用要因」に整理して捉える。太陽光発電設備の導入とクマ被害増加との影響を調べるには、これらの要因を比較したうえで慎重に検証していく必要があるだろう。
例えば、ツキノワグマの出没件数・人身被害件数の変化について、都道府県別に人口密度の変化との関係を見ると(図表1、図表2)、強い相関を示すものではないものの、特に東北6県は宮城県をやや例外としつつも、人口密度の低下がより進んでいる地域において、出没件数や人身被害件数がより増加している傾向が観測される。
そこで本稿では、東北6県を対象に都道府県×年のパネルデータを作成し、ブナの豊凶指数(食物資源要因)、人口密度(社会構造要因)、森林に立地する太陽光発電設備の導入状況(空間・土地利用要因)といった複数の要因と、ツキノワグマの年間出没件数との関連を負の二項回帰モデルにより分析する。これにより、クマ被害を3つの要因による複合的な問題として捉え直し、再生可能エネルギーの導入拡大と生物多様性・野生動物管理の両立に向けた示唆を得ることを目的とする。
2.分析の方法
(1) 分析対象と仮説の枠組
先行研究において、ブナ科堅果の豊凶がクマ類出没の主要要因であること4、および人口減少・農地放棄が大型哺乳類の人間活動が優位な領域への進出を後押しすること2が示されていることなどを踏まえ、本稿では、食物資源要因はブナ豊凶指数、社会構造要因は人口密度、空間・土地利用要因は森林立地の太陽光発電設備容量によって捉える。これらを説明変数として、年間出没件数との関係を検証する。
本稿における仮説の枠組は、まずブナ豊凶指数・人口密度が出没件数にどのような関連を示すかを確認し、そのうえで、空間・土地利用要因としての太陽光発電設備の導入状況が、追加的な関連を示すかを検討するというものである。よって、本稿は太陽光発電設備のみの影響を単独で取り上げるのではなく、クマ被害を複数要因の重なりとして捉えることを基本的な立場とする。
(2) データ整備と変数の定義
本稿では、2009年度~2025年度の都道府県×年パネルデータを構築した。目的変数をツキノワグマの年間出没件数とし5、説明変数としては、食物資源要因を表す変数としてブナ豊凶指数、社会構造要因を表す変数として人口密度、空間・土地利用要因を表す変数として太陽光発電設備容量を用いた。
太陽光発電設備については、再生可能エネルギー電子申請サイトに掲載されている各太陽光発電設備の所在地情報6を整えたうえで、国土数値情報ダウンロードサイトから取得した位置参照情報7を用いて各設備に代表点の座標を付与した。さらに、その座標を国土数値情報の土地利用細分メッシュ8に割り付けることで、設備ごとに土地利用区分9を付与した。そのうえで、田、その他農用地、森林の各区分別に、単年度の増分を示すフロー変数と、累積導入量を示すストック変数を作成した。
(3) 分析対象データの概観
分析結果に先立ち、分析対象として整形した太陽光発電設備データの概観を確認する。 図表3は、東北6県における太陽光発電設備容量の推移を土地利用区分別に整理したものである。東北6県では、太陽光発電設備の導入は田、その他農用地、森林を中心に進んでおり、とくに森林では1MW以上の設備が一定の比重を占めている。
このように、本稿で対象とする森林立地太陽光発電設備は、東北6県における太陽光発電設備容量の一部を構成している。以下では、森林立地かつ1MW以上である設備に着目し、まずブナ豊凶指数と人口密度の関連を確認したうえで、太陽光発電設備を加えたモデルを検討する。
(4) 分析の方法と解釈上の留意点
目的変数である年間出没件数はカウントデータであるため、予備的にポアソン回帰を検討し、過分散を考慮して最終的には負の二項回帰を採用した。また、県ごとに異なる地形や森林条件、通報行動の地域差などの影響をできるだけ取り除くため、県別の差を調整し(県固定効果)、あわせて人口規模の違いを補正するために人口の対数をオフセット項として投入した。さらに、太陽光発電設備の造成・開発から運転開始までに一定の時間差が生じうることを踏まえ、ラグなしに加え、1年ラグおよび2年ラグのモデルも設定した10。
なお、本研究の分析単位は都道府県であり、対象県数は6県に限られているため、通常の負の二項回帰に基づくp値は少数クラスターの影響を十分に反映できていない可能性がある。そのため、本稿では統計的な有意性を強調するのではなく、係数の符号(正負の影響)、効果量の大きさ等を重視して、探索的に結果を解釈するものとする。
3.分析結果
(1) ブナ豊凶指数・人口密度と年間出没件数の関係
まず、ツキノワグマの年間出没件数を目的変数とし、ブナ豊凶指数と人口密度を説明変数、人口の対数をオフセット項、および県固定効果を投入した負の二項回帰モデルによる分析を行った。
図表4が示すように、ブナ豊凶指数および人口密度はいずれも年間出没件数と負の関連を示した11。例えばブナ豊凶指数の発生率比(incidence rate ratio:IRR)に着目すると、これはブナの豊凶指数が1ポイント上昇したとき、都道府県差や人口規模の条件を一定とすると、ツキノワグマ出没率が0.7998倍、すなわち約20.0%低いことを意味する。
このように、少なくとも本分析で対象としたパネルデータの範囲では、食物資源要因と社会構造要因に関わるこれら二つの変数は、年間出没件数と比較的安定した負の関連を示したと整理できる。以下ではこれらを調整変数として組み込んだうえで、森林立地太陽光発電設備と年間出没件数の関係を検討する。
(2) 森林立地太陽光発電設備と年間出没件数の関係
次に、ツキノワグマの年間出没件数を目的変数とし、森林立地の太陽光発電設備容量を説明変数として負の二項回帰モデルによる分析を行った。ブナの豊凶指数および人口密度は調整変数とし、人口の対数をオフセット項、および県固定効果を投入した。なお、森林立地太陽光発電設備については、単年度の増分を示すフロー、累積導入量を示すストックに分けたうえで、太陽光発電設備の造成・開発から運転開始までの時間差を考慮した1年ラグおよび2年ラグのモデルについても分析した12。
図表5が示すように、森林立地太陽光発電設備が年間出没件数を増加させる明確な結果は確認されなかった。一方、森林に設置された太陽光発電設備の累積量(森林ストック・ラグなし)の IRR は 0.9993となり年間出没件数とごく小さい負の関連が観察された。これは、森林立地の太陽光設備容量が1MW増加したとき、人口規模等を調整したツキノワグマ出没の発生率が約0.07%低いことを示しており、例えば100MW増加では、約7%の低下に相当する。
ただし、この結果はラグの設定によって必ずしも一貫しておらず、また影響も小さいことから、本結果は、森林立地太陽光発電設備と年間出没件数の間に明確な正の関連は確認されなかった一方で、負の関連を示唆する探索的所見が一部でみられた、と整理するのが適切である。
以上の結果から、本分析の範囲では、ブナ豊凶指数と人口密度は比較的安定した負の関連を示した一方、森林立地太陽光発電設備については正の関連は確認されず、むしろごくわずかな負の関連が示唆され、少なくともツキノワグマの出没件数を増加させる証拠は確認されなかった。
(3) 森林等立地を説明変数とした補足分析
これまでの二つの分析を補うための分析として、1MW以上の田・その他農用地・森林の立地を合算した「森林等立地」の太陽光発電設備を説明変数とするモデルを分析した。ブナ豊凶指数、人口密度、県固定効果、人口対数のオフセット項を投入し、ラグなし、1年ラグ、2年ラグを検討した。
その結果、森林等立地を説明変数とした場合でも、年間出没件数を増加させる明確な結果は確認されなかった。 一部のストック変数では負の関連を示す仕様がみられたものの、ラグ設定による一貫性は限定的であり、森林立地の分析結果と同様、探索的な所見として位置づけるのが適切であると言える13。
4.まとめ
(1) 考察
本研究は、ツキノワグマの出没について、単一の要因ではなく、「①食物資源要因」「②社会構造要因」「③空間・土地利用要因」の重なりとして捉える必要があることを示している。とくに、ブナ豊凶指数と人口密度は、年間出没件数との間で比較的安定した負の関連を示しており、先行研究が指摘してきた食物資源の変動と人口減少等を背景とした人間活動の縮小という二つの視点が、東北6県のパネルデータでも整合的であることが示唆された。
一方で、森林立地太陽光発電設備については、少なくとも本稿の分析範囲では、ツキノワグマの年間出没件数を増加させる明確な証拠は確認されなかった。出没件数のモデルのうち、森林ストック・ラグなしではごく小さい負の関連が示唆されたものの、ラグの設定によって結果は一貫せず、影響も限定的であった。したがって、本稿の結果は、太陽光発電設備がクマ被害増加の単独の主因であることを支持するものではなく、土地利用変化を含む地域要因の一つとして、探索的に検討すべき対象であることを示したものと位置づけるのが適切である。
足元の政策動向を見ると、こうした地上設置型の太陽光発電の導入については規制強化の動きがある。経済産業省は2026年3月19日に、2027年度以降は事業用太陽光発電のうち10kW以上の地上設置型をFIT/FIP制度の支援対象外としつつ、屋根設置型については支援を継続する方針を示した14。また、これに先立って1月に公表された調達価格等算定委員会資料15においても、地上設置型では自然環境や景観の保護といった「地域共生上の課題」が顕在化していることが明示されている。
今回の結果から、太陽光発電設備がツキノワグマとの軋轢増加の主因と断定できないものの、これまで太陽光発電設備の設置によって失われた生態系面積が、二次林・人工林、畑や水田といった環境で多い傾向であることを踏まえると3、森林伐開を伴う乱開発的な地上設置型には慎重であるべきであろう。その点において、屋根設置や営農型のような地域共生型の導入を優先的に検討するという方向性は妥当であると言える。
(2) 課題
もっとも、本研究にはいくつかの課題がある。第一に、対象は東北6県の都道府県×年のパネルデータに限られており、市町村単位のより細かな空間の差異は捉えられていない。第二に、出没件数は都道府県ごとに集計方法や把握体制が異なりうるため、横断的な比較には一定の制約がある。第三に、県数が6県と少ないため、通常の負の二項回帰に基づく p 値は少数クラスターの影響を十分に反映していない可能性がある。第四に、本研究は観察データに基づく分析であり、太陽光発電設備の導入が、出没件数を因果的に増減させたことを直接示すものではない。とくに太陽光発電設備の立地は、地形条件や送電網への接続可能性などの影響を受けている可能性があるため、本稿の推論は慎重に解釈する必要がある。第五に、太陽光発電設備の造成開始時点や造成工期を直接把握・反映しているわけではないため、ラグの設定はあくまで近似的な分析にとどまっている。
このため、今後は、市町村単位での分析や、造成過程や施工時期などを含む地域管理要因を組み込んだ検証が求められる。クマ被害対策ロードマップが示すように、今後の政策課題は、緊急対応だけでなく、生息環境の保全・整備や生活圏への出没防止を含む多面的な対応である。本稿の分析は、その入り口となる探索的知見として位置づけられるだろう。
クマ被害をめぐる議論は、単なる被害防止の問題にとどまらず、人口減少時代において、人と自然、土地利用、エネルギー政策の関係をどのように再設計するかという、より大きな問いへとつながっている。
今後は、地域共生型の再生可能エネルギー導入を進めつつ、野生動物の出没状況や周辺環境の変化を継続的に検証することで、人の安全と脱炭素、生物多様性の保全を両立させる政策設計を具体化していくことが求められるだろう。
- 出力1MW(1,000kW)以上の太陽光発電設備のこと。
- Baek, S. Y., Amano, T., Akasaka, M., & Koike, S. (2025). The range of large terrestrial mammals has expanded into human-dominated landscapes in Japan. Communications Earth & Environment, 6(1), 292.
- 国立研究開発法人国立環境研究所「太陽光発電施設による土地改変 -8,725施設の範囲を地図化、設置場所の特徴を明らかに-」(2021年3月29日)
- 藤木大介. (2022). 兵庫県におけるブナ科堅果の豊凶観測に基づいたツキノワグマの出没予測. 兵庫ワイルドライフモノグラフ, 14, 79-93.
- 人身被害件数については、発生件数自体が少なく、出没件数よりも偶然による変動や個別事象の影響を受けやすいと考えられるため、人身被害件数は補完的に分析しつつ、本稿では出没件数を中心に結果を示した。
- FIT認定を受けている、またFIP新制度への移行手続が完了した再生可能エネルギー発電設備に係る情報が掲載されており、このうち「発電設備の所在地」「太陽電池の合計出力(kW)」「運転開始報告年月」を用いた。
- 住所と緯度経度の対応テーブルであり、全国を対象とした大字・町丁目レベル(○○町△丁目の代表点)の緯度経度情報を整備したデータのこと。
- FIT制度が導入される前の時点で森林であった場所の土地改変を対象とするため、FIT制度導入前の最新情報である2009年時点での「国土数値情報 土地利用100m細分メッシュデータ」を用いた。
- 「田」「その他の農用地」「森林」「荒地」「建物用地」「道路」「鉄道」「その他の用地」「河川地及び湖沼」「海浜」「海水域」「ゴルフ場」「解析範囲外」に区分される。
- 2019年6月10日に開催された再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の資料によれば、「出力500kW以上の運転開始済み太陽光発電事業のうち、70%超が認定から2年以内に運転を開始している」とあるため、ここでは運転開始前の1年前(1年ラグ)または2年前(2年ラグ)から造成が開始された(設備が導入された)とみなしている。
- 補完的に実施した、人身被害件数を目的変数とした分析においても、ブナ豊凶指数と人口密度は負の関連を示した。
- 例えば2020年度に1MWの太陽光発電設備が運転を開始した場合、2020年度に1MW分が増加したと見なすモデルを「ラグなし」、2019年度に増加したと見なすモデルを「1年ラグ」、2018年度に増加したと見なすモデルを「2年ラグ」としている。
- 補完的に実施した、人身被害件数を目的変数とした分析においても、森林立地・森林等立地のいずれの場合でも、太陽光発電設備が人身被害を増加させる明確な結果は確認されなかった。
- 経済産業省「再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します」(2026年3月19日)
- 資源エネルギー庁 第110回 調達価格等算定委員会「資料1 太陽光発電について」(2026年1月)
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