マクロ経済・公共政策

授業料無償化の影に隠れる塾格差
~高所得世帯のみ増加する塾への支出~

上級研究員 小池 理人

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 ニュースや新聞などを読んでいると、中学受験をはじめとした教育熱の高まりを目にする機会が増え、学習塾が盛り上がっている印象を受ける。しかし、公的統計を見る限り、学習塾が活況を呈しているような姿は無い。サービス業の生産活動を示す第3次産業活動指数によると、学習塾の活動指数は低下傾向での推移が続いている(図表1)。
 一方で、家計調査で所得別に補習教育(≒塾代)1への支出額の変化2をみると、異なる様相が浮かび上がる。収入の低い世帯から高い世帯へとそれぞれ20%ずつグルーピングした五分位階級で補習教育への支出金額を確認すると、最も収入の高い第5五分位階級で支出金額が大きく増加する一方で、第1~第4分位階級までは支出金額が減少しており、収入の少ない階級ほど減少幅が大きくなっている(図表2)。家計が厳しさを増す中で、多くの世帯において塾代が削減される一方で、高所得世帯においては逆に塾代を増やす動きがみられている。高所得世帯における塾代の増加は、昨今のインフレによる名目値の増加のみが理由ではなく、高所得者世帯の支出総額に占める割合もはっきりとした上昇傾向にあり(図表3)、高所得世帯が積極的に塾代を増やしている様子がうかがえる。なお、高所得世帯とそれ以外の世帯での塾代の変化は、小学生向け・中学生向け・高校生向けのいずれにおいてもほぼ同様の動きとなっている(図表4)。
 教育無償化の流れが進む中で、教育機会の格差はかつてよりも縮小しているが、その裏で塾での教育格差は大きく拡大している。学校で学ぶ機会はもちろん重要である。教育格差の是正が所得格差の是正に繋がることも期待される。しかし、もしも所得格差が単なる学位の有無ではなく、受験をはじめとした選抜機能によって生じているのであるとすれば、塾代の格差が所得格差を固定化する可能性もある。筆者には、高所得世帯はそのような考えから塾代への支出を増加させているようにも見える。教育格差を是正するためには、学校教育における質の向上を通して、塾に通えない子供の学力向上を十分にサポートする体制の整備が必要になるだろう。

  • 本稿では家計調査における「補習教育」を「塾代」と表現する。
  • ここでは統計で遡ることが可能な2000年と比較する。

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