【Vol.86】セーフティネットに係る2つの法改正と居住支援の課題 ~本格的な家賃補助の検討を~

上席研究員 野田 彰彦

Ⅰ.はじめに

今般、経済的に苦しい人などを支援する社会的セーフティネットに係る法律(生活困窮者自立支援法等、住宅セーフティネット法)が改正された。法案の国会審議においては、与野党議員や有識者などから、家賃補助のさらなる拡充を求める意見も示されたが、政府は慎重な姿勢を崩さず議論は深まらなかった。家計に対する金銭支援策としては、コロナ禍で低所得者などに支給された使途を問わない給付金が代表的だが、家賃への充当を前提とした補助も一つの選択肢である。本稿では、上記2つの法改正について概説したうえで、本格的な家賃補助の可能性について考察する。

Ⅱ.生活困窮者自立支援法等の改正

生活保護に至る前段階で生活困窮者に相談支援などを行う生活困窮者自立支援法等が改正され、 2025年4月に施行される。居住支援の強化に力点が置かれ、住まいの相談に対応するための体制整備が図られる。また、求職活動を行う離職者に家賃を一定期間支給する住居確保給付金が拡充され、職に就かない困窮者に対して低家賃住宅への引越費用等が支給されるようになる。

Ⅲ.住宅セーフティネット法の改正

住宅確保要配慮者(低所得者や高齢者など住まいの確保にとくに配慮を要する人)が円滑に入居できるための仕組みについて定めた住宅セーフティネット法も、2025年10月に施行される予定だ。賃貸住宅の大家が抱く高齢者の孤独死等に対する不安を軽減するために、残置物処理や家賃滞納に困らない仕組みが講じられる。また、入居支援のみならず、高齢者の安否確認や見守りといった支援サービスを提供する居住サポート住宅も創設される。さらに、住まい政策は福祉施策と住宅政策が両輪となって有機的に機能することが極めて重要であるため、国土交通省と厚生労働省の連携強化も図られる。

Ⅳ.公的な家賃補助に関する考察

わが国の公的な家賃補助は、欧米主要国に比べ貧弱である。本格的な家賃補助を検討する場合、いくつかの選択肢がありうるが、既存の仕組みである住居確保給付金の大幅拡充が有力と考えられる。もっとも、兆円単位での財源が必要となる可能性もあるため、国民的な議論が必要となろう。

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