ワーク・エコノミックグロース

職場の「礼節さ」、新体制でも意識していますか?
~【続編】米国で注目されるCivility Indexとは~

主任研究員 久井 環

2025年1月にCivility Indexを取り上げたレポート→こちらをクリック
【内容に関するご照会先:ページ下部の「お問い合わせ」までご連絡ください。】

米国では、「礼節さ」、「丁寧さ」、「敬意」などを意味するCivility(対義語は、Incivility)の度合いを示すCivility Indexに対する関心が高まっている。大統領選挙を控えた2024年、米国では政治思想の対立などを背景に、社会の分断が鮮明になり、職場においても分断が生じつつあることが懸念された。

現在、米国の従業員の4人に1人が、離職に繋がる要因に「職場における尊敬、共感、多様な意見を受け入れる姿勢の欠如」を挙げている1ことから、世界最大規模の人材マネジメント協会Society for Human Resource Management(SHRM、米国人材マネジメント協会)は、社会の分断が職場に影響し得ることに強い危機感を抱いている。

離職予防や安定的な組織運営の観点から、職場におけるCivilityへの配慮が重要であるとし、SHRMは、2024年3月、社会と職場それぞれにおけるCivility Indexについて調査を開始した2。2024年3月の調査開始以降、3か月に一度、約1,600名の従業員を対象に、Webアンケートが実施されている。2025年3月に公表された5回目の調査結果は、以下のとおりである≪図表1≫3

グラフの中のパーセンテージは、「Incivility(礼節さの欠如)」の度合いを表す。度合いが70%超を「ZONE 5: Code Red(危険)」、10%未満を「ZONE 1:State of Civility(礼節さが保たれている状態)」として、社会と職場、それぞれにおいてどの程度礼節さが重視されているかを示している。5回の調査を通じて、「社会と職場それぞれにおいて、自分自身が、また周りの人が、無視、拒絶、敬意をもって応対されていない場面に遭遇もしくは目撃したか」と答えた人の割合の推移がわかる。

4回目(2024 Q4)の調査結果が公表された2024年12月、SHRMは、「選挙が終わった2025年も、Incivilityの悪化は続く」と予測していた4。しかし、5回目(2025 Q1)の調査結果では、社会と職場それぞれのCivility Indexに改善が見られた。SHRMは結果を楽観視せず、引き続き現状が「ZONE 3:Take Action(対策が必要)」にあることに警鐘を鳴らしている。

SHRMは、Manager or Supervisor(職場の上司や監督者。以下、上司ら)の職場におけるIncivilityとの向き合い方について、示唆を与える調査結果も公表している≪図表2≫。

従業員に対する以下5つの設問から、職場におけるIncivilityな言動を目撃した際、自分たちの上司らはどのような行動をとったか、が明らかになった。5回目(2025 Q1)の調査に対する回答者の71%が「Incivilityを回避する努力を怠った」と答え、70%が「従業員がどう扱われているかよりも、仕事の成果を重視している」と答えている。そして、65%が「Incivilityを無視、放任した」と答えており、前回の調査結果62%から悪化している。従業員から見た上司らの行動から、上司のIncivilityに対する意識が低いという結果が浮き彫りとなった。

Incivilityが引き起こす経済的影響も指摘されている。SHRMは、職場でIncivilityな対応を受けることで、従業員の生産性の低下やアブセンティーズム(心身の不調を原因とした欠勤や休職状態)に繋がり、これによる米国内の経済的損失が1日当たり21億ドルにのぼると試算する5。また、80年以上にわたり組織運営の改善に向けた提言を行う意識調査会社Gallupは、離職に伴う従業員の補充には大きなコストがかかると指摘する。管理職の補完にはその年収の2倍、技術職は0.8倍、一般職員は0.4倍、それぞれ採用コストがかかると試算されている6。職場にとっても、本人にとっても望まないIncivilityを理由とした離職は避けられるべきだ。

高いIncivilityに至る要因やこれに伴う経済的損失は、米国企業に限らず、日本企業も例外ではない。政治的要因に限らず、Incivilityが高まる事情はもっと身近なことでも考えられる。日本では4月に新年度を迎え、多くの新入社員や転職者、また人事異動による転入者を組織に迎え入れる。新しい考えや異なる視点を持った彼らに対し、「今まではこうだった」という固定観念で拒絶することなく、傾聴や共感といったCivilityを意識した姿勢が求められる。今一度、一人ひとりが襟を正し、相手へ敬意ある対応、すなわちTake Actionができているか顧みることが重要だ。

  • SHRM “Civility Index Q4 2024 Results”, Dec. 2024
  • SHRM “Civility Index Q1 2025 Results”, Mar. 2025
  • 前掲注2
  • 前掲注1
  • 前掲注2
    社会の分断の原因の一つとされた大統領選挙の期間であった前期(2024Q4)調査からCivility Indexが改善したことで、今期(2025Q1)試算された1日当たりの経済損失は、前期27億ドルから6億ドル縮小している。
  • Gallup, “The Human-Centered Workplace: Building Organizational Cultures That Thrive”, Sep. 21, 2024

この記事に関するお問い合わせ

お問い合わせ
TOPへ戻る