マクロ経済・公共政策

物価高でも好調な娯楽業

上級研究員 小池 理人

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 物価高で家計の厳しい状況が続く中においても、娯楽業の動きは堅調だ。経済産業省が公表する第3次産業活動指数によると、娯楽業の活動指数は大きく上昇しており、コロナ前を上回る水準で推移している(図表1)。
ただし、内訳をみると、娯楽業の中でもカテゴリーによって動きは異なっている。劇場・興行団や音楽・芸術等興行、プロスポーツ興行において急速な伸びがみられる一方で、映画館やパチンコホールについてはコロナ前を下回る水準での推移が続いている(図表2)。単価の高い娯楽の活動指数が好調な中で、単価の低い娯楽の活動指数が低下している傾向にある1。全般的には堅調な動きが示されているものの、所得格差がカテゴリー別の動向に影響を与えている可能性がある。
 また、インバウンドの増加による娯楽業への押し上げ効果も注目される。訪日外国人旅行消費額はコロナ禍で急減した後、回復を続け、2024年はコロナ前の2019年比+68.8%と大きく増加している(図表3)。娯楽等サービス費に関して言えば同+100.1%と倍以上にまで増加しており、インバウンド消費の拡大が娯楽需要を支えている様子が示されている。
 好調に推移する娯楽業であるが、人材確保と消費者マインドという懸念点も存在している。人手不足を背景に賃上げの動きが強まる中で、娯楽業の募集賃金2については全産業と比較して伸びが劣後している(図表4)。足もとで好調に推移する娯楽業であるが、人手不足は深刻化しており、賃上げをはじめとした人材獲得競争において遅れを取れば、供給制約から業績の伸びが抑制されることになるだろう。そして、トランプ政権による相互関税の発表を受けて、消費者マインドが急速に悪化している(図表5)。消費者マインドの悪化によって家計の節約志向が高まれば、娯楽への支出カットが想定される。節約志向の高まりは、好調に推移する高単価のカテゴリーで生じやすくなることが考えられ、足もとの好調な動きに冷や水が浴びせられる展開に繋がる可能性がある点には留意する必要がある。

  • 総務省「小売物価統計調査」によると、演劇観覧料は11,179円、サッカー観覧料は5,300円、プロ野球観覧料は6,002円、映画観覧料は1,933円(いずれも2024年平均)。
  • 募集賃金については、HRog賃金Nowにおける分類であるアミューズメントを利用しており、第3次産業活動指数における分類である娯楽業と一致するものではないことに留意する必要がある。

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