あなたの職場、従業員の「幸福度や満足度」と向き合っていますか?
~働くうえで米国従業員が最も重視するウェルビーイング~
現在、米国従業員の2人に1人が転職を希望しており、2014年以降で最も多い水準だ1。このことから、従業員が仕事に求める理想と現実とのギャップなど、米国企業が大きな課題を抱えていることが示唆された。
組織運営に関するコンサルティングを得意とするGallupは、企業が抱える課題と向き合うため、さまざまな調査を実施している。そのひとつとして、米国で働く人を対象に「仕事を選ぶ際、最も重視する要素」について、毎年調査を行っている。これにより、Gallupが予め用意した14要素それぞれに対し、「Very important(とても重要)」と答えた人の割合が分かる。本調査を通じて、米国従業員の仕事に求める「理想」が浮き彫りにされている。2025年2月24日、直近の調査結果が以下のとおり公表された≪図表1≫2。

赤枠で囲まれた4要素は、過去4年間においても、全14要素の中で常に上位にランクインしている3。特に、今回トップの「ワークライフバランスとより高い個人の幸福度や満足度(Wellbeing、ウェルビーイング)」と、それに次ぐ「収入と福利厚生の充実さ」は、コロナ禍以降、より重視される傾向にある4。よって、これら2要素が、今日の米国従業員が認識する「better job(良い仕事)」の条件、とGallupは指摘する5。
日本WHO(世界保健機構)協会が訳したWHO憲章によると、ウェルビーイングは、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」である6。これは、社会的や経済的など、置かれている環境によって大きく影響されるものとされる7。また、日々の生活を支える重要な要素(生活資源)のひとつと指摘されている8。企業が従業員に対し、報酬や福利厚生、そして雇用保障(雇用の安定)を約束することは、当然の前提として重要なことだ。しかし、それ以上に、個人のウェルビーイングと向き合う企業を望む従業員の傾向が見て取れる。
Gallupは、米国の従業員を対象に、どの程度職場が従業員個人のウェルビーイングに配慮しているか、という「現実」についても毎年数回調査している。直近(2024年8月)では、「私の職場は、仕事とプライベートを含めた私自身の幸福度や満足度を気に掛けている」という設問に対し、「強く同意する」と答えたのは2割程度と低迷している≪図表2≫9。

米国で働く人が仕事を選ぶ際、個人のウェルビーイングを最も重視する一方で、個人のウェルビーイングが職場によって軽視されている実情が浮き彫りになった。これにより、仕事に求める「理想」と「現実」との間に、大きなギャップがあることが分かる。このギャップが、現在、働く人の半数が転職を望む要因になっていると言える。
従業員がウェルビーイングを感じないと、個人や職場にどのような影響があるのだろうか。そのひとつに「Burnout(燃え尽き症候群、バーンアウト)」が指摘されている10。
Gallupは、バーンアウトとは、心身の疲れによる仕事に対する集中力や意欲の低下、ミスが誘発されるなど生産効率の低下、さらには仕事との心理的距離を広げることに繋がるとしている11。また、バーンアウトを理由とした離職に伴う平均採用コストは、年間の人件費の15~20%と試算されている12。従業員にとっても、企業にとっても、望まない離職はもちろん、その誘因となるバーンアウトは回避されるべきだ。
Gallupは、従業員のバーンアウトを回避するひとつの手段として、企業が従業員体験価値(Employee Experience, EX)の向上に努めることが有効と示唆する13。別稿「働きがいのある持続可能な組織づくりとは~「We Build People(人をつくる)」に学ぶ~」のとおり、EXとは、採用、教育・支援、成長、離職などを含めた「一連の従業員体験」を通じて従業員一人ひとりが得られる価値を意味する。企業がEX向上に取組むことで、従業員が自分に与えられた役割を明確に認識することができ、職場に居場所を感じることできる。また、従業員の強みの発揮や成長が実感できる職場づくりが実現する。EX向上を企業として継続的に取組むことが、従業員のバーンアウトを軽減または回避させ、持続可能な組織運営に寄与すると期待されている。
安定的な職場運営には、人の定着は欠かせない。ひとつの有効な離職予防策として、従業員のバーンアウトを回避させ、ウェルビーイングを意識した企業のEX向上が求められる。
- Gallupサイト <https://www.gallup.com/467702/indicator-employee-retention-attraction.aspx>
Gallupは米国に本部を置き、世界160か国、約3,500万人の従業員エンゲージメントデータを収集する調査会社。蓄積したデータに基づき、80年以上にわたり、職場改善に向けた提言を行っている。 - Gallupサイト <https://www.gallup.com/workplace/656906/top-four-reasons-taking-new-job.aspx>
毎年米国従業員1万人以上を対象に、仕事選びで重視する要素についてWebアンケートが行われている。 - 前掲注2
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- 日本WHO協会サイト <https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/>
- WHOサイト <https://www.who.int/activities/promoting-well-being>
- 前掲注7
原文では、Wellbeing は ”a resource for daily life(生活資源)“と表現されている。 - Gallupサイト <https://www.gallup.com/workplace/652769/despite-employer-prioritization-employee-wellbeing-falters.aspx>
- Gallupサイト <https://www.gallup.com/workplace/313160/preventing-and-dealing-with-employee-burnout.aspx>
- 前掲注10
Gallupは当該サイトにて、WHOの提言を引用しつつ、バーンアウトを解説している。 - 前掲注10
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