JR東日本の値上げについて考える
~観光消費に悪影響が及ぶ可能性も~
JR東日本が来年3月から運賃の値上げを実施することを発表した。エリア全体での運賃の値上げは消費税の導入・引上げを除いては1987年の会社発足以来初めてとなる。JRの鉄道運賃は、JR以外の鉄道運賃やバスなどと比較しても値上げが遅れており(図表1)、昨今の物価や人件費の高騰を考慮しても、供給側の目線としては必然的な値上げであると言える。
一方で、需要側である個人消費への影響について考えてみる。家計調査によると、消費支出全体に占める鉄道運賃の割合は0.7%と小さい。今回の値上げによる消費全体への影響は極めて軽微なものに止まるだろう。
ただ、気がかりなのは、観光消費への影響だ。外国人観光客の受入れ再開以降、宿泊旅行単価の上昇を背景に、日本人旅行者数はコロナ前の2019年対比でマイナス推移が続いてきたが、足もとでようやくプラス圏内での推移が定着してきた(図表2)。安価な移動手段である鉄道運賃が値上げされることで、回復傾向にある宿泊旅行消費の向かい風となる可能性がある。
もちろん、先述のように鉄道運賃自体の金額は小さい。しかし、家計調査で年収階級別に宿泊消費の動きをみると、高所得世帯が宿泊消費を伸ばす一方で、それ以外の世帯が大きく宿泊消費を抑制している様子が浮かび上がる。とりわけ、最も所得の低い世帯区分においては、2019年対比で10%以上の減少となっており、物価上昇による消費への悪影響が示唆される(図表3)。こうした環境下での鉄道運賃の値上げによって、価格変化に敏感な低所得世帯を中心に観光消費が減少する可能性がある点には、注意を払う必要があるだろう。

