マクロ経済・公共政策

アーバンベア対応の新たな転換点
~ガバメントハンターは「銀の弾丸」か~

主任研究員 尾形 和哉

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1.はじめに

市街地へのクマ出没が深刻化している。環境省の発表では、全国のクマ類(ツキノワグマ及びヒグマ)による人身被害者数は2025年9月末時点で108件にのぼり、10月30日時点における死亡事故は12件と過去最多となっている(図表1)。特に深刻なのは住宅地や商業施設周辺への出没、いわゆる「アーバンベア問題」だ。

背景には、人の日常生活圏と野生動物の境界が曖昧になった事が挙げられる。林業従事者や狩猟従事者、里山利用などの人間活動が減少したことでクマ類による人への警戒心が薄れ、人里近くまで行動圏が広がっている。こうした人の日常生活圏へのクマの出没は、これまでの山林中心の対策を超えた対応を迫っている。

2.緊急銃猟の課題

緊急銃猟は、人の日常生活圏に侵入したクマ類やイノシシを、市町村の判断でハンター等への銃猟を委託できる制度である。当該制度は2023年度のクマ類による人身被害が過去最多に達したことを受け、鳥獣保護管理法の成立によって創設されたもので、本年9月から実施が可能となっている。10月30日現在における緊急銃猟の実施件数は、8道県8市1村で計9件となっている(図表2)。

この緊急銃猟の実施に当たっては専門人材の確保が課題だ。北海道新聞が道内全179市町村を対象に行ったアンケート1によると、緊急銃猟が可能な状況で実施を「検討する」と答えた市町村は約4割にとどまり、9割以上が緊急銃猟の実施に「不安がある」と回答している。その理由として、発砲時のリスク回避や専門知識を持つ職員の確保などが挙げられている。

加えて、本来緊急銃猟は公的な存在により対応されるべき性質を有するにもかかわらず、実態として民間団体である猟友会に依存していることも課題であると言える。環境省が2025年7月に策定した緊急銃猟ガイドラインでは、「人の日常生活圏に出没したクマ等の対応は人の生命・身体に関わる公共の安全に必要な行為であり、本来ならば公的な存在により対応されるような性質を有する」とされており、その点で、公的な担い手の確保を早急に図っていく必要があるだろう。

実際、同ガイドラインでは「現に実力を有するというのみで私人に依頼せざるを得ない状況は、本来是正するべきもの」とされている。なぜなら、緊急銃猟は人の日常生活圏において猟銃を使用するため、山野における狩猟や、農林業被害対策等としての許可捕獲とは異なる技術が求められるからだ。山野とは危険の程度が異なる市街地での銃猟を私人に委ね続けることは、持続可能性に欠けると言わざるを得ない。

このように、専門人材を確保・育成する観点からも、また私人への依存を是正する観点からも、市町村単位での公的専門人材の配置が急務であろう。そこで現在注目されているのが「ガバメントハンター」の導入である。

3.ガバメントハンターへの期待

ガバメントハンターとは、狩猟免許を保有する公務員で、鳥獣対策を専門に行う人材を指す。全国に先駆けて長野県小諸市では、2011年度から鳥獣専門員(ガバメントハンター)を嘱託職員として採用し、2013年4月からは公務員として正式雇用している。

クマ類は他の鳥獣と比較し捕獲の際に危険が伴う。生態や習性についての正しい知識と高い技術が求められるため、市町村として野生動物管理の専門性を蓄積していくことは重要だ。また、猟友会と連携することで、地域に即した知識と技術を継承していくことにも繋がることが期待される。

このガバメントハンター設置に向けては追い風が吹いていると言える。2026年度予算の概算要求で、環境省はガバメントハンター採用に向けて交付金措置を検討している。次年度に向けた新規要素としては、「都道府県での専門人材雇用」「緊急銃猟実施対応実務者の育成(市町村職員や銃猟実施者への研修会等)」「緊急銃猟実施対応実務者の配置(市町村での専門人材雇用)」の3事業が挙げられている。

また、2025年10月30日に開催された「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」では、当面の対応として、補正予算を活用した自治体への支援強化の中で「捕獲者(ガバメントハンター)の確保・育成の強化」が挙げられている。特にハンターが少ない地域にとっては、新規に専門人材を雇用するにあたって交付金が活用できるため、人材確保の追い風になることが期待される。

4.今後の展望

緊急銃猟の私人依存を是正するだけでなく、その地域のハンターが持つ技術の継承や市町村の専門性向上の観点からも、将来的には市町村職員に狩猟免許取得者を増やしていくことも重要であろう。市町村職員が専門性を得ることは、市街地での迅速な緊急銃猟の実施にも資する。当面はハンターを市町村での専門人材として雇用しつつ、中長期的には小諸市のように市町村の専門員を育成していくことが望ましいだろう。市町村が主体となり、住民の安心・安全を確保する体制を整えることが、アーバンベア時代の新たな野生動物管理に求められている。

  • 北海道新聞「ヒグマ緊急銃猟に9割以上が「不安ある」 全道市町村アンケート 「適用検討する」は4割」(2025年10月17日)

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