米政府閉鎖が働く人に及ぼす“静かな危機”
2025年10月1日、米国は政府機関の一部閉鎖(Government Shutdown)に入った。この閉鎖は、2026年度予算法案1の可決により同年11月12日に解除されたものの、期間は43日間に及び、米国史上最長となった2。
米国では、10月1日から翌年9月30日までを財政年度としている。新年度の予算案またはつなぎ予算法案が期日である10月1日までに成立しない場合、政府機関の閉鎖という異常事態が発生する3。
今回の政府機関の一部閉鎖により、米国政府は190万人以上の連邦職員が一時解雇や賃金の未払いの影響を受けると試算した4。また、過去の政府閉鎖では、米国運輸保安局職員に対する賃金未払いに起因し、アブセンティーズム(心身の不調を理由とした欠勤率)が通常の3%から10%に上昇した事例があり、今回の閉鎖ではその影響がさらに拡大する可能性が指摘されている5。経済活動に与える影響として、連邦政府と民間企業において週平均150億ドル、うち30億ドルが小規模企業とで契約締結6されていることから、影響をより受けやすい小規模企業では、従業員の雇用維持や資金繰りなどの問題が今後顕在化する恐れがある。
このような政府機関の一部閉鎖が与える経済や雇用への影響について、多くの経済アナリスト同様に、米国人材マネジメント協会(SHRM)7も高い関心をもって注目している。SHRMは、従業員への影響を以下のように分析している≪図≫8。
先が見えない不安、仕事に集中できないことによる生産性の悪化、目標未達の可能性から感じるプレッシャーなど、現在、従業員を取り巻く環境は決して良いとは言えないだろう。前稿で述べたように、昨今の米国における従業員エンゲージメントは過去11年間で最低水準にある。今回の米政府機関の一時閉鎖による混乱は、これに追い打ちをかける可能性がある。
SHRMは上記分析結果を掲載すると同時に、一時閉鎖の解除から緩やかに業務を巡航速度に戻していくと同時に、従業員の心のケアも重要と指摘している9。目標に対する現在地、達成を阻む要因、それを克服するための具体策の共有など、組織における細やかな対話が不可欠という点は、米国に限らず、日本にもあてはまる示唆であろう。
将来への不安や仕事に対するプレッシャーは、日本の従業員も例外ではない。国家機関の一時閉鎖のような極端な事態こそ見られないものの、エンゲージメントが世界水準と比較して極めて低い水準であることは長く指摘されている。従業員の状態をどれだけ適切に認識できるかが、持続可能な組織運営には欠かせない。そのためにも、対話を通じて課題を可視化し、共通認識を持ち、具体的な改善策につなげていく組織としての取り組みが求められる。
- The White House “Congressional Bill H.R. 5371 Signed into Law”, Nov.12, 2025
H.R.5371 とはHouse of Representatives(下院)が提出した法案名であり、正式名称は“Continuing Appropriations, Agriculture, Legislative Branch, Military Construction and Veterans Affairs, and Extensions Act, 2026”。2026年度(2025年10月~2026年9月)の継続財政予算であり、軍事建設および退役軍人関連の予算や措置を延長するための法案である。2025年11月12日に議会で可決され、同日、大統領の署名をもって成立した。 - Reuters<https://www.reuters.com/legal/government/us-house-vote-deal-end-longest-government-shutdown-history-2025-11-12/>
- The Council of Economic Advisers “Economic Consequences of a Government Shutdown”, October 2025
- 前掲注3
- 前掲注3
- 前掲注3
- SHRM Webサイト<https://www.shrm.org/about>
- SHRM Webサイト<https://www.shrm.org/advocacy/navigating-post-government-shutdown>
SHRMによる本調査では、調査対象数や回答数は公表されていないが、政府機関の一時閉鎖が ”federal workers, private employers, contractors, and local communities (連邦職員、民間雇用主、請負業者、地方社会)” へ及ぼした影響を明らかにしている。 - 前掲注8