注目したい今後のサービス別収支差率の扱い
~令和7年度介護事業経営概況調査の結果公表を受けて~
厚生労働省は12月3日(水)に第249回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、介護サービス別の収支差率を公表した。議題の1つが今年5月に実施された「「令和7年度介護事業経営概況調査」の結果について」であった。介護事業経営概況調査(以下、「概況調査」という)では各介護サービスの収支差率を調査しているが、その結果が公表されたものである。令和5年度、6年度の決算は介護全体でいずれも+4.7%の収支差率であり、個別サービスでは、たとえば訪問介護の収支差率は11.1%、9.6%、定期巡回随時対応型訪問介護看護(以下、「定期巡回」という)では14.6%、13.4%と介護全体を大きく上回っている(図表1参照)。

概況調査は3年に1回、介護報酬改定(たとえば令和6年度改定)の翌年(令和7年)に実施され、前年度と前々年度(令和5年度と6年度)の決算を調査する。さらに介護事業経営実態調査(以下、「実態調査」という)が報酬改定の翌々年(たとえば令和8年)に実施され、その前年度(令和7年度)の決算を調査する。
すなわち、3年に2回調査(概況調査と実態調査)が実施され、併せて3年分の決算の結果(上記例では令和5~7年度の決算)を以て、介護報酬改定(上記例では令和9年度改定)の参考とされることとなっている(図表2参照)。

介護報酬はその半分を公費に頼っていることから、公費節減の観点から基本的には収支差率の高い介護サービスについてはマイナス改定ないし低いプラス改定率、収支差率の低いサービスは高いプラス改定率になるとされている1。たとえば、平成27年度改定では介護付きホーム(特定施設入居者生活介護)の基本報酬は要介護で-4.9%のマイナス改定であった2が、その背景には前年の平成26年度実態調査で介護付きホームの収支差率が+12.2%であったことが影響しているとみられている。直近でも令和5年度実態調査で訪問介護と定期巡回の収支差率がそれぞれ+7.8%、+11.0%となっていたところ、いずれも令和6年度改定で基本報酬が-2.0%、-4.4%のマイナス改定となった3ことは記憶に新しい。
様々報道されているところ4であるが、訪問介護、定期巡回などの在宅サービスは事業規模、地域性、人材確保などの事情で、経営実態が厳しい法人・事業所も少なくないとされている。訪問介護員の高齢化や離職もあり、また、都市部以外ではサービスを提供できない地域もあることから、従前のように概況調査・実態調査をベースに改定を判断しても良いものかとも考えられる。
来年の令和8年度実態調査の結果も踏まえて考える必要があるものの、令和9年度改定の検討にあたり、今回の概況調査で収支差率が高かったサービス(訪問介護、定期巡回などの在宅系サービスが多い)について、行政当局がどのように扱っていくかが注目される。
- この点、例えば民間経営が多い介護付きホーム(特定施設入居者生活介護)などで「経営努力で高い収支差を残すことが報酬減額につながりかねず、創意工夫の意欲をそぐ」との指摘もあるが、本稿ではいったん横においておく。
- 当社にて、平成24年度改定と平成27年度改定における要介護1~5の基本報酬(単位数)を単純合計し、比較して改定率を算出
- 「令和6年度介護報酬改定における主要サービスの改定率と訪問介護・訪問入浴介護の見直しポイント」https://em-avalon.jp/column/detail?id=300)による
- たとえば「神奈川のケアマネが東京に大移動する理由、訪問介護を「狙い撃ち」のマイナス報酬改定に業界大激怒!」(ダイヤモンド オンライン)https://diamond.jp/articles/-/338284