デジタルヘルス分野における変革の潮流
―CES2026視察報告(2)―
CES2026視察報告の第2回目は、健康・医療分野にデジタル技術を活用する「デジタルヘルス」の最新トレンドを取り上げる。
1.はじめに
昨今の生成AIブームを受け、健康・医療分野においてもAIの実装が急速に進展している。CES2026では、AIの実装による非侵襲・低侵襲の新しい測定技術が見られたほか、従来の健康モニタリングサービスが、単なる健康データの「記録」から、より高度な「診断支援」や「予防・介入」へとフェーズが移行しているという印象を受けた。本レポートでは、現地視察を通じて得られた知見をもとに、デジタルヘルス分野における非侵襲・低侵襲診断技術の革新と、予防医療サービスへの進化について報告する。
2.AIによる非侵襲・低侵襲診断技術の革新
CES2026のデジタルヘルス展示において最も注目したのは、AI解析技術の高度化により、身体への負担が少ない「非侵襲」または「低侵襲」な測定・医療診断の可能性を切り開く技術である。従来、大型の医療機器や侵襲的な検査が必要であった領域に対し、AIとセンシング技術を組み合わせた革新的なソリューションが相次いで発表された。
米国企業Tiposiのポータブル脳スキャナー「dragonfly」 は、マイクロ波イメージング技術とAI解析を組み合わせることで、CTスキャンのような大型で放射線を使用する測定機器を使うことなく、わずか3分以内に脳画像を生成することを可能にした。わずか8kgと持ち運びができ、1名でセットアップが可能な機器のため、脳卒中を迅速かつ安全に検知でき、救急現場や僻地医療への貢献が期待される。
がん検診の領域でも大きな進展が見られた。米国企業のIriHealthは、虹彩(アイリス)の画像をAIで解析することにより、85%の精度で大腸がんを発見する技術を示した。この技術は、身体的な苦痛や心理的なハードルが高い内視鏡検査等の代替あるいはスクリーニング手段として期待されており、同社は今後、糖尿病や心血管疾患の検知へと適用範囲を拡大する計画を示している。
3.「測定」から「予防・介入」への進化
もう一つの重要な潮流は、健康データの単なる「測定・可視化」から、AIによるリスク予測や具体的な行動変容を促す「予防・介入」型サービスへ進化していることである。特に韓国や欧米の企業を中心に、測定結果に基づきパーソナライズされた健康管理ソリューションが多数展示された。
フランス企業のWithingsは、次世代スマート体重計「Body Scan 2」を発表した。同製品は体重だけでなく、心電図や血管年齢、体組成など60以上のバイオマーカーをわずか90秒で測定する。AIによるリスク予測機能により、糖尿病、高血圧、心不全といった慢性疾患のリスクを早期に検知し、ユーザーに警告を与えることが可能である。
韓国企業のUNOVINSは、リモート検波技術を用いた非接触バイタル測定ソリューションを披露した。カメラで顔を約15秒間スキャンするだけで、心拍数やストレスレベルなどのバイタルサインを測定できる。ウェアラブルデバイスを装着する必要がないため、感染症対策や高齢者の見守りなど、幅広いシーンでの活用が見込まれる。これらの展示からは、医療グレードの検査が日常生活の中へと溶け込み始めている現状が強く感じられた。
高齢者の見守り・介護分野でも、受動的な監視から能動的な事故予防へのシフトが見られる。韓国企業のFarmityが展示した「FIRA Pose」は、高精度のミリ波レーダーとAIを組み合わせ、関節レベルでの詳細な人の動きを認識する。これにより、単なる転倒検知にとどまらず、暴力行為や自殺の予兆といった複雑な状況も把握し、事故を未然に防ぐことを目指している。
4.おわりに
CES2026の展示を通じて明らかになったのは、AIの実装により、デジタルヘルスが「日常生活に溶け込んだ継続的な健康管理」へとパラダイムシフトを起こしていることである。専門的な知識がなくとも高度な健康状態の把握・管理が可能となり、予防医療や個別化された医療が現実のものとなりつつある。
特に、韓国企業を中心としたスタートアップ勢が、技術的なブレイクスルーを迅速にサービスへと昇華させているスピード感は印象的であった。一方で、旭化成やMENTAGRAPH(JTの子会社)などの日本企業も、独自のセンシング技術を強みに存在感を示しており、グローバル市場での競争力維持に向けたポテンシャルを感じさせた。
今後、これらの技術が社会実装される過程では、各国の規制対応やプライバシー保護、 データセキュリティの確保が重要な課題となるだろう。しかし、医療費削減や健康寿命の延伸という社会課題に対し、デジタルヘルス技術が果たす役割は極めて大きく、今後のさらなる発展が期待される。
次回はCES2026におけるモビリティ領域の最新動向について報告する。