【Vol.75】2.電動マイクロモビリティブームとドイツにおける受容~電動キックボードを中心に~

主任研究員 新添 麻衣

I.はじめに

玩具だったはずの一輪車などの乗り物が電動化され、最新のテクノロジーを搭載したことで、人々の快適な移動手段に変貌しつつある。この新種のモビリティ群を電動マイクロモビリティとして本稿では取り上げ、前段では米中を起点とした電動マイクロモビリティの興りを概観し、後段では現地取材も交えケーススタディとしてドイツの動向をまとめた。2019年に入って、本邦でも電動キックボードのシェアリングサービスの実証実験が見られるようになってきたため、先行事例としてドイツに着目したものである。

II.電動マイクロモビリティとは

2000年代初頭から様々な電動マイクロモビリティが米中で生産されたが、世界的なブームの火付け役となったのは電動キックボードのシェアリングサービスで2017年秋に米国で始まった。わずか2年で欧米からアジア、中東など世界の都市部に広まり、2025年には全世界で4,000~5,000億ドルのマーケット規模になるとの予測もある。スマートフォンのアプリで利用が完結し、車両の乗り捨て自由な利用形態が支持され、ファースト・ラストマイルを担う新たなモビリティサービスと目される。スタートアップや自動車メーカーなどの事業参入が相次ぎ、成長市場だが既に競争は激化している。

III.ドイツにおける電動マイクロモビリティ受容

ドイツでは2002年から都市交通計画を見直し、“公共交通×自転車・徒歩”で移動が完結する街づくりに戦略的に取り組んできた。このため、外来の電動キックボードのシェアリングサービスを新たな移動の選択肢として活用する土壌があった。「電動小型モビリティの道路交通への参加に関する命令(eKFV)」が2019年6月半ばに施行されると、大都市圏を中心に全国で導入が進んだ。市民への交通規則の周知など課題はあるが、自治体とサービスプロバイダーが強固に結束し、公共交通を補完する機能として、また都市交通計画の改善に資する移動データの収集ツールとして電動キックボードの利活用が進められる見通しである。

IV.おわりに

ドイツは新種のモビリティである電動キックボードを短期間で社会実装することに成功した。15年以上の年月をかけて取り組まれてきた既存の政策の延長線上で、徒歩・自転車以外の新たなファースト・ラストマイルの選択肢としての地位を得られたことが大きい。eKFVによる全土統一の規制枠組みは、その全国展開を後押しした。MaaSの高度化を目指す各自治体において、電動キックボードがモビリティとして、また同時にデータ収集ツールとしてどのような役割を果たしていくのかは今後も注目される。

  • 本稿は、主に2019年8月末までの情報に基づき作成したものである。

PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。

TOPへ戻る