【Vol.76】2.実例から読み解くGAFA規制

フェロー 隅山 正敏

I.はじめに

GAFAは、2018年を中心として様々な問題事例を引き起こし、各国が「GAFA規制」の検討を行うに至っている。わが国における規制の全体像を国内外における実際の問題事例と対比しながら読み解く。

II.GAFA規制の検討状況

わが国では産業振興の目的で検討が始まり、消費者・事業者の不安・不満に押されて規制色が強くなっている。産業振興と規制強化の両睨みという立ち位置は欧米での検討状況と対照的である。

III.問題事例と規制上の論点

1.対消費者に係る問題事例

個人を識別できないデータ(クッキーなど)を収集した事例ではどうなると保護対象になるか、企業買収に伴い親会社にデータを吸い上げられた事例では利用者の権利をどう保護すべきか、欧州の新規制が適用された事例ではどうすれば有効な同意と言えるのかといった論点が生じている。また、同一事例に対する各国対応が分かれており、どのように法令を執行するかという論点も加わる。

2.対事業者に係る問題事例

販売業者の有する価格決定権に対して端末メーカーが介入した事例と市場運営者が介入した事例がある。当事者の交渉で決まる取引条件について、交渉力の違いを利用して、他社取引を制限した事例と不合理な条件を押し付けた事例がある。いずれも独禁法を適用して事後的に処理されてきたが、取引条件については新たな事前規制が準備されている

3.市場支配に係る問題事例

検索結果を表示する際に自社サービスを優先した事例、基本ソフト供給先に自社アプリのプレインストールを求めた事例では、競合企業を排除したという事実認定に難しさがあるものの独禁法適用で対処されてきた。企業買収事例では、デジタル市場での競争をどう見るかという事実認定の問題と、潜在的な競合企業の買収(競争阻害行為)にどう対処するかという立法的な問題が生じている。

4.その他の問題事例

電子商取引市場では市場運営と商品販売の両方を担う場合の利益相反問題が、情報発信プラットフォームでは発信されるコンテンツに対して運営者がどこまで責任(メディア責任)を負うのかという問題がそれぞれ生じている。

IV.GAFA規制の積み残し課題

消費者取引における個情法と独禁法・通信事業法の重複適用をいつまで続けるのか、情報発信力が強く世論操作に悪用される懸念がある情報発信サービスのメディア責任をどう考えるか、法令を適用して問題を是正する活動を積極的に行うべきか、わが国企業はどのように備えるべきかという課題がある。

V.おわりに

わが国のGAFA規制は実際に発生した問題事例をほぼカバーしている。海外と比較すると法令の適用(執行)が謙抑的であり、産業振興と問題是正のバランスを改めて検証する必要がある。また、わが国企業の方が規制遵守に向けた課題を多く抱えている可能性が高く、準備が急がれる。

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