【Vol.80】3.先進国7か国の健康保険制度の基本構造と特徴 ~基本的考え方・改革の沿革・立法実施手続~

ファカルティフェロー 小林 篤

Ⅰ.はじめに

2011年から10年間、ヘルスケア(医療介護)サービスと健康保険に関して、制度の概略の把握に加えて現地で実務に携わる関係者からの聴き取り調査の情報も取り入れた調査報告を公表した。本稿は、これらの調査報告に基づき、各国の基本構造と特徴を整理したものである。

Ⅱ.米国

健康保険システムは、所得と年齢で仕切られ、公的保険制度と民間健康保険との混合したファイナンスシステムとなっている。連邦制のなかで州の独自の取組が活発に行われ、強いイノベーション志向がある。市場正義という考え方と社会正義という考え方が相克している。

Ⅲ.英国

主として税を財源とし全住民を対象として、医療サービスを提供する公的医療保障制度であるNHSが定着している。NHSにおける待機者問題が民間健康保険の大きな加入動機になっている。NHSの内部に内部市場を設けるなど自由・選択・市場重視の政策は、基本的に維持されている。

Ⅳ.カナダ

各州が無償で医療サービスを提供する公的健康保険を運用し、連邦政府が資金提供をしている。かかりつけ医の医療サービスと病院・専門医の医療サービスは医療サービスのコアの領域とされ、民間健康保険が関与する余地は全く無い。待機期間問題に長年取り組んでいるが、解消されていない。

Ⅴ.オーストラリア

一般財源と所得に課税するメディケア税を財源とする、連邦政府運営の全国民対象の公的医療保障制度がある一方、有病者でも高齢者でも同一保険料で加入できる特異な民間健康保険があり、連邦政府が民間健康保険を1つの選択として推奨している。

Ⅵ.ドイツ

連邦の立法府で政治的信条が異なる政党・連立が衝突妥協し健康保険システム改革が行われてきたので、健康保険システムの主導原理が矛盾し相克している。公的健康保険者は競争環境下に置かれている。民間健康保険と公的健康保険とが併存し、報酬が多い者は公的健康保険から民間健康保険に移動できる。

Ⅶ.フランス

強制加入の健康保険システムは、単体の独立したシステムではなく、労災・年金等を包含した社会保険制度の一部門であり、法定険康保険の大部分の給付は100%の額を給付せず患者はかなりの額の自己負担があるため補足する民間健康保険が不可欠となる。

Ⅷ.オランダ

公的健康保険者と私的健康保険者の合併・統合が進展しているなか私法に基づく公的健康保険者という現実的解決策を採用する現実感覚があり、皆保険の社会保険制度で私的保険者が公的保険者になっている。市場機能を利用して効率性と利用者・受益者の選択の自由を実現しようとしている。

Ⅸ.おわりに

皆保険か否か、公的保険者の加入選択、公的保険の自己負担、および公的保険と民間保険との関係について、これら7か国と日本を比較し、日本の健康保険システムの基本構造・特徴を提示した。

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