Introduction

 
人的資本経営を進めていくための課題は
 
従業員の心身の健康は人的資本経営の土台人的資本経営は、人材を資源ではなく投資により価値を引き上げる資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上を目指す経営手法です。企業が人的資本経営を進めていくための課題の一つとして「エンゲージメント」の向上があげられます。従業員のエンゲージメントが高い企業は低い企業と比べて離職率が低い、業績が良好などの傾向があるといわれています。一方で、従業員のエンゲージメントが労働生産性にどのような効果を与えているのかは必ずしも明らかになっていません。
 
本シリーズのVol.1では、メンバーのエンゲージメントが高い組織は低い組織と比べて営業成績が良好な傾向がみられるなど、エンゲージメントの重要性を明らかにしました。では、どうすれば従業員のエンゲージメントが向上するのでしょうか。本レポート(Vol.2)で紹介する分析では、約4年にわたる研究会での実証研究の成果として、従業員のエンゲージメントや心理的ストレス反応を向上・軽減する仕組みや経路を可視化しています。また、心身の健康を害していては、たとえポテンシャルが高い従業員でも能力を発揮することはできません。出勤はしているものの心身の不調が原因で生産性が低下している状態を「プレゼンティーズム」といいます。仕事を休むほどではなくても、頭痛や腰痛、花粉症などで仕事に集中できない経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。厚生労働省の「コラボヘルスガイドライン」によれば、プレゼンティーズムは生産性を低下させ、健康関連コストを増大させることが述べられています。本レポートでは、プレゼンティーズムが組織のパフォーマンスに与える影響などを分析しています。
 
業員の心身の健康は人的資本経営の土台
 
従業員の心身の健康は人的資本経営の土台といえます。本レポートの分析では、従業員の健康度が高い組織が、良いパフォーマンスを発揮する可能性について確認しました。その結果、プレゼンティーズムとエンゲージメントとの間に一定の相関関係がみられました。仕事の要求度‐資源モデル(JD-Rモデル)によると、エンゲージメントは、プレゼンティーズムなどの心身の健康にポジティブな効果を与えます。両者の相関関係は、従業員のエンゲージメント向上がプレゼンティーズムの改善につながることを示しているといえます。一方、プレゼンティーズムの改善は、組織のパフォーマンスを高める傾向が確認できたものの、統計的に有意とまではいえないという結果が示されました。組織のパフォーマンスには、従業員の健康だけでなく様々な要素が関連しているからだと思われます。プレゼンティーズムが労働生産性に与える影響についてはさらなる調査が必要と考えています。
 
従業員のエンゲージメントや心理的ストレス反応を向上・軽減する経路の分析により、両者に影響を与える要素を明らかにできます。例えば、仕事の適性のスコアが高い職場はエンゲージメントが高く、心理的ストレス反応は低い傾向にあることが確認されました。仕事の適性がエンゲージメントを改善し、心理的ストレス反応を軽減する可能性を示しており、適材適所の重要性を表しています。人事・労務関連データの横断的な分析により、どの要素・要因が従業員のエンゲージメントや心理的ストレス反応に影響を及ぼすかを構造的に把握することができます。今後も生産性に関する調査研究を進め、人的資本経営の実現に資する分析結果を公表していきます。

■目次
 ・ Introduction
 ・ エンゲージメントおよびJD-Rモデルの概要
 Q1.エンゲージメントはどのようにして高まるのか?
 Q2.エンゲージメントに影響を与える職場環境は何か?
 Q3.仕事の適性はエンゲージメントや心理的ストレス反応を改善するのか?
 Q4.従業員の心と身体の健康が組織のパフォーマンスに与える効果は?
 Q5.コロナ禍におけるテレワークの心身への影響は?

 
SOMPO インスティチュート・プラス 生産性に関する研究会
 
 ● 委員(五十音順、敬称略、◎印は座長)
    黒田 祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
    滝澤 美帆 学習院大学経済学部教授
    藤野 善久 産業医科大学教授
  ◎山本 勲 慶應義塾大学商学部教授
 ● 事務局
    SOMPOインスティチュート・プラス株式会社
 

 
■ 対象企業の概要
 
  ● 業種:サービス業
  ● 従業員数:約23,000人
  ● 国内営業拠点:約500
 
  ※国内営業拠点は全国に所在。顧客は個人から大企業などの法人まで多岐にわたる。
  ※分析対象期間 2016~2020年度
  ※分析により対象となる国内営業拠点数には相違がある。

PDF書類をご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。
右のアイコンをクリックしAcrobet(R) Readerをダウンロードしてください。

TOPへ戻る