Q4.従業員の心と身体の健康が組織のパフォーマンスに与える効果は?

 
Q. 従業員の心と身体の健康が組織のパフォーマンスに与える効果は?
A. 従業員の健康度が高い組織は良いパフォーマンスを発揮する可能性がある
  ただし、統計的に有意な関係は確認できなかった

 

 
心身の健康状態は業務の遂行に影響を与えます。腰痛があれば身体の動きに支障があるでしょう。頭痛や肩こりに悩まされていれば業務に集中できない場合もあるでしょう。不安感や抑うつ感を感じていて仕事が手につかない場面もあります。それでは、従業員の心身の健康状態は、組織のパフォーマンスにも影響を与えるのでしょうか。
  
ここでは、プレゼンティーズム(意味、計測方法などについては次ページを参照してください)の概念を用いて分析した結果を紹介します。対象企業のうち営業拠点に所属する各拠点のメンバーのプレゼンティーズムの平均値により、上位(健康度が高い)の拠点25%、下位(健康度が低い)の拠点25%を抽出し、翌年度の営業目標の達成状況を見たのが図4-1です。図4-1では、上位に属する拠点の方が、下位に属する拠点よりも営業目標を達成する確率が高くなっています。ただし、上位群、下位群の営業目標の達成率を対象に検定を行うと統計的な有意差はないとの結果になりました。プレゼンティーズムと営業目標の達成との関係を因果推論に基づいて推計した結果からも因果関係は確認できませんでした。
 
この結果をどう考えれば良いでしょうか。一つの手がかりは、プレゼンティーズムの概念で計測できる「健康状態が業務遂行に与える影響」が限定的である点です。図4-2は、米国のヘルスケアビジネスの業界団体が提示しているものです。この図は、プレゼンティーズムなどの計測ツールは、最良なパフォーマンスの状態までは計測できないことを示しています。そしてその理由として、パフォーマンスに影響を与える要因は、市場、職場環境、エンゲージメントなど多様であるからとしています(本シリーズのVol.1では、エンゲージメント、職場環境などが組織のパフォーマンスに与える影響について紹介しています)。
 
プレゼンティーズムとエンゲージメントとの間に一定の相関関係がみられる点にも注目できるでしょう。図4-3は、営業拠点の2020年度におけるプレゼンティーズムとエンゲージメントの関係を示したものです。右肩上がりの関係、すなわち、心身の健康度が高いとエンゲージメントも高い傾向がみられます(相関係数は0.363)。本シリーズのVol.1で示した通り、エンゲージメントが高い組織は、パフォーマンスも高くなる傾向が確認されています。従業員の良好な健康状態は、組織のパフォーマンスを発揮するための必要条件の一つであるといえるのではないかと考えています。引き続きデータの収集・分析を行い従業員の心身の健康度が組織のパフォーマンスに与える影響を探索していきます。
 

 
プレゼンティーズムとは
 
プレゼンティーズムとは、労働者が「出勤はしているが、健康上の理由により業務に支障が生じている(生産性が低下している)」状態を指す用語です。プレゼンティーズムは、健康上の理由により欠勤している状態を指すアブセンティーズムに対応する語として作られました。健康上の理由には、疾病に限らず、頭痛や腰痛などの身体の不調、精神・心理的な不調などが含まれます。病気の発症には至っていない、あるいは、原因が分からないような心身の不調が業務に与える影響を把握できるのもプレゼンティーズムの特徴です。プレゼンティーズムの概念は米国で生まれたとされています。
 
日本では、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する」健康経営の考え方の広まりとともに、従業員の健康施策を生産性向上の一つと位置付けて取り組む企業が増えてきています。2015年に経団連が会員企業向けに実施したアンケートによると、「健康経営に取り組む目的」として「業務効率化・労働生産性の向上」を挙げた企業が全体の82%と最も多くなっています(複数回答)。こうした中で日本の企業においてもプレゼンティーズムへの関心が高まってきており、実際に計測している企業も 増えています。
 
プレゼンティーズムの計測方法
 
アブセンティーズムは、欠勤日数または欠勤時間による客観的な計測が可能です。これに対して、プレゼンティーズムは客観的な計測が困難なため、通常、従業員に対する自記式の調査票によって計測が行われます。複数の調査票が研究機関などにより開発され、実用化されています。
 
本レポートが分析の対象とした企業では、WLQという調査票を用いています。WLQ(Work Limitations Questionnaire)は、米国タフツ大学のチームにより開発されました。質問票は25の設問で構成されています。設問は4つのカテゴリー(時間管理、集中力・対人関係、身体活動、仕事の結果)に分類されており、カテゴリーの得点から課題の特定が可能になっています(右図)。WLQは、プレゼンティーズムの発生していない最も良好な状態を100%として計測します。

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