新紙幣発行は今回もタンス預金を減らすか
~2024年はタンス預金の減少要因が多い~

主任研究員 小池 理人

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 7月3日から新紙幣の発行が予定されている。新紙幣の発行を巡っては、タンス預金の減少に繋がるとの見方が多くなされている。実際、2004年の新紙幣発行前にはタンス預金が減少しており、今回も新紙幣の発行に先立ってタンス預金が減少している1。新紙幣発行後も現在流通している紙幣は利用可能であるため、新紙幣発行を機にタンス預金を引き出す合理的な理由は少ない。しかし、自身の保有する現金が旧札となることに対する漠然とした不安感から、タンス預金を減らす動きが少なからず生じているものと推察される。実は、足もとでタンス預金が減少している理由は新紙幣発行だけではない。2024年はタンス預金を減少させる要因が複数生じている、珍しい年でもある。
 タンス預金を減少させる要因として、預金金利の上昇が挙げられる。日本銀行の金融政策正常化を受けて、銀行は預金金利を引き上げている。預金金利がほぼゼロである時代においては、金融資産をタンス預金として保有していても大きな問題は無かった。預金を選択しないことによる機会損失が極めて小さかったからだ。しかし、預金金利が上昇する中では、タンス預金によって利息の受け取り機会を逸するコストは大きくなる。日本銀行は今後も利上げを進めていくとの見方が多く、預金しないデメリットはますます大きくなっていくことになるだろう。
 インフレの影響もタンス預金の減少に繋がる。足もとでの消費者物価指数(総合)は前年比+2.5%と高い伸びが示されている。物価上昇は現金の価値が減少していることの裏返しであり、金融資産をタンス預金として保有する場合には、物価上昇分だけ保有する価値が目減りしていくことになる。日本は物価が上昇しない期間が長く、タンス預金として現金を保有していても価値がほとんど目減りしない状況が続いていた。しかし、昨今の物価上昇によって状況は一変している。今後も、円安や人手不足といった物価上昇要因が一定程度定着する可能性は高く、物価上昇に伴って現金の価値が目減りしやすい環境は続くだろう。タンス預金を保有し続けることの合理性はますます小さくなっていくことになる。
 加えて、2024年から開始された新NISAもタンス預金を減少させる要因となる。新NISAでは年最大360万円、非課税保有限度額は1,800万円となっている。金融広報中央委員会の調査によると、金融資産を保有する2人以上世帯における金融資産の平均保有額は1,758万円(中央値は715万円)となっており、新NISAの枠を限度額まで活用するために、タンス預金を投資に振り向ける動きが強まる可能性がある。
 以上のように、2024年は、新紙幣発行のみならず、預金金利上昇やインフレ、新NISAといったタンス預金を減少させる要因が多く存在している。タンス預金は経済活動に活用されないだけでなく、脱税の温床となるなど、望ましいものではない。増加傾向にあったタンス預金であるが、減少要因が多い2024年を機にタンス預金が大きく減少していくことが期待される。
 

 
【参考文献】
大谷聡、鈴木高志(2008)「銀行券・流動性預金の高止まりについて」『日本銀行日銀レビュー』2008年8月

  • 大谷、鈴木(2008年)の券種別銀行券アプローチを参考に、一万円札の伸び率が千円札の伸び率を超えて増加した分をタンス預金増加率(一万円札の伸び率が千円札の伸び率を下回った場合はタンス預金減少率)としている。
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