外国人介護人材の訪問サービスへの従事について~外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会中間まとめ(2024年6月26日)より~

上席研究員 成瀬 昂

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2023年5月より、技能実習「介護」、特定技能「介護」における固有要件を検討する目的で「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」が開催されている。その中間まとめ1が公開されており、本稿では個別論点の中の「訪問サービス従事に関する論点」に着目し紹介する(以後、該当検討会に倣い、介護分野における技能実習・特定技能・EPA 介護福祉士候補者を「外国人介護人材」と呼ぶ)。

介護を必要とする者の増加が見込まれる中で、介護人材の確保が喫緊の課題となっている。国ではこれまで、①介護職員の処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④介護職の魅力向上、⑤外国人材の受入環境整備など総合的な介護人材確保対策に取り組んできた。国内人材の確保等の取組を講じてもなお深刻な人手不足が見込まれる中、特定技能の受入れ見込数(令和6年度から5年間)を 13.5 万人とすることが2024年3月に閣議決定されている。今後も、国内の人材確保対策の強化、および外国人材の確保・定着、受入環境の整備を進めていく必要がある。

介護人材の確保は介護事業所全体に共通する課題であるものの、特に訪問介護の人手不足は顕著である2。2023年度の社会保障審議会で、訪問介護の有効求人倍率は15.53倍と大きく、事業所の約8割が職員不足を感じていることが課題として挙がっている。しかしながら、訪問介護をはじめとした訪問サービスに対する外国人介護人材の従事には課題がある。訪問系サービスでは、利用者と介護者が1対1で業務を行うことが基本であり、適切な指導体制の確保、権利保護、在留管理の観点に十分配慮する必要があることから、技能実習等における従事は認められていない。同様の考えに基づき、特定技能制度(介護分野)でも、従事が認められるのは施設系サービスのみである。これについて本検討会では、積極的に訪問サービスへの従事を認める方向で議論されている。以下、該当箇所を示す。

“受入事業者へのヒアリング等では、アジア諸国においても、今後、高齢化が見込まれることから、日本における訪問系サービスでの就労経験は、今後母国に帰国した後も有益であることが見込まれるという意見があった。地域共生社会や地域包括ケアシステムの深化・推進を目指す我が国の介護・福祉サービスをアジア諸国に広めていく上でも、その核となる訪問系サービスに従事してもらうことは重要である。(中略)外国人介護人材の訪問系サービスの従事については、日本人同様に介護職員初任者研修を修了した有資格者等であることを前提に、ケアの質や権利保護等の観点から、以下のとおり、事業者に対して一定の事項について遵守を求め、当該事項を適切に履行できる体制・計画等を有することを条件として従事を認めるべきである。国においては、適切な指導体制の確保やハラスメント対応等の観点から、受入事業者の遵守事項の履行体制の確保の確認や、相談窓口の設置、受入環境整備等を行うことが重要である。(外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会中間まとめ(2024年6月26日),page 7~8)”

繰り返し指摘がある通り、訪問サービスは職員が利用者宅で、密室内で1対1の時間を過ごす形態が主である(訪問入浴サービス、並びに指導や複数人訪問加算が生じる場合を除く)。つまり、利用者・職員の双方が適切に守られ、尊重し合い、安全な就労環境を作るための手段は、集団によるケアの場面と大きく異なる可能性がある。すでに各訪問サービス事業者が実装している様々な教育・ケア・管理体制を参考に、本件についてはさらに議論が進むと予想される。

最後に、外国人介護人材をめぐる議論で常に頭に置いておくべきと筆者が考える箇所を以下に紹介する。

“各在留資格の制度趣旨に基づきながら、人権侵害等の防止・是正等を図りつつ、日本人と外国人が互いに尊重し合い、安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指していくこと、また、外国人介護人材が、単なる日本人の穴埋めとしての労働力ではなく、同程度の技能等を有し、職務内容や職務に対する責任の程度が同等程度の日本人と比べて同等額以上の報酬を得ながら、キャリアアップし、資格を取得することで、国内で長期間就労し活躍できるように環境整備を進めることが求められる(外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会中間まとめ(2024年6月26日),page2)“

地域包括ケアシステム3の中では、要介護者も支援者も、共に地域を構成する人間として力を合わせて取り組むものであり、その一端が介護・介護サービスという営為である。今後、それぞれの自治体には、要介護者と支援者が互いの土台にある文化の違い(場合によっては国の違いに限らないこともあるだろう)を理解した上で、共に地域を作る仲間として支え合えるような仕組みを作ることが求められていくと考えられる。

  • 外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会中間まとめ.令和6年6月 26 日.外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会.https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001268144.pdf
  • 訪問介護.社会保障審議会介護給付費分科会(第220回).令和5年7月24日.
    https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123917.pdf
  • 地域包括ケアシステム.厚生労働省.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
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