企業の女性管理職比率の公表義務化へ
~ESG投資の観点から求められる情報開示~

上級研究員 菅原 佑香

厚生労働省は女性の管理職比率を公表するよう企業(上場・非上場問わず)に義務付ける調整を進めており1、対象企業の規模は従業員301人以上、あるいは101人以上とする案が検討されている2。同省で7月19日に開催された有識者による「第10回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の報告書の素案には、「現在開示項目の選択肢の一つとなっている女性管理職比率について、企業の実情を踏まえつつ、開示必須項目とすることが適当」と明記されている3

すでに、有価証券報告書を発行する上場企業には、2023年3月期決算から、女性管理職比率や男女間賃金格差などの公表が義務化されている4。この開示義務化の背景には、国際的にも主要国と比べて極めて低い女性管理職比率の現状がある《図表1》。また、女性管理職比率の低さは、男女間賃金格差の要因の一つとして指摘されており5、これらの格差是正の観点からも重要である。

こうした政策は、ESG 投資の観点からも注目されている。内閣府の調査によれば、女性活躍情報を投資判断に活用する投資家が6、「投資や業務において活用する女性活躍情報」としては「女性役員比率」や「女性管理職比率」などの項目が上位に来ている。

しかし、投資家が「企業の女性活躍情報の開示に対して求めること」の回答を見てみると、「将来の目標を明示する」が62.5%と一番高く、次に「経年変化が分かるように過去の情報を開示する」(60.0%)、「開示する定量的な情報の項目を増やす」(51.3%)と続いている《図表2》。定量的な項目の情報開示も必要ではあるが、投資家は企業の取組みの結果、目指している将来の目標や単年度だけではない経年での変化に関する開示を求めていることがわかる。

同調査の「女性活躍情報の改善が望まれる点に関する投資家へのヒアリング結果」を見てみると「女性管理職比率とあわせて、目標とそれを達成するための仕組みの開示があると望ましい(中略)仕組みや取組について、具体的に明らかにされていないと、その目標の実行性を判断することが難しい」や「キャリアアップの各段階での女性比率について、経年変化が分かる形での開示があると良い(中略)採用時、及び係⾧、課⾧、部⾧クラスの女性比率を見ることによって、その企業において何がボトルネックになっているかが分かる」といった記載が見られた7。投資家からすれば、企業価値の向上に結び付くストーリーの中で、どのような将来の目標を目指し、それらが仕組み化されているのか、また、女性のキャリア形成の段階に応じて、管理職比率がどのように変化しているのかといった情報が必要だからだ。

女性管理職比率の公表が義務化されることは、企業にとっては開示負担につながる。しかし、社内外のステークホルダーからの目に晒されることで、投資家などとの建設的な対話が促進されるなど、情報開示の活用の仕方次第では、企業の取組みを強化し深化させるだろう。

企業の定量指標の開示だけではなく、その背景にある企業の方針や取組み、目標に向かっての進捗状況もあわせて開示することで、情報開示の議論のさらなる進展を期待したい。

  • 日本経済新聞ウェブサイト「女性の管理職比率、企業に公表義務 従業員301 人以上」
    (visited July. 26, 2024)<https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA299DT0Z20C24A5000000/>
  • 労政時報ウェブサイト「女性管理職比率、公表へ 厚労省、企業義務化検討 透明性高め、活躍促す」
    (visited July. 26, 2024)<https://www.rosei.jp/readers/article/87387>
  • 厚生労働省「第10回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(資料1-1 報告書(素案))(令和6年7月19日)
  • 企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(令和5年内閣府令第11号)による企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和48年大蔵省令第5号)の一部改正。多様性に関する指標が追加され、女性活躍推進法又は育児・介護休業法に基づき、女性管理職比率、男性の育児休業等取得率及び男女間賃金差異の公表を行う企業について、報告書における開示が義務化された。
  • 脚注3同様
  • 内閣府 男女共同参画局「ジェンダー投資に関する調査研究 報告書」(令和5年4月)
    調査対象は、日本版スチュワードシップ・コードに賛同する国内に 拠点を持つ機関投資家等、計255機関(回答数:129 件、回答率51%)実施期間:令和4年12月~令和5年1月。
    女性活躍情報を投資判断の「全てにおいて活用している」(8.1%)または「一部において活用している」(57.3%)との回答した投資家のことである。
  • 内閣府 男女共同参画局「ジェンダー投資に関する調査研究 報告書」(令和5年4月)
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