2025年もインバウンドは過去最高を更新するか
~求められる物価上昇圧力に対する覚悟~
2024年の訪日外客数が3,687万人、訪日外国人旅行消費額が8.1兆円となり、共に過去最高を更新した(図表1、2)。訪日外客数が2019年比+15.6%と増加したことのみならず、訪日外国人1人当たり旅行消費(一般客)が同+43.3%と大幅に伸びたことがインバウンド消費を押し上げる要因となった。円安が進行する中で日本のモノやサービスが割安になったことを背景に、米国やカナダ、オーストラリアなど、多くの国々において2019年比で2倍以上に訪日消費額が増加した。
そうした中、2019年比での訪日消費額がマイナスとなった国が中国だ。日中関係の悪化や中国経済の停滞等によって、訪日外客数の回復は他の国と比較して大きく後れを取ることになった(図表3)。ただし、2024年の中国人観光客の回復の遅れは、逆に言えば伸びしろがあるとも考えられる。岩屋外務大臣が昨年12月に中国の富裕層に10年観光ビザを新設することを表明したことから、2025年には中国人観光客が増加し、訪日外客数全体を大きく押し上げることが予想される。
しかし、訪日外客数の増加はポジティブなことばかりではない。日銀短観の雇用人員判断DIをみると、インバウンドを受け入れる飲食・宿泊サービスの人手不足は深刻化していることが示されている(図表4)。オンライン求人広告のウェブスクレイピングによって作成されるHRog賃金Nowにおいては、求人指数が全体と比較して大きく上昇する一方で、募集賃金指数については伸びてこそいるものの、全産業の伸びにようやく追いついてきているに過ぎないことが示されており、必要な賃上げが実現できていない様子が浮かび上がる(図表5、6)。
賃上げを実施するための方法の一つとして、単価の引き上げが挙げられる。しかし、それは日本人の国内旅行の単価上昇に繋がり、日本人の需要を締め出すことにもなりかねない。実際、外国人観光客の受入れ再開以降、国内宿泊旅行単価は大きく上昇している(図表7)。インバウンドによる経済的恩恵を受けるには、訪日客によってもたらされる物価上昇圧力を一定程度受け入れる覚悟も必要になりそうだ。



