ワーク・エコノミックグロース

リスキリングや学び直しに向けた公的支援拡充の動き
~企業に求められる教育訓練休暇制度の整備~

上級研究員 菅原 佑香

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 働く人のリスキリングや学び直しにかかわる公的支援拡充の動きがある。すでに2024年10月には、教育訓練給付金が拡充されている。教育訓練給付金とは、厚生労働大臣が指定した教育訓練を受講・修了した労働者が一定の条件を満たせば1、費用の一部を受け取れる制度だ。対象となる教育訓練は、そのレベルなどに応じて3種類あり、そのうち「専門実践教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」の給付率の上限の引上げが2024年10月に行われた≪図表1≫。「専門実践教育訓練給付金」は、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、資格取得時などの追加給付に加え、さらに受講費用の10%(合計80%)が追加で支給される2。「特定一般教育訓練給付金」については、資格取得し、就職等した場合、受講費用の10%(合計50%)を追加で支給される3。教育訓練給付の指定講座は、様々な分野で約16,000講座も対象となっているため、学び直しを検討している人は、この機会に興味や関心のある分野で探してみるなど是非活用されたい≪図表2≫。

2025年10月には、教育訓練を受ける間の生活費の不安を解消し、働く人の主体的な能力開発を支援する目的で「教育訓練休暇給付金」が創設される。これは、在職中に教育訓練のための休暇(無給)を取得した人に、離職した場合に支給される基本手当に相当する金額が支給される仕組みだ≪図表3≫。

しかし、こうした公的支援を活用して自己啓発できる人は限られる。厚生労働省「令和5年度 能力開発基本調査」によれば、そもそも自己啓発を行った人は労働者全体の34.4%(正社員では44.1%、正社員以外は16.7%)と半分にも満たない。自己啓発を行う上で問題があるとした労働者は8割にものぼり、問題点の内訳として最も多い回答は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」であり、次に「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」と続く4。仕事に必要な知識やスキルを身につけ、将来の中長期でのキャリア形成に備えて、リスキリングや学び直しを行う意欲のある人が、仕事等との両立を図りながら時間をどのように確保できるかが、働く人にとっての大きな課題だ。同調査より、教育訓練休暇制度の導入率を見ると8.0%と少なく、81.9%の企業は導入する予定もないと回答している≪図表4≫。導入の予定がないと回答する企業の理由を見ると、「代替要員の確保が困難であるため」が最も多く、「制度自体を知らなかったため」、「労働者からの制度導入の要望がないため」といった回答が見られ、企業側での制度に対する理解が不足しており、働き方等を含めた環境整備が追い付いていない。

休暇を取得することが可能となれば、より多様な資格や講座の選択肢も増える。働く人にとって、リスキリングや学び直しの機会が増えるだけではなく、企業にとっても生産性向上につながる。教育訓練給付金の活用や2025年10月より施行される教育訓練休暇給付金の創設に向けて、企業は働く人が教育訓練など自己啓発の時間を確保できるよう柔軟な働き方や長期休暇を取得できる環境整備を早急に対応する必要があるだろう。意欲のある人が、積極的にリスキリングや学び直しに取組むことのできる社会の実現に向けて、より一層の企業の取組みを期待したい。

  • 厚生労働省「教育訓練給付制度」、ハローワークインターネットサービス
    在職中の場合は、受講開始日時点で雇用保険の被保険者であった期間が1年以上(専門実践教育訓練の場合は2年以上)であれば支給対象者となる。離職中の場合は、受講開始日が離職した日の翌日から1年以内である必要がある。それ以外に、受講開始日の前日から3年以内に教育訓練給付金の支給を受けたことがある場合、支給されない等の条件がある。
  • 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26 号)の概要」(令和6年5月10日成立)
  • 脚注2同様。
  • 厚生労働省「令和5年度能力開発基本調査」
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